天為インターネット句会 2008年3月
<有馬主宰選特選句> (点数は互選)
ポケットに異国の小銭ある四温 内村恭子 6点
何かいいことがありそうでうきうきしてしまう。(晶)
日本へ持ち帰へっても円にチエンジできないコインを空港の免税店でキャンデイやチョコレートを買ったりしても,いくらか残ってしまいますね。私の心にも、むずむずと旅を恋ふ虫が動きだしました。(久子)
そぞろ神に憑かれる陽気。(繪里子)
異国旅行中の楽しさ、あるいは帰国後に小銭を見つけて思い出にひたっているのかもしれない。ほのかな楽しい気持ちに、「四温」が利いている。(至子)
みづうみを溢れてきたる春の水 仙田洋子 6点
いつもは静かな湖が春の訪れとともに見せる力強さを感じます。(実世)
ぬるむ小川の水を手のひらにすくった。嶺の雪も解けはじめ森の奥の湖をあふれさせた。この水はやがて河にながれ、海に向かう。(茂喜)
水辺の春の風景が想いおこされます。溢れてきた水を「春の水」といったところが良いと思いました。(義知)
春の水とはどんな水だろう。長谷川櫂に言わせれば「濡れている水」らしい。凍解の地から湧く水かもしれないし、明るい光に融けた氷柱から落ちてきたもの、また春の日に暖められ動き出した水面かもしれない。いずれにせよ、冬の水より柔らかく、明るく、香りがありそしてなにより動いているものであることには間違いない。この句は、何も言っていない句である。単に溢れてきた、としか言っていないがその何気ない言葉の中に春の水の躍動感、光が強く印象付けられる。近くの公園へ春の水を見に行きたくなった。(有史)
春の水が、まるで意思を持って溢れてきたかのよう。(倫代)
ひとりづつ消え涅槃図に釈迦一人 福永法弘 5点
弟子たちはお釈迦様の入滅を大いに嘆き悲しむが、その後は? 俳味あり。(義紀)
ひとしきり嘆き悲しんで、でも生者は日常生活に戻っていく。お葬式ってそういうものだなと妙に納得させられました。お釈迦様はすべて達観された境地にいらっしゃるわけですからお許し下さいますね。(ゆかり)
涅槃図を通して、人は皆老いてゆくにつれ身近な人々をも失ってゆくという哀れさ。(節予)
卒業子あつけらかんと出てゆけり 芥ゆかり 2点
本当にこの頃の学生は「あつけらかんと」いなくなります。作者の「まーしゃーないか」というお気持ちが感じられました。(香誉子)
最近の子供は、意外にクール。泣いているのは親と先生だったりして…。「あつけらかん」に妙に共感できた。(由起子)
漢の倭の邪馬台国も朧かな 深谷義紀 2点
はるか邪馬台国に思いを馳せた。季語の朧とあっていると思う。(那智子)
佐賀の吉野ヶ里遺跡でしょうか?弥生時代、つまり邪馬台国にまぼろしの卑弥呼が佇っていたような幻想にとらわれました。読者に想像の余韻が広がっていく句。因みに(漢の倭)とは?魏志倭人伝によると漢倭奴国と読んで博多{那の津}港付近にあった国だという説があるそうです。(久子)
白菜の一つ一つに月の影 西沢けい子 2点
畑に並ぶ白菜の存在感があります。(市康子)
見事な白菜。名句という他ない。(我尼吾)
蕗の薹ごろごろと出てくる鞄 日原 傳 1点
「ごろごろと出てくる」という描写が春到来のよろこびを感じさせる。(誠)
雪女郎影踏み遊びせむと言ふ 仙田洋子 1点
「雪女」を和英辞典で引けば英語では「snow fairy」、fairyとは妖精であり踊りやいたずらが好きでしばしば人間には好意的と書かれている。魔物を追い吹雪の山に入って倒れた王子を助ける、そんなディズニーの映画に出てきそうな妖精らしい。一方歳時記で雪女は「雪国の伝説にある妖怪・・(中略)・・秋田地方ではその顔を見ると祟られるといい、常磐地方では背を向けると谷間に突き落とされるという」と書かれている。これは大変な違いだ。日本で雪女は怖がられそして孤独な存在である。影踏み遊びはお互いの影を踏み合うものであるから一人では出来ない。雪女は実は妖精のように、人間に愛されそして一緒に遊びあうそんな存在になりたいのである。そうは言っても雪深い一灯の下で雪女に出会ったら影踏み遊びをする余裕を私は持ち合わせない。(有史)
床に伏す操り木偶や梅若忌 橋本有史 1点
葺替へを書き足す江戸の普請帳 山田節予
<有馬主宰選入選句>
人体に隙間のありて春埃 佐藤至子 6点
冬はちぢこまっていた身体。春、花粉や埃に悩まされるようになって。「隙間」という言葉がのどかな春を感じさせます。(恭子)
「人体の隙間」、この感覚は見事だと思いました。春埃が効いています。(宗一郎)
人体は隙間だらけといえばいえるかも 埃も生き延びる春です。(久丹子)
「人体に隙間がある」という表現が面白いです。鼻や耳の穴もですがあばら骨の隙間にも春の埃が積もっているかもしれませんね。(ゆかり)
裏山のしんとしてゐる春障子 仙田洋子 4点
春まだ浅いひと日。普段使わない座敷も冷えびえとして。畳、障子、裏山、日差し、と遠近法のように景が見える句です。(恭子)
柔らかな日差しを透かしている障子のその向うにある山にも静かに春が訪れている。静謐さが美しい句。(対康子)
黄沙降るマスカラ長き睫かな 小高久丹子 3点
黄沙とマスカラの取合せの意外さに拍手。正確にはマスカラではなくて睫毛が長いのでしょうが。(洋子)
若者はマスカラをつけて長い睫をして都会を闊歩している。長い睫の異国の女性に憧れてマスカラをつけているのだ。「黄沙降る」がそんな雰囲気を後押ししているとともに、都会の乾いた感じをも表現している。(寛)
日溜りの中に産声百千鳥 中田朗子 2点
出産を百千鳥が祝福しているような。日溜りが効いている。(芳生)
赤ちゃんの誕生を小鳥が囃している。春らしさを感じた。(那智子)
冴返る闇夜へ五体投地かな 芥ゆかり 2点
修行の困難さと僧侶への敬意がでている。(瑞子)
箱書きは父の角文字雛飾る 松崎邦子 2点
けんくわして風の子となる雛の客 榊 睦子 1点
喧嘩して外へ飛び出して行ったのでしょう、幼子たちの声や表情までまで浮かんできます。(けい子)
目瞑りてぬるき雁風呂波の音 深谷義紀 1点
目瞑るの視覚、ぬるきの触覚、波の音の聴覚と、五感のうちの3つ を一句に詠みこんだ試みに一点。(法弘)
春灯や唇よく光る女面 吉田久子 1点
色気あり。(法弘)
雛の夜や固まつてゆくヨーグルト 米田清文 1点
瑕疵の無き机を並べ大試験 土屋香誉子 1点
風車吹くラマンチャの徴税吏 福永法弘 1点
みづいろの猫車立て春の宮 合原実世 1点
猫車のお仕事モード、お宮は春の始動でしょうか ポップな色のハーモニーです。(久丹子)
獺祭やビーガン用の機内食 青柳 飛
縄とびの大波小波百千鳥 妹尾茂喜
雪霏霏と白兎の波の逆巻けり 岸田 晶
母国てふ湿りしものや蕨餅 宮下惠美子
春炬燵てんでにパズル解いてゐる 三雲繪里子
ものの芽の殖ゆる校舎よさようなら 合原実世
青き火を放ち消えゆく雪女 内藤芳生
音もなく鉛筆回す大試験 佐藤至子
お手玉を縫うて母子の日永かな 榊 睦子
生ひ初むる水草潤みし嬰児の眼 室 明
<互選句>
軽きもの指より零れひひなの日 小川 洋 4点
零れたのは雛あられだろうか。情景が見える。(那智子)
お雛様のものは、確かに皆軽い。雛菓子や雛道具など具体的に言わずに「軽きもの」としているところが、かえって情景を想像させて巧い。(至子)
指から零れたのは、多分雛あられだろうが、あえて具象ではなく抽象化したところに「ひひなの日」のあわれを感ずる。(由起子)
日頃働きづめの手が、軽いものの“軽さ”を楽しむことができるのは雛の日なればこそのこと。作者の華やいだ気持ちが感じられる。また、指から零れる桃の花びらや雛あられなどの繊細な美しさが目に浮かぶ。(睦子)
雛壇のうるしの匂ふ雨夜かな 甲斐由起子 4点
新しい雛壇でしょう。子供達は眠りについて、おばあさまが一人で雛の部屋の後片付けをしている様子が見えてきました。(香誉子)
一人娘はもう寝入ったのか。明日は雛を飾ってやろうと箱をひらいてゆく夫婦の笑顔。やわらかであたたかい。(茂喜)
しっとりとした静かな夜の様子が伝わってきます。(市康子)
昼間の賑やかさが嘘のような雛の間。雨夜に漂う漆の香が一層静けさを深めている。(明)
うららかやパジャマのままでランドセル 上川紗央里 4点
幸せな気分になる句。カタカナが多いのも、この句の軽く明るい雰囲気にぴったり。(洋子)
白魚の向きを等しく盛られけり 橋本有史 4点
白魚の綺麗な姿が浮かびます。板長のこだわりか、端正な逸品。(宗一郎)
高級料亭でしょうか?小さい白魚を揃えるのは大変でしょうね。(瑞子)
盛り付けられた白魚の貌が想像でき、俳味を感じます。(けい子)
パスワード弾かれてゐる余寒かな 芥ゆかり 4点
乾きたる田の色をして初蛙 日原 傳 4点
少し肌寒いのに出てきてしまった初蛙。乾いているのは、「田」なのだけれど、乾いた「目」で全身田の土の色をして呆然としている蛙の滑稽な感じが素敵です。(寛)
猫の子は大福餅のやはらかさ 内村恭子 3点
大福餅という比喩の意外さに驚いた。(洋子)
結納の固き結び目木の芽吹く 上川美絵 3点
盲導犬一歩を先に青き踏む 小川 洋 3点
盲導犬を詠みつつ、導かれる飼主も青草の感触と香りを楽しんでいるであろうと想像させられる優しい春の句です。(ゆかり)
一人と一匹の前に広がる野原。初めの一歩は忠実な犬の特権ですね。(市康子)
なにげなく詠まれていて盲導犬のお役目がうまく表現されていると思います。(けい子)
おばちやんの焼きそばパンを卒業す 小川 洋 3点
卒業によって別れるのは、先生や友達、校舎だけではない。学校の傍のパン屋のおばちゃんの焼きそばパンもその一つ。勿論、おばちゃんその人も。一抹の寂しさはあるけれど、新しい出会いが待ち構えていることを予感させる明るい句である。(睦子)
土壁に影の梯子やいぬふぐり 宮下惠美子 3点
取り合わせの良さ。いぬふぐりが効いていると思いました。(洋)
早春の景が陰影深く表現されていると思う。(瑞子)
雪原を射る星の矢の迅さかな 天野小石 3点
景の大きな美しい句と思います。(洋)
鋭い冷気を感じます。(芳彦)
流星の動きだけが眼前にあり、無の世界の広がりを感じました。(節予)
フランシス・レイ流れくる雪の窓 天野小石 2点
1970年代のスキー場など思い出してしまった。フランシス・レイの音楽に雪は合う。(宗一郎)
石像の肩ひかりたる四温かな 五十嵐義知 2点
冷たさと柔らかさが微妙に溶け合う四温、石の感触と明るさが伝わってくるようです。(久丹子)
流氷沖へ去る一塊も残さずに 福永法弘 2点
海を白く覆い尽した流氷が緩み始め、やがて青い北の海が姿を現す。冒頭に「流氷沖へ去る」としたことで、春を待ちわびた思いが強く感じられます。(義知)
季語となっているものには終わりがある。「紅葉はもう終わり」「お正月はもう終わり」などと言うが、終わり方は夫々、大体のものはゆっくり終わっていく。潔く終わると思われる桜でさえ、蘂となったころにも数輪は咲いていたりするが「流氷」の終わり方は実にきっぱりとしている。この句にあるように、流氷はある日一塊も無く去ってしまい、「沖のあちらこちらにまだ少し残っている」などという終わり方はしない。流氷が去った後は、ただただ荒涼としたオホーツク海が広がるのみであり、この句にはそのような海の景をはっきり見せる迫力があり雄大さがある。「沖」という大きな景と「一塊」という小さな景の対比が大きさを引き出していることは言うまでもない。オホーツクの大景が浮かぶ見事な句である。(有史)
春の雪のせて列車は夜をゆけり 明隅礼子 2点
静かで懐かしい風景。これから夜明けと春を迎える喜びを秘めた句です。(実世)
「夜をゆけり」がいい。浅春の夜汽車が夜の闇をひた走る感じがよく出ている。(由起子)
桐箱を逆さに探す雛の太刀 松崎邦子 2点
うすらひのこはれて光ちりぢりに 明隅礼子 2点
はかない薄氷のうつくしさが中七下五でうまく表現されている。(明)
壊れることによって生まれる美しさを思いました。(倫代)
水の都の賑やかな蜃気楼 竹内宗一郎 2点
水と蜃気楼のゆらめきを「賑やか」と言ったところがおもしろい。(誠)
薄氷に月の笑窪の映りをり 青柳 飛 2点
言われてみると、月の笑窪が見えてくるような気がする。夜の静けさと明るさが見える。(明)
恋終へてやさしき猫に戻りけり 吉田久子 2点
十字路に重なる闇の冴返る 内村恭子 2点
『闇が重なる』と見たところが面白いと思いました。(洋)
料峭や配管工の赤きシャツ 市川康子 2点
黙々と働く配管工のシャツの赤を詠んだことで、風の冷たさが際立った。(義紀)
石垣の石のぬくみや犬ふぐり 荒木那智子 2点
犬ふぐりの生えている石垣に温みを見出したのがお手柄。(芳生)
伏せて目を合はさぬ女雛男雛かな 甲斐由起子 2点
「恋人同士の時は互いを見つめ合うけれど、結婚後は同じ方向を向いて立つ」とは結婚式の祝辞で聞いた言葉。お雛様が揃って前を向いていることを当たり前と思っていた。当たり前のことを、もう一度見直すところに詩や物語が生まれることを、この句は示している。(睦子)
方丈の真中に移す春火鉢 山田節予 2点
なぜ移すの? と思わせる巧みさあり。(法弘)
春になってもまだ寒い広々とした方丈の空気がよく伝わる。(誠)
睡蓮の芽立ち水面に楔文字 武藤スエ子 以下1点
鋭い観察眼と、具体的な楔文字という形への飛躍が確りしていると思います。(節予)
煎り胡麻のはねて三つ四つ春近し 吉田久子
待春のはずみ心。(繪里子)
どの家もかつて大声鬼やらひ 西沢けい子
毎年うちでも豆まきをするが、マンションのため、小さな声で「鬼は外、福はうち」とつぶやくように豆をまいている。そういえば、昔はどの家も大きな声で豆まきをしていた。そんなことを思い出せる懐かしい句。(寛)
枡形に阿鼻叫喚や猫の恋 三宮隆宏
猫が「四つどもえ」になって騒いでいるのを「枡形」「阿鼻叫喚」としたところが面白かった。(至子)
逃水に浮き沈みせる沃野かな 手銭 誠
凶作に苦しめられてきた歴史はそう遠いものでない筈。稔りの豊かさを求めてもはかない。まるで逃げ水のように。(義紀)
白梅の盛りをひそと屋敷畑 山田節予
雪解や杭八方に傾きて 荒木那智子
雪解で現れた何本もの杭がどれも傾いている。豪雪地帯の雪の重みがよくわかります。(香誉子)
深閑と羅漢百体春寒し 熊谷佳久子
徳利より一滴二滴三鬼の忌 橋本有史
少々自堕落な手酌の姿が目に浮かびます。リズムも楽しく、三鬼の忌にちょっと場末なハードボイルド感がぴったり。(恭子)
料峭や二神二獣の鏡の世 対馬康子
すみれ野に朽木仏とまみえけり 榊 睦子
じやあまたといひ春灯の街に消ゆ 市川康子
映画の背景としてふさわしい詩的幻想に彩られていて!甘く切なく過ぎ去りし青春を想ひ出させてくれました。(久子)
七色の風船放つ誕生日 中田朗子
風船が放たれたのは、偶然だったのかもしれません。それでも空の明るさまでも感じさせる素敵な誕生日の句です。(実世)
円柱に刻むトロイア春の星 松山芳彦
牛乳に魅惑の白さ山笑ふ 米田清文
黒鞄に春の日差しの黒さかな 手銭 誠
日差しの黒と黒鞄の黒、本来あるものとないものとを詩の力で結びつけた。(我尼吾)
縞馬の縞をななめに春雨かな 木場瑞子
動物園での句でしょうか。あたたかさと柔らかさの感じられる句です。(倫代)
春めくや風の色みて選ぶ靴 森田みちほ
だれかに逢うときめき。草萌の風のなか、靴の色を決めかねている。空の青か、梅の紅か、それとも新しく買った白か。思わず頬がゆるむ。(茂喜)
記念日を一つ増やして草萌ゆる 上川紗央里
抑えても抑えきれない、これ以上真摯という他ない人柄が滲み出ている。(我尼吾)
空き箱にボタンいろいろ雛祭 榊 倫代
神鏡へとほききざはし冴返る 池永 寛
神鏡への思いが遠くはてない。(晶)
尾根道の風にたぢろぐ探梅行 土屋 尚
白梅の今年の枝の真青なる 土屋香誉子
同じように見える梅林の枝にも時間が流れているということに、はっとした。(対康子)
朧なる月もてふさぐ笛の孔 対馬康子
想像力がうれしい句。(晶)
春の雲溶けてしまひし青さかな 西村我尼吾
雲が溶けて青になるという断定が意外と斬新。(対康子)