現代秀句鑑賞
阿部静雄 代表作五十句
「越後雑唱」
春寒や僧あをあをと過ぎにけり
狛犬の耳の出て来し雪解かな
八方に山ある安堵種浸し
畦焼きのツバメ印の燐寸かな
抽出しのてきぱき開いて種物屋
遠足の穴あれば穴覗き行く
赤子ごと引きずつて来し花筵
ひと暴れして下ろされし鯉幟
凭りかかる柱のありし帰省かな
組み伏せて二人がかりや天瓜粉
上がらせて待たせて貰ふ夏座敷
羽抜鶏真つ赤な声を出しにけり
児を連れて産みに来てをり夏柳
蒟蒻に染む醤油の香祭来る
嫁の来て家が涼しくなりにけり
ごつと触れごつと離れて冷し瓜
思ひ出の皆こそばゆき跣かな
冷奴越後は水の濃くにほふ
豆腐やの喇叭の染みる青田かな
箱眼鏡尾鰭も脛もそよがせて
白靴も混じりて従兄弟はとこかな
籠枕水の流れる音のせり
鍋釜に妻の歳月燈涼し
物忘れなどは茶飯事花茄子
妻に釘刺されてをりぬ暑気払
父の日の出番もなしに終りけり
花南瓜手鍋一ツで嫁ぎ来し
子二人に即かず離れず蟾蜍
辛抱が母の口癖花めうが
家と家離れて睦み稲の花
縁づくと云ふ別れあり鳳仙花
盆太鼓山に当たつて戻りけり
屋号みな親しき名なりをみなめし
掛稲の声の行つたり来たりかな
蓮根掘農具のごとく脛洗ひ
懸大根紙飛行機のぶつかりぬ
干蒲団叩いて日暮れ早めけり
暗がりを母が出て来し雪蛍
村捨てぬ顔ぶればかり厄落
父母の深寝恐ろし雪の底
残り世は母の間近に煮大根
煤払ひ畳に仏寝かせあり
暮れかかる頃華やぎて雁木かな
家中の桶出してあり冬支度
冬の蜂紙の音して掃きださる
牡丹鍋無口になつて戻りけり
軒氷柱めでた仏がでてゆきぬ
故郷やものの形に雪積もり
織り糸に機嫌のありし機始
目隠しの中が真つ赤や福笑
「師に学ぶ」 阿部静雄
「俳句」五月号の中で先生は、こんなことを話されています。「今まで『母国』『知命』『天為』『耳順』『立志』と句集は五冊出した。平均四百句あったとして、二千句じゃないか。これじゃあ寂しい。せめて一万にしたい。だから、今度出す句集は五百句にしようと思っている。」と。
芭蕉さんは五十一年の生涯に九百八十句、子規は毎日作って二万五千句、蕪村が三千句、多作で知られる一茶が二万句と聞く。先生は百二十歳まで生きて、一万句の全句集を出したいと言う。「何とかなるでしょう。人間は百二十まで生きられるそうですから」と軽く言ってのける先生。
◇ ◇ ◇
「俳句はことばの構造体による詩(俳)の発生装置である」
これは、平井照敏のことば。
この度の新潟県中越地震で、この「詩(俳)の発生装置」が壊れてしまったらしく俳句が詠めないでいる。俳句上達の秘訣について虚子は、ただ一言 「おやめにならないこと」 と言ったそうだが、初心者のつもりで、ゼロから出直すしかないのだろう。
「妻がゐて夜長をいへりさう思ふ 森 澄雄」
ごてごてした、もってまわった句はいらない。平明単純でありながら、どこからか詩(俳)を発生させているこんな句が作りたい。
阿部静雄 略歴
昭和十年新潟生まれ。
昭和三十二年「花守」(目崎徳衛主宰)に入会。
平成四年「天為」創刊同人。
平成六年「第四十回角川俳句賞」受賞。
平成七年「第八回村上鬼城賞」受賞。
平成十二年「第二回俳句朝日賞」準賞受賞。
俳人協会会員・新潟県俳人協会幹事。