天為インターネット句会 2008年7月
<有馬主宰選特選句> (互選)
万巻の書に飽き覗眼鏡かな 宮下惠美子 5点
世にあるさまざまな憂いから離れ、ゆったりとした心地のよい句。(蟷螂子)
俳諧の何たるかを心得ている。(紀代)
日頃は書物に埋もれ論文など書いて居られるあなた、本来は海の子、銛を持ち箱眼鏡で何の魚を捕って来たのでしょうか?(温子)
栓抜きは猫のかたちや巴里祭 立久井昌子 5点
「巴里」と「猫」がいい意味で即いている。(傳)
パリには猫が似合う。犬ではない。猫(しかも黒猫!?)のかたちの栓抜きと巴里祭の取り合わせがマッチしている。夏の夜の感じがする。(寛)
草匂ふ夏至の夜風や伊賦夜坂 永伊予人 1点
この街の暑さを知つてゐる猫よ 明隅礼子
茉莉花や墨田立花四丁目 三宮隆宏
<有馬主宰選入選句>
出来たての立てかけてある茅の輪かな 松村三冬 5点
早口言葉みたい。中七が具体性があって面白い。(法弘)
出番待つ、あおあおとした茅の輪、それを詠んだ視点も新鮮!(游)
きっと汗をかきながら作業されたのでしょう、それらも含め準備の整った茅の輪、匂いや色まで感じます。これからはじまる行事も想像しつつ。(けい子)
蚊柱や村社の注連の古ぶまま 内藤 繁 2点
故郷の村社へ父とお参りしたときの事など万感交々です。(千映子)
さういへば別れの夜も薔薇の雨 橋本和男 2点
「さういへば」なんて言いながらちゃんと覚えてるくせに・・。寝る前やふとした瞬間に思い出しちゃうだら?と方言丸出しでつっこみたくなる上五。「別れの夜も薔薇に雨」だなんて、ウエディングケーキ一人で食べちゃうぐらい甘いものてんこ盛り、とつっこみたくなるくらい、濃厚な感じ。それも全部ひっくるめて、かなり好きです。この句。(和弥)
薔薇の持つ美しさと棘。青春の別れには薔薇の両面があり、雨は涙か。(編人)
あらかたは遺書となりたる書を曝す 宮下惠美子 2点
鬱の字の罫はみ出せり戻り梅雨 吉田久子 2点
鬱の29画で難しい字です。また鬱になるとこれから抜け出すのが厄介。鬱を綴じ込めて仕舞うように努めると更に鬱は酷い状態になってしまう。従って、為る様に任せることを作者はよく御存知で罫をはみ出せることで救われた。下5を「戻り梅雨」と纏めたところは見事。(芳彦)
鬱の字を書くだけで鬱になりそう、戻り梅雨の取り合わせが旨い。(けい子)
蟾蜍跳ねて己を確かむる 小川 洋 2点
いつものっそりでは、つまらない。時には跳ねて存在感を示し、己を確かめることも。 (三冬)
臆病な子をまた呼びに親燕 瀬戸口靖代 2点
燕の子育ての様子がよく描かれている。燕も人間も同じですよね。(佳久子)
なかなか巣立たない一羽の子燕。 親の辛抱強さがよく描かれています。(有史)
あぢさゐの白一筋に通すかな 土屋 尚 2点
黒南風や魔鏡の秘するマリア像 石川由紀子 1点
逢ふ時の香水いつも夜間飛行 立久井昌子 1点
塗りたての仮面が夏の空見上ぐ 竹内宗一郎 1点
人形町隈なく晴れて青簾 齊藤昭信 1点
下町の夏の気配が伝わります。打ち水、朝顔、青簾のかかる開け放しの窓。懐かしい句です。(市康子)
干草の匂へりここに斗南藩 深谷義紀 1点
空つぽの教室通る夏の月 内村恭子 1点
誰もいない教室に月光がさしている。静かな美しい句だと思いました。(那智子)
人気なき家に焚かるる蚊遣かな 日原 傳
サルビアや砂金時代の旅籠跡 青柳 飛
巴里祭のショコラの香る乳房かな 澤田和弥
好き嫌ひはつきり言ふ子青嵐 西沢けい子
舟虫や古文書に見る税関址 吉田久子
梅雨の土間三輪より届く荷を解けり 今井温子
<互選句>
適塾は開けつ放しの涼しさよ 中西 宏 11点
緒方洪庵先生はよくは存じ上げませんが蘭学という当時ではモダンな学問といい、錚々たる人材を輩出されたことといい、さもありなんの涼しさです。(久丹子)
流石に上手い。滴塾が過不足なく表現出来ている。(紀代)
「開けつ放しの涼しさ」という措辞は、全国各地から大村益次郎をはじめとする俊秀が適塾に集った歴史にも通じよう。(義紀)
日本家屋の涼しさから、そこで学んだ者達の清々しさ、学問の外に開かれてゆく様子まで感じられます。(内恭子)
開けっ放しが気持ちいい。(晶)
臨海学校山岸君の寝言かな 土屋 尚 6点
とても微笑ましい光景ですね。山岸君はどんな寝言を言ったんだろう? 臨海学校に来て寝言を言う山岸君って、どんな少年なんだろう? この作者と山岸君はどんな関係なんだろう? でも、寝言をうるさがっているようには見えないので、この作者は山岸君のことが好きなんだろうな?・・・想像がふくらみます。私にも小学生がおりますので、非常に親近感を覚えました。でも、実は最初は大人が作った句かと思いました。もし、現在作者は大人になっているのだとすると、この句の捕らえ方もまた微妙に違ってきますね。でも、それはそれでいい人生を歩んできたことを彷彿とさせてくれます。(大恭子)
大胆に「山岸君」という固有名詞を持ってきたことで成功した。あまり特異な名前では固有性が勝ってしまい共感を呼びにくくなるし、「佐藤」や「田中」ではインパクトが弱い。その意味で「山岸」は絶妙だと思う。(義紀)
キャンプの楽しさを思い出させるユーモアのある句。景を表す「山岸君」が上手い。(瑞子)
初蝉とおなじ光の中にゐる 清水安奈 6点
「光」と捉えた感覚が新鮮。(法弘)
今年も蝉の第一声が届いた。夏の光と共に。その目眩く光の中で、作者は初蝉に耳を澄ましながら、自分も大自然の一部であることを、感じているのではなかろうか。(睦子)
初蝉と光を共有してピュアな気持ち。(うら子)
雪渓にひかりすれあふ音聴かん 橋本和男 6点
光の射した雪渓の様をあれこれと思い、一度はその音を聴きたいもの。(みちほ)
この句の想像力に感心しました。(那智子)
どんな音でしょう。鋭い感覚ですね。(由美子)
雪渓のまぶしい青と白がうかんできます。「ひかりすれあふ音」を聴いてみたい。(市康子)
切りたての子の髪に乗せ夏帽子 明隅礼子 6点
清潔感と愛情のある作品ですね。(温子)
髪がふさふさしてつぶらな瞳、愛情たっぷりな句。(由美子)
「子の切りたての髪」というすっきりした感じに夏帽子がよく似合います。(有史)
おかっぱのかわいい女の子が見える。その子の髪に鍔広の夏帽子。涼しさを感じます。(香誉子)
文字を食ふ紙魚勉強好きかもしれぬ 内藤 繁 5点
文字を食ふの発見が並ではない。(紀代)
文字を食うから紙魚が勉強好き?純真な発想がユニーク。(和男)
諧謔味がある。(芳生)
勉強好きだとしたら見習わないといけません・・・。(紗央里)
江ノ島を枕にバックストローク 金村眞吾 5点
江ノ島を枕に見立てた巧みさ、さらにバックストロークが若さと勢いを感じさせてくれます。(宗一郎)
雄大なバックストロークを 眩しく思い描いています。(温子)
江ノ島に向けて背泳をしている。時々枕の位置を確認している。いい表現。(清文)
江ノ島を枕なんて気持ち良いバックストロークの大きさ、その景が見えてきます。(けい子)
「江ノ島を枕に」なんて嘘だろうと思いつつも、大男が沖へどんどん背泳ぎをして泳いでいるのが想像できる。しかも真っ青な空と入道雲の下で。(寛)
破れ傘どうしていいかわからない 大山由美子 5点
花はまだしも、葉はなんといってよいのか途方に暮れるさまではあります。(久丹子)
真剣なとまどいが面白いのでは。(和男)
どうしていいかわからないですよね、破れた葉も傷ついた心も。(紗央里)
爆心地の闇に噴水しきりかな 合原実世 4点
8月広島に長崎に原爆記念日が又やって来る、闇に噴水、がこの句を良くしている、闇だけでも怖いのにそこが爆心地だったこと、被爆者は水を求めてさ迷い歩いたと、でも今は空高く水を吹き上げるのを見て、平和を感じたのでしょう。亡くなられた方々のご冥福と、今もなお原爆症で苦しんでいる方々の一日も早いご回復を祈ります。(昭信)
廃線のトンネルに消え夏の蝶 市川康子 4点
まるで真夏の夢のよう、トンネルの向こうは異次元の世界かも。(游)
茂りに覆われた廃線のトンネル。静けさと共に人知れず躍動する揚羽蝶の生命力と鮮やかな色彩が見えてきます。(明)
廃線のトンネルという暗い静の空間と、夏蝶の明るい動の対比。(至子)
夜盗蛾の紋様盗むデザイナー 和佐育子 4点
世は偽装ばやりでも本物はやつぱ凄い。(隆宏)
幼虫は夜働きで野菜も花も食い荒らし、朝は土中にもぐりこむ。蛾になれば褐色の羽に粋な模様がうまれ、これをひそかにデザインして世の淑女の目を奪おうと企む者がいる。二重の罪にや、はた免罪なりや。(茂喜)
都会的で洒落た句。「夜盗」「盗む」など、文字遊びの楽しさもある。(瑞子)
ほうたるを映すはやさの流れかな 矢上とう子 4点
ゆったりと舞う蛍。小川の流れもそれに合わすかのようにゆるやかで、心やすまる光景です。(明)
「映すはやさの流れ」が旨いと思いました。淀んではおらず、かつ急でもない蛍に丁度よい心地の流れです。(有史)
そう言われれば、確かに蛍はそんな流れのところに棲んでいる。早すぎても、遅すぎてもいけないのだ。(寛)
紫陽花に押されてをりぬ力士墓 今井温子 4点
さて軍配はどちらに、(育子)
紫陽花に押されているのなら、いいですよね、力士さん。ほほえましい句。(佳久子)
ここは有名な紫陽花寺では無い。花に押される「力士墓」に哀れがある。しっかりした吟行句だと思う。(瑞子)
南風や校舎から雲這ひ上がる 佐藤至子 3点
もうすぐ夏休み校庭に出るとモクモクと立ち上がる雲に夏への期待をふくらませたものです。(うら子)
父と居て風もおほぶり藍団扇 山田節予 3点
父という存在の大きさ、安心感を「風もおほぶり」という措辞に託した、抒情性ある佳句。(義紀)
父の風はおおぶり。(育子)
親子のほほえましさが伝わってきます。(昌子)
青茅の輪しめて余りし縄の玉 西脇はま子 3点
ごきぶりのだまつて通る仏間かな 津久井紀代 3点
元来もの言わぬごきぶりに仏間を通る時は、もの申せ言わんばかり。だまって通るという所が面白く、人間とごきぶりの関係がうまく描かれている。(蟷螂子)
さしものごきぶりも仏間はしずしずと通る。台所なぞはわがもの顔に走り回るのに!楽しくなる句です。(香誉子)
薔薇吹かれ王朝のごと崩れけり 笹下蟷螂子 3点
王朝が薔薇のごとく崩れたのではない。その逆だというのだ。華やかな王朝もある日突然崩れることは歴史の真実なのだ。散る前の「真紅の」薔薇の見事さが見える。(尚)
これまでいくつの王朝が栄え滅びて行ったのか でも衰えていく時はみな薔薇が散るように美しくもはかなく消えていったのかしら。(うら子)
中七が素晴らしいと思います。(昌子)
形代の手を繋ぎける流れかな 橋本有史 3点
形代のふたつが水の中でくっつき、一緒に流れて行った。手を繋ぐと見たところに、ふとせつない気持ちが滲み出るようです。(内恭子)
清らかな流れに乗って手を繋いだ形代の行方をみまもって己が身内がきよらかになつた思い。(千映子)
そらまめに未来の青さありにけり 笹下蟷螂子 2点
そらまめに希望を感じた。「未来の青さ」がいいですね。(宗一郎)
前向きで明るいところが好きです。(昌子)
十円玉百円玉立てソーダ水 金村眞吾 2点
喫茶店で、手持ちぶさたにコインを立て、そのコインをはさんで友達(恋人?)とのおしゃべりがいつまでも続く。そんな景が浮かびました。(至子)
オペラ暗転残像にあるバラ真紅 今井温子 2点
オペラ{カルメン}のシーンだと思いますがカルメンの色香に迷ったドンホセの切々たる愛の歌を聞いて、愛情の真の姿、苦しみを共感する事ができます。作者の感動が秘め、あるときは、切なく、又、激しく胸の奥より湧いてくる思いがします.切れのよいリズム。魅力的な旋律。楽しい傑作オペラでした。中七の技法は流石です。(吉久子)
暗闇に真紅のバラが、私の脳裡にも鮮やかに浮かび舞台上の華やかなロマンが想像された。余韻が残る。(月英)
噴水や天めざすことあきらめる 和佐尚子 2点
噴水の擬人化は、これまでにもあったと思いますが、「天めざすことあきらめる」とは絶妙の捉え方。(宗一郎)
日本橋道路元標梅雨に入る 内藤芳生 2点
江戸情緒を彷彿と浮彫りにさせて季節の移ろいが広がっていく写実的な効果を高め、基礎をふまえた一句です。(吉久子)
道路元標は常にそこにあり、梅雨である必然は全くない。しかし、こういわれると妙に納得してしまう。(尚)
巡礼の汗の手触るる黒マリア 熊谷佳久子 2点
黒マリアに対する素朴な信仰のさまが「汗の手触るる」という描写から感じられる。(傳)
「黒マリア」が何とも不思議な響きをもち興味をそそられました。(満久子)
汽水湖の青葦を刈る鳥の留守 木場瑞子 2点
神の留守ではないがおもしろい。(晶)
汽水は例えば、宍道湖。湖水に、しじみ舟が浮き、魚釣る影があり、野鳥観察の少年がいる。湖の向こうの夕陽は絶景。古来、水を愛で水と暮らす人びとの営みがある。カワセミももう帰ってこよう。(茂喜)
砂の唄裸足に覚えさせました 青柳 飛 2点
泣砂より唄砂がいいですね。キュッキュッといふ唄と足の感触が伝わってきます。(游)
綺麗な句です。明るい人生を送って居られる。こんな心境になって見たい。(芳彦)
夏雲が押しひろげゆく宗谷の門 福永法弘 2点
大景を詠んでいる。(芳生)
完璧に過去を脱ぎ捨て蜻蛉生る 大庭恭子 2点
この句を読んで、人間以外の生物は過去を引きずらないのだと改めて認識した。私もこの生き方を・・・作者の新人生を謳歌したい。(晶代)
仙人掌の花咲き誰もゐない部屋 立久井昌子 2点
誰もいないのに花を咲かせているサボテンに、温室に入って初めて気づくということ。確かにありました。(至子)
鼎談の賢者を煽る団扇かな 山田節予 2点
賢者を煽っている団扇の方が一枚上手かも知れない。(月英)
姫蛍息吐くごとに闇深め 永伊予人 2点
息吐くごとにの中七がこの句を艶めかしくしている。(晶代)
汗落ちて辞書のページの透きとほる 竹内宗一郎 2点
最近は辞書もPCで済ませてしまう人が多いようですが、さすが俳人。夏の日にコンサイスの薄い紙をめくる姿がよく見えます。(内恭子)
蛞蝓や天才画家の抽象画 内藤 繁 2点
天才画家とのことエミリー・ウングワレーと思いますが、しかしてこの蛞蝓神懸りのような気配です。(久丹子)
天才画家の絵も蛞蝓が這った跡もさして変わらないと言っているようで楽しい俳句だ。(月英)
ふはふはと電脳都市の夜のグッピー 小川 洋 2点
癒し系の名句。(隆宏)
都市の夜は眠らない。常に電波が飛び交い、航空障害灯は点滅し、ネット世界は益々騒がしい。グッピーも又尾を光らせて泳ぎ続ける。
都会の夜にもっとも似つかわしい生き物かも。(市康子)
扇風機火鉢の跡に置きにけり 中西 宏 2点
「置きにけり」の「けり」が好きです。「なんか文句でもあんのか」という感じのおじさんが浮かんできます。もしくは「あんた、このあたしに文句でもあんの」という感じの壮年の女性が浮かんできます。部屋が狭いから同じ場所におくなどと考えるのは野暮に思います。主人公にとってそこは扇風機を置く場所であり、火鉢を置く場所です。それ以上の理由はありません。畳には(これは畳の部屋であってほしい)火鉢の跡と扇風機の跡がその場所に入り混じっています。その跡ですら愛しく思います。(和弥)
白黒の小津映画の一場面をみるよう。そんな環境に優しい生活を、今もしておられることに感嘆。(睦子)
実梅もぐ毀つと決めし母の家 松村三冬 2点
決めても揺らぐ心。(繪里子)
女子大にある喫煙所大西日 竹内宗一郎 以下1点
女子大に喫煙所があることに違和感を覚えた作者には、「やまとなでしこ」にたいする憧憬と、男子学生と同等かあるいはそれ以上に活発になった女子学生にたいする畏怖があるのではないだろうか。女性の喫煙率は上昇傾向にあるが、この句は煙草を吸うとか吸わないとかを言っているわけではない。料理も掃除も男子学生が率先して行うのを見ていると、この句を読んで頷いてしまった。夏の夕方照りつける大西日は、女子学生が仁王立ちに立っている姿に見えてくる。(香誉子)
鳥居まで伸びる一本蜘蛛の糸 荒木那智子
人の出入りの少ないお宮で、見かける風景ですね。(編人)
一人座す寮の食卓青葉木菟 土屋香誉子
寮の夜食の際の青葉木菟。森に囲まれた寮の雰囲気を感じました。(編人)
白きまま白紫陽花の咲き終る 西脇はま子
一読、当たり前のことを詠んでいるにすぎないと思ったのですが、改めて読むと、なかなか深いことを言っていると思わせられます。花も、枯れる途中で色褪せたり、茶変したりと、元の姿のまま咲き終わる花のほうが珍しいような気もしますが、翻って、そこに人の生き方を重ね合わせると、最期までその人らしさを保って生を全うするというのは実は非常に難しいことなのではないかと思います。最近そんなことをつくづく思わせられることが続いたものですから、さりげないながら味わい深いこの句にひかれました。(大恭子)
黒ビール伊万里陶器の馬の絵図 大山由美子
黒と言えばギネスか陶器のジョツキの上の泡絵は4つ葉のクローバか?(隆宏)
青葉闇啼く鳥何と問ひ問はれ 下條千映子
ペルーの髭ザビエルの髭げじげじの如し 津久井紀代
たたみかける俳句だなぁと思いました。(紗央里)
遊女絵の煙管の先を青時雨 清水安奈
半夏生アンダルシアの嶺仰ぐ 松山芳彦
十薬を踏む横丁の測量士 満井久子
この「横丁の測量士」、横丁に住んでいるのか、横丁にいるのか、それとも存在が横丁なのか。いろいろと考えてしまいます。そしてそれを考えていることが楽しくて仕方がありません。その方が十薬を踏んでいる。考えれば考えるほど興奮する次第です。(和弥)
産土の瀧は涸れても神として 森田みちほ
滝は涸れても神の御魂はちんざまします。(千映子)
入梅や毎日家に籠りけり 西田修造
ほとんど毎日出かけているが、そんな気持が解る気がする。(晶)
黒南風やアマチュア交信重たさう 武藤スエ子
湿って重い大気。(繪里子)
夜の帳おしとどめゐる花菖蒲 室 明
おしとどめているのは花の明るさでしょうか。心にとどまっている残像かもしれません。(みちほ)
浴衣の子あんぱんマンの面つけて 朱 月英
壊れさうな瞳で虹を見上げをり 笹下蟷螂子
壊れそうな瞳とは純真無垢な幼子の瞳のことだろう。儚く消える虹を見上げる瞳の美しさも、儚いものかもしれないけれど、作者は、決して消えないように心の中に留めておくに違いない。(睦子)
いぢらしき生命と知りつ草引けり 石川由紀子
雪渓や天山に対す烏孫墓 蛭川晶代
烏孫はトルコ系の民族で漢の時代に栄え、西暦400年後半モンゴル民族に滅ぼされるまで西域で勢力を誇示した歴史があります、その烏孫の墓が天山山脈と向かい合っている、当時の烏孫の繁栄振りが偲ばれる良い句だと思います。(昭信)
マネキンの白き腕や更衣 石田 游
マネキンの服の着替えをするとき、腕を外します。その時、腕の白さにはっとしたものです。夏らしい句だと思いました。(那智子)
梅雨の天井本がくすぐる古本屋 津久井紀代
神田の古書店街や京都の寺町通りには古本屋が並んでゐる。それにしても天井まで積んでるなんて! 地震が恐い。中七の(くすぐる)の表現の酒脱さが印象的、且つ懐かしさの蘇える句です。(吉久子)
はまなすや神戯れし白兎浜 西野編人
渾々と水の湧く音水芭蕉 満井久子
今年も5月尾瀬の大清水に水芭蕉を見に行ってきました、湧き水と水芭蕉の句はよく有りますが、湧く音と、音を強調したところがこの句を良くしております、この音は厳しい冬を抜けた春の音です、水芭蕉の白さがより鮮やかに浮かんできます。(昭信)
花桐や碑文に仮名の字源あり 五十嵐義知
亜麻色の百合を咲かせし地震の村 米田清文
復興を祈りつつ。(由美子)
暮れ残る白塗りの顔床涼み 河村うら子
川床に舞妓がいるのであろう。夕闇の迫るなかに浮かびあがる白。幻想的な世界に導かれる思いがした。(傳)
払はれて蕎麦屋の軒の蜘蛛の糸 池永 寛
払われても、明日また作るからねと、蜘蛛さんが言ってました。(佳久子)
カヌー行く水面の空を切り裂いて 内村恭子
夜焚船沖に不夜城あるごとく 深谷義紀
貝の殻糸で繋ぎて風涼し 天野小石
夏風邪の屁が出るやうな出ぬやうな 澤田和弥
実感ありの滑稽味。(法弘)
君からの言葉集めて夏の月 和佐尚子
幸せな彼、それとも彼女?(晶代)
私家本の表紙に白きレースかな 米田清文
清盛の頭となりて雲の峰 妹尾茂喜
厳島の雲の峰でしょう。(眞吾)
朝涼や畝に下りたる蜆蝶 日原 傳
怒る様母に似たると心太 大庭恭子
モンローになれず香水ほのとさす 熊谷佳久子
菖蒲田にそれとわからぬ流れあり 和佐育子
言われてみるとそうなのかそんな流れがあるのかと納得した。(清文)
不都合な真実は見ず蟻地獄 福永法弘
生きてゆく上でそういう経験をしている人は多いかも知れない。納得できないが納得せざるをえない人の世の真実。(蟷螂子)
腰蚊遣揺らし離宮の庭師かな 松崎邦子
昔、夏の農作業や庭仕事に、藁などを束ねてくゆらせたものを腰につける蚊遣は欠かせなかった。今は金属製の籠の中に蚊取線香をはさむものになっている。おそらく後者であろうが、離宮の見事な植木の手入れをしている庭師もつけているのを見てなつかしく思うと同時に、その仕事の大変さを思ったのだ。(尚)
外つ国は遥か出雲に燕の子 池永 寛
人も燕も旅はせよ。メルヘン。(和男)
帰省子や水の四方へ戸を開けて 瀬戸口靖代
久しぶりに広々とした故郷の家へ戻った喜びを中七下五が的確に表現していると思います。読み手も一緒に爽やかさを味わえます。(明)
噴水をはさみ父と子佇みぬ 青柳 飛
父と子の年齢、子の性別、父と子の立ち位置、噴水をはさんでそれぞれがどの方向を向いているのか、父と子はお互いに相手のいることに気づいているのか、いないのか、あるいは一方は気づいているが他方は気づいていない、作者は、この父と子のどちらかなのか、あるいはこの二者をどこからか見ている第三者なのか・・・、など、いろいろなシチュエーションが考えられ、また、その設定によって、この親子関係もいろいろな状況が想像され、面白いと思いました。私が真っ先に思い描いたのは、場所は東京は日比谷公園の噴水前、時刻は夏の夕方、父は60代くらいで退職後趣味に生きている元サラリーマン、子は30〜40代の現役サラリーマン。父のことを内心は尊敬しているがプライドがあってそれを素直には言えずにいる。今、二人は何かの用事でここで待ち合わせているが、それぞれが同じ方向を向いて立っているため、お互いがそこにいることにまだ気づかないでいる、お互いを思いながら・・・。みたいな光景でした。(大恭子)
なめくじりドナウ絶景目指しをり 蛭川晶代
スケールの大きさ。(育子)
蛍舟岩を擦りゆく棹の音 根岸三恵子
川下りをしたことはあるが、蛍舟に乗ったことはない。乗ればさぞ夢幻の世界だろう。ただ、闇の急流ならば目をつむることも多く蛍どころではなかろう、と舟に乗らない理由を探す。(茂喜)
小さき字の小さき立札トマト熟る 合原実世
易水の流れ知りたき夏の葱 武藤スエ子
易水は中国河北省西部の川で、燕のために秦の始皇帝を刺そうとした荊軻が「風蕭蕭として易水寒し、壮士一たび去ってまた還らず」と詠った。暑い日本の夏の葱にはこの川の水が知りたかろう。たかが葱とは言え、壮大な句です。作者お人柄が偲ばれます。(芳彦)
カーテンの水玉模様金魚死す 榊 睦子
金魚の死も水玉模様で明るくなった。(清文)