天為インターネット句会 2008年5月


  <有馬主宰選特選句>                           (互選)

  オキーフの骨白々と夏来る                    内村恭子   4点

乾いた明るさ 湿り気を吸い取るようなオキーフのモチーフ オキーフが来ると夏もつられてやって来るようです。(久丹子)

サンタフェの乾いた空気、まぶしい日差しを連想させて、骨白々と立夏が絶妙と思いました。(ゆかり)

  天平の玻璃の水差し五月来る         立久井昌子  4点

唐様式の美術品でしょうか。ものを詠んでいて大陸の大らかさを感じる句でした。(ゆかり)

  クメールの女身の柱瑠璃蜥蜴         河村うら子  4点

前期クメール美術の大寺院アンコールワットや大宮殿アンコール、トムなどクメール遺跡でしょうか?その柱に刻まれた女身像に瑠璃とかげが這っていたのでしょう。作者は恐らく、過ってのカンボジア内戦など、刻の経過に一抹の寂しさを感じられた事でしょう。(久子)

 遺跡には、蜥蜴がよく似合う。9〜13世紀に最盛期を迎えたカンボジアのクメール王国の女身の柱に、瑠璃蜥蜴が現れた様子が、よく描かれている。(佳久子)

 アンコールワットの遺跡でしょうか。美しい女身に瑠璃蜥蜴が妖しい雰囲気を添えています。(明)

  大山祗神(おほやまつみ)の水満々と種浸す          上川美絵   3点

たっぷりの自然の恵みに明るい季節への期待感が溢れていると思いました。(康子)

  母遺す聖書にすみれ栞られて         大山由美子  1点

  防人の妻恋ふ峠雲雀東風                 松村三冬

  猪口令糖包む銀紙昭和の日          三雲繪里子

 

  <有馬主宰選入選句>

  蟻が好き蟻の巣が好きランドセル       榊 倫代   7点

  下校時ランドセルを置いて蟻の観察をしている子供が生き生きと見える。(芳生)

蟻の巣の中に入ってしまって大冒険ってお話あったなあ、、、こういう子は末は科学者か文学者かな?(游)

穴から出てくる。遠くから虫の羽を運んでくる。とどまることのない働き蟻の黒い列。注目する子の青いランドセルが傾く。学校帰り、10分の道のりも1時間になる。虫博士万歳。(茂喜)

帰り道は毎日歩く道なのにすごく楽しかったなぁと思います。そうそう蟻も覗いていました。(紗央里)

  桜蘂降り新しき書の馴染む          市川康子   4点

  浮き立つような花の日々も終わり、やっと落ち着いて書の中に入り込んでらっしゃるのでしょうか?(游)

新しい書に馴染むには「なじんでいく時間の経過」があり、「桜蘂降る」には桜が散り、はや蘂となり降っているという桜にかかる時の経過をいつくしむ思いがあり、その「時間の経過」という共通項がこの句のとりあわせを成立させているかと思われました。(清文)

四月からの真新しい教科書。線を引いたり、書き込んだり、同じ本に所有者の個性が出てくるのは面白いものです。桜蘂が効いています。(恭子)

  修司忌や鉄砲玉として叔父は         澤田和弥   2点

ドラマを孕んでいるところに魅力を感じた。(至子)

「仁義なき戦い」には必ず鉄砲玉が出てくる。大物を道ずれにする。詩歌の伝統に挑戦した修司忌とあっている。(我尼吾)

  自画像のモディリアーニや春惜しむ      蛭川晶代   2点

哀愁を帯びた自画像に御自身の人生を重ね合わせ、春を惜んで居られるのですか。小生も同感です。(芳彦)

歪むような不思議な気持。(晶)

  石棺に鎌研ぎの跡苜蓿            松崎邦子   2点

  高梁の老舗駄菓子屋燕来る          室  明   1点

  岡山県吉備高原にある小さな城下町高梁にも、稜線を越えてくる燕の通い路がある。代々の菓子屋の軒先に今年も子らの視線が集まり、歓声があがる。優しい時間の流れ。(茂喜)

  つばくらめモンサンミッシェルの潮暦          三宮隆宏   1点

潮暦がつばめの爽快な旅を連想させる。(晶)

  ちちははの大正昭和かげろへり        西沢けい子  1点

いつしか「大正」も「昭和」も遠く感ぜられるようになった。「降る雪や明治は遠くなりにけり 草田男」を踏まえ、その後を詠んだ作と言えよう。(傳)

  遠つ世の反り橋暮るる白菖蒲         天野小石   1点

  江戸の世から今に伝わる名所の菖蒲園か。人影もまばらになり、やがて人と花をつなぐ橋を夕靄が包む。花菖蒲の紫の花びらは沈み、白い花びらがやわらかくただよう。(茂喜)

  紅牡丹ラストエンペラーの幼き日        齊藤昭信

  止まりゐる振り子の時計昭和の日       荒木那智子

  雲雀野となりし七堂伽藍跡          松崎邦子

  墳を抱く入江あけぼの雉の声         森田みちほ

  アルプスの白き山脈復活祭          根岸三恵子

 

  <互選句>

  たかんなの仏のかたちして生るる       津久井紀代  7点

  ひらがなのなめらかさが良いと思います。(由美子)

道端の道祖神(これは仏ではありませんが)や地蔵のような、素朴な形の仏像を思いました。(倫代)

よそゆきを着てふらここの大きな弧      立久井昌子  6点

入学式の帰りだろうか。「よそゆき」しか記していないが、子供の弾けるような高揚感、又よそゆきを汚されそうでちょっと困ったような父母の顔まで想像させて上手い。(洋)

カ音の響きが心地よく感じられます。 (三冬)

おめかししたのにデートに振られて弧は孤かも。やけになって漕ぐと危ないよ。(うら子)

よそゆきを着た子どもの楽しげな様子が浮かぶ。(至子)

子供は遊びが好き。いつもは遊びに適した服装をしている。が、「よそゆき」を着なくてはならない時もある。お受験の面接、といったところだろう。そのような堅苦しい行事が終わった後の開放感が「大きな弧」として見事に表現されている。(有史)

曲がり角あるはず朧夜のポスト        市川康子   6点

異次元の世界へ迷い込んでしまったのかも。ポストが口を利き出したりして。(法弘)

街路樹の青葉が日暮れの風にしっとりと揺れて、何故か、心が軽くなるような、そんな時、あれっ?この辺にポストがあった筈、と、うっかり錯覚する事がある。「あるはず」のレトリックに徂春の心を良く捉えて、雰囲気を持った作品です。(久子)

あるはずの曲がり角は、本当にあるのか?あったとしたら、どこへつながっていくのか?朧夜の赤いポストが不安を駆り立てる。(誠)

なんてやわらかい情景の描写なんだろう、素敵な俳句だと思います。(紗央里)

  墨色を試す一筆昭和の日                   満井久子   5点

  上五中七が祝日の日常を静かに物語っているようで佳いと思いました。(宗一郎)

墨色を試すという静かな行為と昭和の激動でありながらすでに歴史という物語になってしまった時代との対比が美しいと思いました。(和弥)

  遠足の子が顔を出す天守閣          竹内宗一郎  5点

  天守閣の意外性が俳句をおもしろくしている。(紀代)

顔を出したのが天守閣だったのがいいです。その昔天下取りを夢見た少年と同じ目線で遠足の子にも大志を抱いてほしいものです。(ゆかり)

顔を出しているのは一人ではない。遠足に来たたくさんの子どもたちが、あちこちから顔を出している。その顔はみな笑顔だ。天守閣の上に拡がる澄み切った空の青さまでも感じられる晴れやかな句である。(寛)

  顔を出したのが天守閣であるところが、面白いです。ありそうでいて、あまり見たことがない。(倫代)

  蚊を打つて初対面とはいへぬ距離       山田節予   5点

こんなに吸ってなど言いながら少し後ずさりしたりして おかし。(久丹子)

さらっとして、艶っぽい雰囲気。(晶代)

せっかくいい場面をお膳立てしてくれた蚊を打っては罰が当たるよ。(うら子)

飴色のやうな気がする虹の先         上川紗央里  5点

七色のほかに飴色という色がありましたか。お手柄の発見。(法弘)

納得を生み出す、感覚の鋭さ。そう言われれば、確かにそんな気がしてきます。(宗一郎)

甘えん坊のあなた。今は幸なのですね!(芳彦)

そういわれればそんな気も・・・。飴色に変化した虹が滴っていそうです。(康子)

走り出す前のだんまり油虫           橋本有史   5点

上五中七は自分の感情表現の極の嫌いと思います。(眞吾)

ゴキブリは鳴かない。(鳴けばまだかわいいものを)息をつめて丸めた新聞紙を片手にだんまりしているのは作者である。いざ勝負!作者の緊張感が伝わる滑稽な句である。(寛)

ゴキブリの生態をよく知っていて、なおそれを憎めない作者まで見えてきて、おもしろい句。(瑞子)

目借時サンドイッチの反り返り        芥ゆかり   4点

春もたけなわとなって、空気が乾いてくる頃の感じがよく出ている。(那智子)

目借時の句では様々なことが起こりますが、サンドイッチがひからびてしまったとは。思わずクスリ。(実世)

  海亀の翼を開く蒼さかな            橋本有史   4点

海亀の短い手足も、水の中では自在なる翼。珊瑚礁の海の透けるような蒼さの中を自由に泳ぐ。(法弘)

海亀の「翼を開く」が上手いなぁ。さらに蒼さが深く視覚的に訴えかけてきます。(宗一郎)

 「海亀の翼」が新鮮であり、万年の時空をこの翼で越えるというロマンがいいと思う。(瑞子)

  牡丹の闇の重さに崩れ散り          齊藤昭信   4点

無が固まり形あるものが毀れる。(繪里子)

漆黒の闇には確かに重さがあります。その重みに耐え切れず牡丹が散り落ちてゆく姿に説得力があります。(恭子)

クレヨンの勝手に走るこどもの日       榊 睦子   4点

思いっきり自由に描きなさいと言われた子どもたちが、大きな紙、あるいは壁、あるいは道路に自在に描いている様子が中七から見えてきます。(明)

こどもの天真爛漫さが髣髴としている。(晶代)

幼い子はクレヨンを手に持つとスラスラスラスラ書いていきますよね。勝手に走ってるなんておもしろいな、と思いました。(紗央里)

春の雷母の着物を解きをれば              松村三冬   4点

母の着物を解くというやや勇気のいることをやっている。新しい一歩を踏み出すためであるが、折しも雷に驚かされた。春の雷がきいている。(晶)

波郷の春の雷の句を強く意識した作り。今は亡き母の着物をほどいて何かにしようとしていたら春の雷が鳴った。母の怒りに触れたのだろうか。いや春の雷だ。やさしい励ましに違いない。(尚)

娘も知らなかった母の情念のようなものを感じました。(実世)

朧夜の石を拾つて来る子かな         明隅礼子   4点

親が見ればきれいでもないただの石ころ、そんな小石でも子供には何か感じるところがあるのだろう。拾ってきた小石を飽きずに眺めているこの子は、まだ片鱗も見せないが、大物になるのかもしれない。そんなことを感じさせる「朧夜」です。(香誉子)

「朧夜」と「石を拾って来る子」との取り合わせに感心した。(那智子)

子どもの何気ない行動が、その子を詩人にし、この俳句を俳句としています。(実世)

子どもには、大人には見えない何かが見えている。大人になった我々は忘れてしまったが、子どものときには確かに目の前にあるすべてのものが神秘的であり、何かが宿っているように感じたように思う。朧夜の神秘的な月の光を得て、子どもがそんな石を拾ってくるのだ。朧夜は、消しゴムで自分の名前を消す人もいれば、石を拾って来る子もいる、そんな神秘的な夜なのだ。(寛)

 トラックの荷台からつぽ春の月           仙田洋子   3点

実景なのかも知れないが、何故か幻想的な景を想像してしまった。からっぽの荷台と春月が奇妙によく合う。(洋)

  一日の仕事を終えたトラックであろうか?すっかり空になった荷台、そして春の月から仕事が終った充足感と心地よい疲労感が。また、明日への期待も感じられる句。(昌子)

 獣骨を底ひに沈め雪解川           天野小石   3点

春を待たず死んでいった獣たち。そして彼らの骨の存在など一切窺わせず、雪解けの水は奔流する。生と死のコントラスト。というよりも自然の厳そかさというべきか。詩的ではあるが、不思議に確固としたリアリティを感じさせられる。(義紀)

冬を越せなかった獣の哀れさでしょうか。(節予)

ジーパンを濡らして夏が来てゐたり      仙田洋子   3点

海辺へピクニック。ジーパンを折って、ちょっ足首だけのつもりが、思いがけない波によって、濡れてしまったけれど、それも楽しいひとコマ。(朗子)

やはらかな畝をこぼして雀の子        宮下惠美子  3点

耕しにより地中の虫が掘り起こされると、雀達が来て啄ばむ。畝の土は空気を含み陽に暖められてふっくらとしている。子雀の小さな足が触れてもこぼれるほどの柔らかさだ。親鳥にまじって餌を啄ばむ可愛い姿が見えてくる。(睦子)

細かな世界に注ぐ目の確かさを感じた。(傳)

小さな雀の拙い歩みと畝のやわらかさが手に取るように伝わってきます。(康子)

春の水あふれて夢を濡らしけり        明隅礼子   3点

メルヘンチックな詩情が好い。(義紀)

夢という不思議な身体性。春の水が涙のごとく感覚的に表現されている。(康子)

  伊能図に岬ありけり青き踏む         五十嵐義知  3点

岬ありけり と殊更表現しているところに伊能忠敬の地図を記す一途な気概が感じられます。また、季語が若々しい情熱を語っているように思えます。(節予)

  青き踏む人に踏まれし足をもて        澤田和弥   3点

  諧謔がある佳句。(義紀)

  前向きな姿勢が良い。(我尼吾)

  光背の金の冥さや余花の雨          立久井昌子  3点

観音様の光背であろうか、「金の冥さ」が、宗教が人々を救ってきた年月と宗教の持つ魔力を感じさせる。明るい余花の雨で現世にもどった。(香誉子)

山の辺の観音堂でしょうか。村人が大切に守る古仏。光背の古び加減を、冥さとしたところが洒落ています。(恭子)

尻打てばよき音のして五月富士           仙田洋子   3点

雪が解けかけ大分厳しさの消えた富士の感じと、作者の春の開放感を捕らえた上五中七が上手い。(洋)

 これは主人公ご本人が陽気にお尻を叩いてほしいです。だからこその「五月富士」だと思います。(和弥)

 なんというすがすがしさ。(我尼吾)

   G線の儘ならぬまま春の夕          窪田治美   2点

  バイオリンの練習。繰り返し弾いているうちに夕方になってしまった。「儘ならぬまま」に「苛立ち」よりも「快い疲労感」を感じるのは季語「春の夕」の働きであろうか。その曲がバッハの「G線上のアリア」のような気がしてくるのもまた。(睦子)

  菜の花をかき分け一輌電車かな              松村三冬   2点

 一面の花菜畑を電車が進んでゆく。「一輌」ですので「かき分け」という様子がよく分かります。(義知)

花の種信玄袋より出せり           今井温子   2点

信玄袋の意外性がおもしろい。(紀代)

信玄公が使用したことから名づけられたとも言われる信玄袋、そこから花の種を取り出した。さながら信玄公が花種を取り出だすかの如き錯覚を覚えました。(義知)

  熊に手を引かるる夢や春たけて        佐藤至子   2点

   熊に手を引かれる図を想像すると夢を超えておもしろい。(紀代)

  音も無く小窓を開けて虻逃がす        手銭 誠   2点

ほんとにこの句の通りなら、あなたの優しさを感じます。女性でしたら、お目に掛かりたい。(芳彦)

  山下りてくる花守とすれ違ふ         日原 傳   2点

  地味で何気ない詠みぶりの句であるが、花が終る頃の気分を伝えてくれる。(尚)

  隕石が落ちて春眠より醒めし         熊谷佳久子  2点

流石に暁を覚えずにいられない展開。(繪里子)

授業中、居眠りでもしていたのでしょうか?そこへ先生のげんこつ、という図が目に浮かびました。(朗子)

  背の光はずし裸身の菩薩かな         河村うら子  2点

光背をはずした菩薩のなまめかしさ、なんとなく背徳的な表現とも感じられる。(清文)

唐招提寺の改修事業や、薬師寺の菩薩像の国立博物館での展示など菩薩様も安穏とはしていられない。背中の造作物を外された菩薩、それはそれで美しい。その美しさ、色気を「裸身」と表現したところにこの句の巧さがある。(有史)

  散る花に坂口安吾溺れ死す          福永法弘   2点

安倍公房、幸田露伴など思いつく名前を「坂口安吾」の代わりにいれてみたが、確かにしっくりいかない。「桜の森の満開の下」を書いた安吾だからか。(飛)

  桜をこよなく愛した人だと思います。(由美子)

  ヴィーナスを集め上野の春深し        佐藤至子   2点

「上野」という地名が働いている。(傳)

  食ひ合はせ絵図を厨に枇杷青し        瀬戸口靖代  2点

日本人の暮しが慎ましく、枇杷の葉を薬用にする生活の知恵を大事にしていた時代がよく描写されている。(瑞子)

登園の手にたんぽぽを根つこごと       榊 倫代   2点

「根つこごと」にリアリティがあり脱帽。(康子)

   藤揺るる蔓の憂鬱隠しつつ          小高久丹子  2点

  主役は藤の花その陰に蔓の支えがあってこそ、蔓の憂鬱の表現が旨い。(けい子)

   障害馬最終飛越青葉風            竹内宗一郎  2点

馬の躍動感が。 (芳生)

漢字ばかりでまとめた句、最後下五で浮き立ちました。(けい子)

転がされ端午の宴の主役かな         瀬戸口靖代  2点

初節句でしょうか? ずっと抱いてたら、重い重い!! いいじゃありませんか、嬉しのは大人達ですもの、さあ、大宴会!!(游)

初誕生の節句なのだろう。ほほえましい感じがよく出ている。(那智子)

  清明の月面のぼる地球かな          岸田 晶   2点

TVで地球の外観を見られるようになった、現代ならではの視点で作られている。(至子)

  更衣パズルの山河完成す           山田節予   2点

季語の斡旋が絶妙だと思いました。たった一つの最後のピースが収まった時の感じが、よく出ていると思いました。(昌子)

日に三度雲吐く山の百千鳥          金村眞吾   以下1点

筍や場所柄知らぬお前もか               松山芳彦   

突然顔を出す筍と 自称、気侭な私を並べた所が独創的。(由美子)

源氏名に豆の字多き京をどり         吉田久子   

京をどりを見たことはありませんが、豆の名が多いという中7から一生懸命伝統を残そうとしている若き踊り手の真剣な顔が浮かんだ。(飛)

散り終へて庭の緑に混ざりたる        妹尾茂喜   

花をつけている間は美しくもあるし、個性的で自己主張している。しかしすべての花を落とした後は他の木々とさして変らぬ緑の一本となる。そして長い夏の間黙々と光合成に励むのである。(尚)

天網にかかりて春の夢の中          米田清文   

朧なる月の向かふの地球かな         和佐尚子   

作者の立ち位置というか、とにかく、ふわりと視点が動くところが面白い。「月」と「地球」の間を自在に動いて眺めているような、重力から解放されたがごとき軽やかさがあります。(倫代)

  花しぐれ裏階段に芸妓きて          木場瑞子   

  花見時の雨はどことなく、ロマンチック。そこへ美しい芸妓が現れて。場所は人影のない裏階段。何かハプニングが始まる予感?!(朗子)

  げんげんや母の顔見て泣き出しぬ       榊 倫代   

「げんげん」から幼子であることが想像される。悲しさや寂しさをこらえて母の迎えを待っていたのだろう。母の顔を見た途端、泣き出してしまった。幼い頃の思い出かもしれない。母は、いくつになっても懐かしく恋しい。(睦子)

街うららパントマイム師喋りだす       青柳 飛   

川底に砂金の流転残花冷ゆ          対馬康子   

  薫風や叙勲授かる点字胼胝          石田 游   

  佐渡に佐渡重ねて踊子草の前         西村我尼吾  

荒波寄せる湾に向かい合う大佐渡、小佐渡。踊子草の素朴さが効いている。(康子)

うなぎの字鰻に見立てられてゐる       上川紗央里  

この句を読んでからは、「う」という平仮名が、どう見ても「鰻」にしか見えなくなってしまった。平仮名の見方を一変させる力のある句。(誠)

なで肩の女モンパルナスは初夏        河村うら子  

パリの街の真ん中をセーヌ川が流れてゐる。その左岸14区にある賑やかな街。私は、パリへ行けば憧れのストリート、サントノレ通りやモンパルナスは必ず訪れる。モードの、宝庫パリですもの!!ラ、セーヌに架かる,あまたの橋をくぐり両岸の街に灯が点る頃いっそう幻想的な美しさとなる。「アポリネールの詩」ミラボー橋の下にセーヌは流れ我らの恋も流れる。と歌っている。此の橋其のものは余り風情がない。でも、パリの魅力はそんな失望も理屈抜きに大好きです。さて此の句、「なで肩の」と言ひ放つあたり、比喩のうまさに小粋なセンスが感じられて素敵。(久子)

母の日や連れ立ちてゆく長寿の湯       上川美絵   

著莪の花蒼く満ちゆく古井かな        天野小石   

幽玄な佇まいに 日本の美意識を切り取った感覚が好きです。(節予)

ノラ猫の横浜育ち聖五月           芥ゆかり   

ちょっときどった街というイメージがある横浜と野良猫はミスマッチのはずなのに、聖五月という季語でぴったりとはまっている感じの句になっている。(飛)

  竜の背に乗つてる気分中華街         中田朗子   

マッチ擦る一瞬に咲き水中花         山田節予   

マッチというものを最近ほとんど見なくなった。タバコを吸う人も少なくなったし、百円ライターがほとんど。コンロも含め大体は自動着火である。真夜中のガラスの鉢に水中花があった。暗闇に探し物をするためマッチをすったところその灯りに水中花が浮かび上がった、そんな光景である。忍び込んだ館だろうか。推理小説に出てきそうなスリリングな光景である。(有史)

  海亀の子にひとまづの汀かな          橋本有史   

  数年前浜松でわが手から旅立った子亀も汀見つけたかな。(うら子)

  春愁や一片の香廻し聞く           今井温子   

  紙風船途絶えて久し薬売           石川由紀子  

そういえば薬売にたたんだ紙風船をもらいました。(清文)

  海五月レモン輪切りの中通る         対馬康子   

  作者の感性に魅力を感じて戴きました。きらきら光る五月の海とレモンの輪切りの取り合わせが好きです。レモンの輪切りのジューシーさを通して、じわっと五月の海を感じました。(昌子)

(かたむ)きし日を追うてをり花見舟         木場瑞子   

西日に向って花見舟がゆっくり川面をすべってゆく。舟の人々はぼんやり花を観ている。けだるい春の午後が感じられる。(香誉子)

盆栽の根にはこべらの育ちおり        神山敦子   

力士の背七尺六寸緑立つ           朱 月英   

  クレオパトラの鼻余りたる日永        手銭 誠   

   ぢぢばばの山に口開け鯉幟          金村眞吾   

  姥捨山でしょうか?男の子の成長を祝う鯉幟がユーモラスでありながら、かなりのブラックさも感じます。(和弥)

  デジタルの声でもの買ふ朧かな        内村恭子   

鳥交る音に野仏の傾ぐ首           福永法弘   

  浦風や二人日永のカフェテラス        石田 游   

 久々のお休み、夫婦でゆったりとした一日を・・・(けい子)

  追ひ追はれ花散りゆけり隅田川        内藤芳生   

都会のせせこましさが如実に現われている。田舎者の羨望かも。(晶代)

新刻の不動明王躑躅燃ゆ           室  明   

木の肌も滑らかで若々しい(?)不動明王 躑躅もうれしく大歓迎 力強く美しい眺めです。(久丹子)

残されし大魚に眼なし春の浜         米田清文   

春の日差しにとけるように横たわる眼のない大魚。その眼の奥に未知の世界への入口がありそうだ。砂浜がシュールな印象を演出している。(誠)

  蕗味噌の一部始終を習ひけり         熊谷佳久子  

中七の大袈裟な表現が面白いと思います。(明)

 

 

                            (2008/5/19 ネット句会管理担当 天野小石)