天為ネット句会 2008年2月
第1回天為ネット句会の結果がまとまりました。有馬主宰には、お忙しいところ選句を頂き、ありがとうございました。
皆さんからの熱心な選評は全て掲載しています。選評は今回は無記名としています。次回からは選評者名を明記する予定です。またこの中に主宰の選評はありません。
<有馬主宰選特選句> (点数は互選)
北窓を開けばフェルメールの光 福永法弘 4点
ややまだ固いシャープな春の光を感じます。
おしゃれな詩も窓から入ってきそう。
冴返る表紙の硬き字引かな 梶 倶認 4点
冴返ると硬い表紙が響き合っている。
中七下五の五つの i 音が、字引自体の持つ硬さを引き出して季語と上手く響き合っている。
表紙の硬い字引。冴返るとしたことで、表紙の質感、装丁までも想起できるような一句。
のの字のみ読める子どもと読みはじむ 日原 傳 3点
一緒に指で追いながら、「の」のところだけ一緒に声を出すのでしょうか。かわいらしい句です。
「のの字のみ」が楽しい音。知らないうちにひらがながどんどん読めるようになる子どもと一緒に本を読んだり歌留多をしたりするのは新鮮でおもしろい。読める音だけ声にだしている、そんな状況が目に浮かぶ。読み終わった頃には「に」とか「つ」とか読めるようになっていたりするかも、なんてそんなことも想像させる一句。
路地裏にかまくらの路地続きをり 五十嵐義知 2点
巡礼の鉦しづかなる四日かな 合原実世 1点
訪問客でにぎやかな三が日の後の、正月四日の静けさがうまく描かれていると思いました。類想句があるかもしれませんが、巡礼の鉦が聞こえてくる情景が印象的なのでいただきました。
たいらかなみほとけの背ナふゆざくら 宮下惠美子
ひとしきり笹に遊びて笹鳴けり 室 明
<有馬主宰選入選句>
初夢のつづきの手紙かもしれぬ 明隅礼子 6点
特別な相手からの手紙なのか、特別な内容の手紙なのか。よくわかりませんが、手紙に存在感がある。それを正月の非日常的気分につなげているところが面白いと思いました。
うれしい初夢をみた。期待感あふれる手紙が届いた高揚した気持ちの感じ。
初夢と意気込んでいても、しっぽ切れだったり、あれ?起きた途端に結末を忘れてしまったり。初夢ならなおさら、夢の続きを知りたいと思うのは人間の性のような。手紙を開ける瞬間のワクワク感と、まさか夢の続きだったらとドキドキする感じがこの句の引き込まれるところ。
なんとも歯切れの悪い、尻切れとんぼなところで目が覚めてしまった初夢。よく知った人、あるいは少々やっかいな関係になりつつある、長い付き合いの恋人か誰かが出てきたのかもしれない。そこへ偶然にも本人からの封筒に入った手紙が届く。手に感じるその封筒の重みが、不安な成り行きを暗示しているかのようである。
隼の飛び込んでくる双眼鏡 上川美絵 5点
急接近してくる緊迫感あり。
海の藻を手に童神とんど待つ 岸田 晶 3点
沖縄のとんど焼きですか。童神のキャラクターが新しい。
国引きの浜でとんどさんをする。子供たちは冷たい風にさらされながら元気に走り回わっている。燃え上がる炎には、墨文字が舞っているといいなぁ。臨場感のある句。
一つのとんどの世界として描写が巧い。火を待つときのしずけさが「海の藻」によって伝わる。
枯芝を転がつてゆく茹卵 榊 倫代 3点
お弁当のゆで卵でしょうか。つるんと剥けた卵は、おむすびよりも鮮やかに転がってゆくのでしょう。今回、一番景の見えた句です。
茹卵に付着してゆく枯芝により、茹卵独特の質感がリアルに伝わる。
一群の外套行きて喪の匂ひ 深谷義紀 2点
曇り空の下、三々五々と静かな黒い服の人々が教会の坂を下ってくる。そんな光景を思いました。「匂ひ」という表現が広がりを生んだのでは。
「喪の匂ひ」で男性の黒いオーバーの背中がはっきり見えます。
アトリエに動くものなし寒の雨 内村恭子 2点
セーターの首を抜けたる人を見る 対馬康子 2点
見たことのある景を上手く切り取っていると思いました。愉快。
もう出かけるから話は後で、と言ってぞんざいにセーターを着て、ぽん、と首が。深刻な話だったかもしれないのに、俳諧味のあるシーンに変身。
寒林の見通しの良き書斎かな 内村恭子 2点
すっきりした思考には寒林の空気とパースペクティブがいちばん。
寒林と書斎の取り合わせが、聡明な人物の姿を想起させる。
きさらぎの水に日の絢風の綾 立久井昌子 1点
早春の小川の様子が「日の絢風の綾」というリフレインで上手く表現されている。
冴返る黒鍵ばかり弾かさるる 上川紗央里 1点
アトリエに未完の画布や冴え返る 熊谷佳久子 1点
谷戸に響ける雪折れやまた一つ 天野小石
雪の朝見知らぬ猫とすれちがふ 明隅礼子
人形に父母の面影日脚伸ぶ 山田節予
やらはれし鬼が逃げ込む警察署 深谷義紀
束の間の猫の恋とて月の照る 榊 睦子
二階の子駆けまはりたるお正月 合原実世
俳優の発声練習山笑ふ 手銭 誠
故郷の夜は母の形見のチャンチャンコ 森田みちほ
千年のベストセラーや読始 土屋 尚
天へ組む足場や佐保姫ひと休み 佐怒賀正美
静心あり冬木の芽数へをり 佐藤至子
<互選句>
春風に僕のかたちの肌着かな 竹内宗一郎 5点
体になじんできた肌着を「僕のかたち」と表現したところに肌着への愛着が感じられます。その気分と「春風」がよく合っていると思いました。
春風と僕の分身のような肌着が遊んでいるように干されている。素直な感覚で春の喜びを詠んでいる。
着ているうちにその人の体型に添ったかたちになってしまう下着。そんな下着が洗濯されて、春の微風に揺れている。作者は自分の分身のような思いでそれを眺めている。明るくのどかな春のひととき。
なんとなく自分のことのようで親近感がもてる。
膝掛けは縞馬の縞大試験 佐藤至子 4点
素材の面白さ。
痛快な作品。諧謔味に溢れている。確実に試験に落ちそうな気がしてならない。
スケートのコーナー遠嶺を振り切つて 山田節予 4点
若々しさ、力強さが「振り切つて」に感じられる。近い景色でなく、遠嶺が生きている。
「を」は省略可能か?
湖のスケート場で、スピードにのって遠嶺に向ったあと、そのスピードのままコーナーを曲がった様子が「振り切つて」によってよくわかります。
1972年札幌。スピードスケート500m元世界記録保持者の鈴木恵一は選手としてのピークを過ぎていた。彼は現役最後のレースをオリンピックに選んだ。彼が現役最後の第4コーナーに差し掛かったとき、テレビ中継のアナウンサーが叫んだ。「見てください、世界最高のコーナリングを!」彼は遠い雪山を振り切るように加速していった。
右利きと思ふ鱈場蟹(たらば)の鋏喰ふ 熊谷佳久子 3点
右の鋏が大きいのでしょう。その大きいほうに喰らいつく。滑稽味。
蟹は殻から身を出すのが大変。どうせならたくさん身の入っているところを選んで食べたい。おいしそうに膨らむ鋏を選んだ作者が、それを右利きだと踏んだところが面白い。そんなことを考えながらほくそ笑んで食べている情景がありありと見えてくる一句。
たらちねのははのうたたねシクラメン 宮下惠美子 3点
ひらがな表記とシクラメンの色により、「はは」の夢見心地が表現されている。
子の部屋のひとつ空つぽ春の雪 立久井昌子 3点
巣立っていった子への淋しさと同時に抱く安堵感が季語「春の雪」に合っている。
子供たちが成長し巣立って行く。淋しさもあるが、一人立ちする嬉しさも感じられる。春の雪は積らずに直ぐに溶けていく、心の淋しさもすぐ癒され、子供たちの新しい未来の幸せも感じられる句。
空っぽの部屋のがらんとした明るさと寂しさを思いました。子どもの巣立ちを寿ぐように、春の雪が柔らかです。
王様は裸で菠薐草を食ふ 手銭 誠 2点
不条理の美。
頭には王冠、裸でホウレン草を食べる王様がシニカル。ほうれん草がリアリティを持たせた。
末裔の町長多し粥柱 対馬康子 2点
はすかいからの視線に対し、季語がうまく働いている。
粥柱は粥の中に入っているもち。色々意見があると思うが、私にとっては、蛇足なもののように思われる。長い任期の町長との配合に絶妙なイロニーを感ずる。
大寒やビルの建つ地に深き穴 土屋香誉子 2点
日常見ることのない風景にふと出くわした。これから大きなビルが建つであろう土地に、そのための大きな穴が穿たれているのである。理屈で考えれば、相当の高さになる建物を支えるために地下に大きな穴を掘るのは当然なのではあるが、地面に掘られた大穴は人をぎょっとさせる。そんな大穴に落ち込んで出られなくなったり、生き埋めになったりすることをつい想像してしまう。穴の中のまだセメントで固められていない土はいったいどんな感触だろうか。じっと冷たく凍った穴を眺めているのである。
寒風の吹く大寒の頃が思い起こされる。「深き穴」と「大寒」の二者が巧みに融合している。
靴擦れの沖に雪降る砂丘かな 竹内宗一郎 2点
取り合わせに妙あり。沖に「海」では平凡だが、「砂の海」であるところに工夫あり。
嫁が君にならむと走りぬける路地 日原 傳 2点
三が日だけは、美称をたまわる鼠。私も奥方様と呼ばれてみたい。鼠も嫁が君と呼ばれたくて路地を走りぬけてやって来たのかもしれない。
御礼の笹鳴ひとつ撒き餌食む 土屋香誉子 以下1点
まじなひで冬青空となりにけり 和佐尚子
幼い子は「天気になーれ」と何でもない広告紙で作った剣を振り回し、魔法使いにでもなったつもりでおまじないをする。そんな様子が浮かんでくる。寒さに負けず外で遊びたい一心の元気な子供たちに早くあたたかい春がくるといい。
春や沈むなと目覚しの青き音 佐怒賀正美
春そのものに、沈まずに早く目覚めてほしいのか。または、春になってどうしてかわからないが沈みがちになってしまう自分自身に、沈むなと励ましているのか。そう、春はいのちが再び活動を始める季節だが、気分が沈みがちになる季節でもあるのだ。新鮮な空気をおもいきり深呼吸して、どこまでも飛んでいけそうだが、同時にもろく壊れやすい我が身が、春のエネルギー大移動に圧倒されてしまう。待ち望んだ季節、しかし波乱をも含みつつ。期待のなかに不安が少し混じった春を感じる。
寒き日を数ふる女坂の階 内村恭子
立春を過ぎたというのに寒い日が続いている。寒い日には神社は女坂から登るに限る。男坂は急な分日陰になりやすい。登って体が温まる前に息が切れてしまう。女坂を一段一段登りながら、作者は「この寒さ何時まで続くのだろう」と考えている。しかし寒さを嫌がってはおらず、季節を楽しんでいる。登りきればそこには梅が咲き始めている。そこは天神様だから。
ほのかなる眩暈に揺るる冬牡丹 橋本有史
ひきしまる寒さの中で芳醇を抱いてゆるびゆく冬牡丹。香りの気配に思わず顔を近づければ、花と一つになった忘我の瞬間があります。耐えつつゆるびてゆく花の気高さに魅せられた一刻をおもいました
大比叡より初明り京ひたす 森田みちほ
オリオン座踵と髭と冴返る 梶 倶認
具体的に踵と髭と表現したところが良かった。
伝説の虚実のあはひ春兆す 榊 睦子
豆を煮る雪降りやまず解けやまず 対馬康子
ゆったりと流れ行く時間。暖かな台所の景が浮かびます。
雪吊りの弦の奏づる雪の歌 室 明
花の色蕾の色や冬薔薇 日原 傳
泣きながら追分を聞く初夢に 西村我尼吾
二時間ドラマに匹敵。
売り声の下に鎮座の福だるま 立久井昌子
大きな声でだるまを売っている。売られているだるまはなにもすることはできない。博打の花札で、負けて箱の札が無くなるとだるまの札を箱に入れる習慣があるらしい。手も足も出ない、という意味である。そんなだるまの滑稽さが良く出ている。それにしてもだるまは可愛そうだ。誰に買われたかも判らない、少なくとも片目を入れてもらえるまでは。
水仙や沖へ段々行く潮目 梶 倶認
漣の彩刻々と見張り鴨 岸田 晶
水面の変化と見張り鴨の心中が響き合っている。
黙々と地球に帰りきたる雪 和佐尚子
消防団出てどんどの火鎮めけり 土屋 尚
春立てる耳の蝸牛を思ひけり 榊 倫代
春の訪れに五官は敏感に反応する。作者はとりわけ聴覚の鋭い人なのだろう。内耳の蝸はかたつむりの形をした、神経や血管を含む複雑な器官。春の足音に耳のかたつむりも目覚めたに違いない、と空想するのも楽しい。
娘(こ)が買ひしシルクの蒲団空を飛ぶ 西村我尼吾
発想が愉快。シルクのかろやかさがいかにも。
冬の果てグラスワインに灯の暗き 窪田治美
篁の雪に撓ふをくぐり行く 天野小石
雪の竹林の静けさが感じられました。
土公神へいよいよ小さき鏡餅 池永 寛
寒月に一人踊つてみせませう 宮下千代
到達した境地。