天為インターネット句会 2008年9月



  <有馬主宰選特選句>                 (互選)

  ひぐらしや甲賀に老いて薬売り       吉田久子   5点

甲賀で薬売りとして老いる人生。「甲賀」の響きが重く季語「ひぐらし」の斡旋が上手い。(和男)

ひぐらしの高く美しい声が薬売りの一生を昇華している。(伊予人)

甲賀といえば忍者、薬売りといえば富山を連想する。忍者と薬売りの関係は非常に深いものがあり、そこに蜩を配合させた事により妙なる一句を形成している。(蟷螂子)

  胡同の内は小暗き十三夜          内村恭子   5点

  開発の波に壊されて行く胡同の寂しさを感じました。(編人)

 鳥の巣の喧騒を他所に古都の哀愁。(隆宏)

  中国人にとっての胡同(フートン)は、日本人にとっての路地裏に似た、ノスタルジーを誘う場所と言葉の響きであろう。北京オリンピックや上海万博のための再開発で、そうした胡同が次々と消えていると聞く。残念に思うのは、中国の人たちの方こそではあるまいか。「小暗さ」の中に郷愁を誘う仕掛けがあり、「内」と限定することで、旅人には所詮上辺しか覗くことはできないのだという切なさが滲む。(法弘改め南草)

北京の胡同はオリンピックの町並み整備で一部を残し壊されてしまった。立派な表通りとは裏腹に胡同の昔ながらの庶民の暮らしに差す後の月は正に小暗いのである。(たける)

北京へは何回か訪れた事がある、私にとって、懐かしい街。北京の横丁、四合院と呼ばれる下町の路地を歩いた記憶が甦る。幻想ゆたかな詩心を季語の十三夜によって生かされている。久子)

  ぽつねんと法王庁の扇風機         仙田洋子   4点

バチカンの法王庁は伝統ある建造物であり、クーラーでは伝統が損なわれる。そこで、扇風機が使われている。扇風機がぽつねんと置かれている法王庁は雰囲気がそこはかとなく感ぜられて面白い。(芳彦)

法王庁と扇風機の組み合わせが何とも言えずおもしろいです。(真弓)

  ことり来るくるくることりみづぐるま    小川 洋   3点

まるで童謡のような可愛らしさと軽快なテンポ。「ことり来る」から「くる」のリフレインで水車が回っている展開になる。「来」だけ漢字にしたのも巧み。(月英)

谷川俊太郎の「ことば遊びの歌」を思い出した。オノマトペの「くるくることり」が、効果的で楽しい。(睦子)

  新涼やふかき翠のマヤ仮面         西野編人   3点

取り合わせの面白さ。(洋)

  草木の影の長さや終戦忌          仙田洋子   3点

草木の影の長さに豊かなる国を感じ、現在も戦の続く国を思い心が痛みます。(温子)

草や木の影の長さに終戦忌としたところに作者の優しさと、また厳しい眼差しとを感じました。(輿志子)

  生御魂ビフテキなんぞ食つてをり      仙田洋子   1点

寂聴さんのような方なのかなと思いました。こちらまで元気をもらう句です。(那智子)

  シーサーに描く黒き目や天高し            橋本有史

 

  <有馬主宰選入選句>

  石段にならぶ父子や盆の月         明隅礼子   2点

帰省した息子と父が並んで歩いているのでしょうか。何を話しているのか、二人とも黙っているだけかも。という光景を想像しました。(康子)

  お盆。ふるさと離れて街に暮らす息子が家族とともに帰省した。年に一、二度は、男どうしの話がはずむ。昔のこと、これからのこと。日本の家族の原風景が月に優しく映し出された。(茂喜)

  マチュピチュの段々畑や霧迫る       蛭川晶代   2点

  雄大な風景です。(芳生)

  格子より覗く祇園の星祭          竹内宗一郎  2点

 「格子より覗く」と「祇園の星祭」が共鳴し、美しい効果をあげています。私のような若造には決して作れない句だと思います。なんといっても品があります。映像が浮かびます。主人公は誰がよいか。最初に浮かんだのは津川雅彦です。しかし永井荷風も捨てがたい。谷崎という手もあります。「大人」な一句です。(和弥)

 古き良き京都が詩情をもって詠まれている。(康子)

  秋燕や鎖離さぬ棄て錨           武藤スエ子  2点

  錆びているであろう錨、秋燕で気持のよいものになった。(晶)

  鎖をつけたままに棄てられている錨と秋燕の季語の斡旋がいいなあと思いました。(那智子)

  同じ月見てゐる亀と兎かな         天野小石   2点

  ウサギと亀は永遠のライバルで仲が良くない。それが、同じ月を観ているという。こんな人生模様もありそう。なかなかに意味深な一句。(義紀)

   亀と兎が同じ月を眺めている、とても滑稽ですが、美しい童話が拡がっていくようです。(輿志子)

  円空の仏ここにも雁渡           深谷義紀   2点

 あの木彫りの観音像と同じ像がこの寺にも安置されていた。ほほえみ、くるしみ、いかり、人びとの生きる様を彫り起こしたさすらいの僧、円空。見あげると、夕空に渡りくる雁の列。(茂喜)

  目力の子規の自画像鵙の贄         瀬戸口靖代  1点

  新涼や明治の座敷開け放つ         滝澤たける  1点

  ナプキンの折角立てて涼新た        市川康子   1点

  精霊火木の間隠れに迫りけり        松崎邦子   1点

おどろおどろしさが面白い。(清文)

  愛されず馬薬殺の晩夏かな         澤田和弥

  秋出水墓への道を流しけり         土屋 尚

  孤独死と云ふをちらりと浮いて来い     今井温子

  白帝や波斯の壺の細き首          石川由紀子

  意宇(おう)の森に小幣を連ね盆用意        永伊予人

  露の世の翳の深まるピエタ像        斉藤輿志子

 

  <互選句>

  地に着かぬ肢が一本茄子の馬        福永南草(法弘改め) 14点

 一人仏間に座り、気づいたのでしょうか。こんな馬で無事に帰れるかしら、と静かな哀切さが伝わります。(恭子)

 「地に着かぬ」で、何か動きが感じられました。(義知)

  いつか見た事がある光景と思わせる、確かな写生の力を感じました。(宗一郎)

ご先祖さまたちの送迎担当の茄子の馬がこの状態では、、、との作者の諧謔が楽しいです。(明)

実際に肢(割り箸)を差した人じゃないと発見できないこと。(清文)

馬の脚は4本。 3本であれば必ず足は地に着きますが、4本だと脚が不揃いな場合4本同時には着きません。そんな不揃いな感じがよく出ています。(有史)

むつかしき神の名あまた星月夜       満井久子   7点

星座にご登場のギリシャ神話の神々にはなかなか馴染めません。カタカナの名前も難しくて覚えられません。(育子)

「むつかしき神の名」で例えば彦火火出見尊などが思い起こされ、「あまた」で八百万の神というように、星月夜と神々がうまく結びついたと思います。(義知)

まことに覚えきれぬ神々の御名では有ります。(温子)

ギリシャ神話に出てくる神様も古事記に出てくる神様も、皆さん一度では覚えられないややこしいお名前をお持ちです。(宗一郎)

  徘徊の父また朝顔の前にゐる        小川 洋   6点

 「また」が切ない。(義紀)

 過去と未来の間にある現在。現在の問題をかかえながら、我々はその現在に生きています。高齢化社会という大括りの問題ではなく、徘徊の父というもっとも身近な問題。その父がまた朝顔の前にいる。朝顔という美しくも儚い花。「完全なる美はもはや規則でしかない」と仰った方がいたようですが、今の問題を包括しつつ、ギリギリのラインにある危うさが「現在の美」というものなのかもしれません。(和弥)

 朝顔とお父上との顔合わせ、その心は深い!(游)

このご老人には、朝顔にまつわる美しい思い出があるのであろう。そのような父に対する作者の深い慈愛が感じられる。(睦子)

  種採りや日の香の移る指の先        榊 睦子   4点

種は日の恵み、水の恵み。大事に育った種を傷つけないよう、種を選る指先にまで細心の注意を払えば、その心がおのずと通じて、指に日の香りが移る。心映えの床しさが投影された写生句。(法弘改め南草)

 太陽の匂いはいつも幸せな気持ちを運んできます。毎年変わらぬ作業でも秋の晴れた日に改めて思う太陽の恵み。(恭子)

夕方涼しくなると、農婦(夫)の格好をして皆さん畑に出ている。私は畑をしていないので、解からないが、茄子、胡瓜、ピーマン、西瓜などの種を丹念にとっている。日の香の移る指の先が、鈴鹿嶺に陽が落ちていくのが浮かぶ。(晶代)

小鳥来る自由が丘といふ街に        芥ゆかり   4点

いい取り合わせ! 小鳥のように自由に遊びに行きたいです(游)

自由が丘という街の名が季語によって活かされた。(康子)

宇治川の流れに障子洗ひをり        中西 宏   3点

宇治川は義仲勢と義経勢が先陣を争った所。壮絶な戦いが嘘のような流れに、膝まで浸って障子を洗っている。まさに兵どもが夢の川。(育子)

宇治という雅な所でも人々の生活はあり、宇治川で障子を洗っている、というのが句意だろうが、川で障子を洗うという今の都会では見られなくなった景を詠んでくれているだけでうれしくなってしまう。(尚)

月光の愛撫こよなき白樺          内村恭子   3点

 こよなき景。(隆宏)

清らかな高原の夜を抜けて白樺の木肌を捉えた月光。澄み切った光と白い木肌の艶かしさ。(たける)

なんて美しい月光!私も白樺になってみたいと思わせるのは、中七の表現力でしょうね。(洋子)

月の宴二胡のもれくる領事館        西野編人   3点

月夜の領事館より二胡の音が聞えて来た。二胡は清朝の中頃より起った中国の弓奏弦楽器であるから日本の中の中国であろう。今の中国にはこんなところは容易には見付らないので、清朝の中頃の中国を旅した気持ちになった。(芳彦)

静もれる木立の中にたつ領事館折から聞こえくる二胡の弦に弓をひく憂いを含んだ音が煌煌と輝く月の広い邸内から響いてくるのに惹かれつつ通り過ぎた。(千映子)

哲人のやうな貌して鯊を釣る        上川美絵   3点

 我が家の近くの防波堤は鯊釣りで賑わう。そういえば、哲人のような人も。(編人)

そんな難しい顔をして釣りをしなくても。哲人のやうな貎が面白い。(三冬)

「やうな貌して」なになにをする。というフレーズは結構ありますが、哲人を持ってきた大げさが良いのでは。(和男)

炎帝に囚はれ蟄居つづく日々        内藤芳生   3点

まるで私! でも、それを句にした人、出来ない人との違いにため息です。(游)

今年の夏は暑かったですね。私も同感。余計なものは一切省いて、中七の措辞は中々ウイットに富んで、発想も表現も清新な佳句です。(久子)

かなかなの割り込んできし虫の闇      松村三冬   3点

虫の闇をよく捉えている。割り込んできしが上手い。今はまさに耳が虫になりそう。(紀代)

せっかく、麗しい秩序ができていたのに、あつかましく割り込んできて、かき回すだけの法師蝉。虫の世にも人の世にも、そして俳句の世界にも、困ったさんはいるものです。(法弘改め南草)

確かに季が重なりだ。「俳句は解かってる」と自称する人ほど、「季が重なりだ」 と先ず叫ぶ。自宅のすぐ近くに里社があり、かなかなは暗闇になっても鳴きつづけ、虫の合唱も始まる。割り込んできし、確かに虫の声は後だ。虫の闇としたところが言い得ていると思われる。(晶代)

どこまでも追ひかけてくるはたた神     芥ゆかり   3点

今年の異常気象のははた神は執拗ですね。(編人)

年は特にその感が強い。(晶)

今夏の雷は広範囲に渡って発生し、しかも激しかった。異常気象の原因を作っている人間を、雷神が叱っているかのように。「どこまでも追ひかけて来る」に実感が伴っている。(睦子)

  石畳崩れゆく三日月の街          天野小石   2点

 幻想。(繪里子)

幻想的な景が浮かんだ。季感が抜群と思う。(洋)

三角の西瓜依怙地を通しけり        熊谷佳久子  2点

穂すすきの喋りだしたる風の中       須田真弓   2点

我が住むこの田舎をよく夕方散歩をするが、青鷺などが孤独にあちこちに立っている川原に確かに最近は薄が大揺れしている。それを喋り出したると捉えた処に感心する。(晶代)

喋りだしたという表現がうまいなぁと思いました。(紗央里)

 霊水を含み高きに登りけり         松崎邦子   2点

山から滲みでて苔を伝わりくる霊水を柄の長い柄杓の先に受け喉越しも爽やかなお水を頂き元気を出して頂上をめざす。(千映子)

  リュックよりむらさきの数珠原爆忌     永伊予人   2点

北京五輪の風の中なる終戦日        榊 睦子   2点

北京五輪、大変盛り上がった五輪でした、そんな中静かに日本では63回目の終戦記念日を迎えていた。二つの比較と平和な現在が良くあらわしている句です。(昭信)

忘れられない二つの思い出を中7でさらりと繋いでいる。(朗子)

秋からの招待状を開きけり         妹尾茂喜   2点

婚礼か何か秋らしい催しの招待状が来たのを、秋自体からの招待状といって詩にした。(尚)

  桃色の岩塩ラサの秋日和          福永南草(法弘改め) 2点

  桃色の岩塩を聖地で見つけた。それは秋の日のこと。調和がたのしい。(晶)

海霧や人種差別のなき酒場         中西 宏   2点

アイリツシュウイスキーなめなめ語るアラン島か?(隆宏)

海は霧に包まれて暗黒の世界、ほとりにある酒場ではいろいろの国の人々が交わり和気藹々でもなく朗らかに声高に美酒を酌み交わす。(千映子)

  いま月がとても綺麗とメール打つ      和佐尚子   2点

  美しい月 スピード感とともにストレートに心に響きます 美しさを分かつ幸せも。(久丹子)

  現実にこういうことがあるかどうかは別として現代的な日常のシーンを上手く掬い上げていると感じさせてくれます。(宗一郎)

   処暑の雨ジクソーパズルの穴ひとつ     満井久子   2点

  やっと完成させたと思ったのに、ピースがひとつ見つからない。欠けた部分の台紙が覗き、何だか物哀しい。そんな気分に斡旋した季語が的確。(義紀)

  処暑の感じがよく出ていると思う。(洋)

新米や鎖骨の窪み浅くなる         石田 游   2点

 新米のおいしさ 日々影を薄める鎖骨の嘆き 悩ましき人生かな。(久丹子)

十連の山は影絵に涼新た          矢上とう子  2点

初秋の連山が涼しい薄むらさき色の影絵のように見えた。季節が変ろうとする時の発見。(月英)

とんばうに面とむかひて困つちやふ     大山由美子  2点

 「確信犯」です。そのうえ「愉快犯」です。そうとわかりながら選んでしまう点に私の半生が象徴されている気がします。「わかっちゃいるけど」という感じでしょうか。「困っちゃ『ふ』」。文語として正しいか否かという点も気になりますがそれ以上に、一目見てひっくり返された衝撃に一票です。ただこの作戦は一回勝負で二回目はないということも正直思ってしまうところではあります。とはいえ、愉快であります。この句は。(和弥)

江戸前の汐の寄せくる盆踊         木場瑞子   2点

なにかひかれますこの一句。郷愁ですね、きっと。(和男)

踊り櫓のまわりは盆唄や太鼓の音でにぎやかでも、少しはなれると、ひたひたと寄せてくる汐の音が聞こえるほど静かな東京の盆踊が見えてきます。(香誉子)

三越の地下の羊羹盆用意          米田清文   2点

日本橋三越百貨店、老舗の百貨店で売られている羊羹、きっととらやの羊羹でしょ。ちょっとユニークな句ですね。(昭信)

日曜の弥撒の献金小鳥来る         斉藤輿志子  2点

 日曜日の弥撒の安らぎと楽しさを小鳥来るが歌い上げている。(伊予人)

平絹のくくり枕や蚯蚓鳴く         河村うら子  2点

やもちやんと名付けし守宮留守番す     土屋 尚   2点

 意外にかわいい守宮の目 おもちゃのような手 立派にお勤めもしてすっかりファミリーの一員になったやもちゃん。(久丹子)

いつも吸いついてる場所にいないと「やもちゃん何処行った?」なんて家族で話しているのでしょうか。どことなく憎めない形状の守宮でうまく詠まれていると思います。(ゆかり)

生涯のいまどのあたり星流る        和佐育子   2点

むやみに「若さ」に固執し、老後の暮らしに頭を悩ます昨今です。さて、此の句、中七の洗練された措辞の韻きがよく調和して、まこと、美しい作品です。(久子)

半世紀以上あるかも知れない余生。1分後に終わるかも知れない人生。自分でも分からない人生の長さを思うとき、閃光を放ち流星が消えた。作者は思う。自分の命は流れ星のように明日にでも燃え尽きてしまうのか。それとも、その奥で輝く星のようにまだまだ輝く事ができるのかと。作者の人生の時針が今、午前もしくは午後の何時を示しているのか分からないが、何れにしても悔いの残らない人生を送ってほしいと願う。(蟷螂子)

  秋夕焼給水塔の影二つ           市川康子   2点

  なぜ「秋」なのか、なぜ「二つ」なのか、よくわからないのですが、「秋」も「二つ」もいいと思ってしまうのです。大きな団地の端にある給水塔の影が少し寂しく伸びています。(香誉子)

  一本の光の道の黒揚羽                 橋本有史   2点

聖なるものに導かれるような揚羽蝶が幻想的。(康子)

新涼や子規の国より白き水脈        永伊予人   2点

頭韻「し」が心地よく、瀬戸内の明るい海を思い浮かべると共に、子規のお蔭で私たちが現在俳句を楽しむことが出来ているのだという思いに至ました。(明)

秋のはじめの爽やかな感じが伝わってきて好きな句です。(那智子)

捨てられてまた拾われて秋団扇       小高久丹子  2点

突然涼しくなって用済みと団扇をゴミ箱へ。しかしそう簡単に残暑は去らず、結局団扇を拾い上げる。今年はまさにそんな感じですね。(康子)

「捨てる神あれば拾う神あり」という言葉がありますが、まさにその「秋団扇」版ですね。「捨てられて」「また拾われた」ものがやや値段のはる秋「扇」ではなく、庶民的で最近ではあまり使われなくなった「団扇」であるところがさらに情趣を感じさせます。どんなもの(人)でも、何かしら存在する意義はあるのですね。「拾った」人は何を思って拾ったのでしょうか。(恭子)

  ランプ灯したそがれ色の硝子店          橋本和男   2点

  懐郷。(繪里子)

  硝子店がランプを灯したことによりたそがれ色になった、大正浪漫を感じました。(輿志子)

  風鈴の思ひ出しては鳴りにけり       内藤芳生   2点

今年の夏もこんな感じでした。夜まで蒸暑くて風鈴もお愛想程度にしか鳴ってくれませんでした。「思ひ出しては」がいいです。(ゆかり)

どんなに頑張っても風なしでは鳴れない風鈴。暑さの為に風鈴に皮肉を言ったのでしょうか。(月英)

  恐竜の足跡踏みて夏果てぬ         岸田 晶   2点

 斬新です。(芳生)

  ここよりは蝦夷をいれぬ大花野       河村うら子  2点

わたくしの為に眠らぬ夜のプール      中田朗子   2点

 地球は私のために回っている!と言わんばかりの自己中心さがかえって小気味よい。(洋子)

本来なら少し避けたいナルシシズムの句ながら昔伊豆のホテルのプールで同じ景を見た、若い背中一面に菩薩の刺青を彫った女性の姿が蘇つた、両者に困惑するのは眠られぬプールの監視員。作者の若さを頂く。(宏)

みちのくの酒に春の字初時雨        河村うら子  以下1点

日本の中では「春」の訪れの遅い東北地方のお酒の名前に「春」の字が使われているということろに、東北の人々の切々と「春を待つ」心が込められているのが伝わり、しかし作者がそのお酒を知った今はむしろこれから「春」の前の長い冬に入っていく「初時雨」の季節であるところが、さらにしみじみとした味わいがあると思いました。(恭子)

声いつか父似になりぬ天蓋花        金村眞吾   

遠き声聴かんとアンモナイトの夏      岸田 晶   

きっと遠き昔の音、聞こえたと思います。(朗子)

  ふなばたを掴む塩辛蜻蛉かな        日原 傳   

  ただ乗っかっているようでも、蜻蛉の脚はとまっているものにしっかりしがみついています。普通の人にはわからないことまでしっかり見ている気がしました。(有史)

  夕焼波わが砂文字の消ゆるまで       吉田久子   

夕暮れまで浜辺を見て居られた。時間に束縛されない人生は優雅です。そのようなお年になってしまった。寂しさも感ぜられのは秋らしさが出ています。(芳彦)

  少年の虎穴に入りし花蘇枋         清水安奈   

「虎穴に入」ったということは、この少年は何か「虎子」を得ようとしているわけですね。その「虎子」とは何なのでしょう? この作者はこの少年の父親か母親でしょうか?ハラハラしながらも我が子の挑戦を見守ろうとしている息遣いが伝わってきます。また、自分の若いころを回想して作ったのならば、そのときの一生懸命だった自分をいとおしみながら懐かしむ気持ちが表れていると思いました。いずれにしても、少年(少女)時代はかけがえのないものだと痛感させられます。(恭子)

  秋めくや一字違ひのLOVEとLIVE   神山敦子   

愛することと生きること、たった一文字違いの間にある深淵。「秋めく」が追い討ち。(たける)

にこやかな月が上つて遊園地        竹内宗一郎  

お月様は細い眼をして笑っている。子供たちのいない遊園地にはメリーゴーランドの影が映っている。絵本の一ページのようです。中秋の名月とは雰囲気の異なる月が詠われています。(香誉子)

  世の中にいろんな王子涼新た        和佐尚子   

涼新たであるから皮肉ではあるまい。そういえばゴルフにも野球にもそんな人がいた。面白いところに眼をつけたと思う。(紀代)

鰯雲ひきて寄港のロシア船          橋本和男   

  秋の星掬へるような君といて         矢上とう子  

  透明感あふれる句。若い人の句とは限らない。長い年月つれ添ったわが夫と考えても楽しい。(紀代)

恐竜の首休めたる秋の水          芥ゆかり   

 首長の草食竜、アパトサウルスあたりでしょう。静かな秋の水と恐竜が意外な相性の良さです。(恭子)

新涼の身八つ口とふ窓二つ         松村三冬   

 着物を着ないので判りませんが、身八つ口とはそんな窓なのでしょう。 新涼の感覚とよくマッチしています。(有史)

一遍忌遊行の旅は時空越へ         和佐育子   

端居して和菓子のやうな夕ごころ      笹下蟷螂子  

少しまったりした気分がでてよいと思いました。(清文)

夏休みアロサウルスと背比べ        岸田 晶   

蔵町に古りてスカラ座星月夜        須田真弓   

この句自体が映画のセットのような懐かしい感じです。(ゆかり)

秋の蝉ある日ころんと死んでをり      津久井紀代  

食ひ初めの嬰に新米福ふくと        瀬戸口靖代  

  秋雨や八分音符を刻みける         窪田治美   

秋の雨が降り出した。どこに降る、庭の笹の葉、池の水面それとも石畳の上か。耳をすませば、静かな八分のリズムだ。しばらく無心に聞き入る。降る雨の音に着目したのが心地よい。(茂喜)

数へつつ球蹴る少年夏終る         武藤スエ子  

夏が終わるさみしい感じが伝わってきました。(紗央里)

冷まじや群がり来たる鯉の口        朱 月英   

   また一人村を出にけり藪からし       小高久丹子  

貧乏神藪からしに取りつかれた村です。若者不在、夜逃げ出稼ぎ村の過疎化は止めようがありません。村起こしができればいいのに。(育子)

水滴に掌の差し出して子規忌かな      齊藤昭信   

秋茄子も大統領も逃しけり         大庭恭子   

美味と名声、二つも同時に逃したらトホホですね。(朗子)

ポケットをからつぽにしてゆく花野     明隅礼子   

中七から、様々の柵を忘れ、心身ともに身軽になって、大自然の恵みである花野を慈しんでいる作者の心情が良く伝わります。(明)

月代や襖より抜け出づる虎         深谷義紀   

そう簡単に抜け出してもらっては怖くて生きていけないが、この幻想性がいい。(洋子)

大空にさざ波立てし鰯雲          橋本和男   

撥の音しぶける雨の阿波踊り        天野小石   

  サングラスATMに外しけり        福永南草(法弘改め) 

本人のことと取るのがまっとうな解釈であろうが、なぜか、さっそうとした御婦人が機械の前に来て外したところを見た、という風にとってしまった。そのほうがおかしみが増す。(尚)

  夏逝くや縄になる木と火伏せの樹      松村三冬   

大好きな野球の話生身魂          米田清文   

人は、生きて来た苦労や喜びが皺となり皮膚に刻まれてゆく。その皺をさらに皺くちゃにして、まるで生まれたばかりの孫を語るように野球を語る老人の姿が目に浮かぶ。(蟷螂子)

雨粒のたたく水の面秋たてり        荒木那智子  

  水底に更に清けし山河かな         朱 月英   

秋の澄んだ湖に映る山河でしょうか。静かな秋の風景が伝わります。(康子)

  草市や紐は水漬きつつ緊まる        対馬康子   

  芥子の花聖母イコンの頬豊か        満井久子   

  芥子の花が利いている。(伊予人)

  炎帝の柱となりしロトの妻         津久井紀代  

曼珠沙華空に五色の気球かな        須田真弓   

秋の晴れ渡る空と広い平野、そこに気球と曼珠沙華。鮮やかな景色が浮かびます。(義知)

   ひぐらしや口やかましは祖母に似て     大山由美子  

口やかましいのが母でなく祖母であるとこが面白い、明治生まれなのか、大正生まれなのかな、厳しい躾の中で育った祖母の姿が見えてくる。ひぐらしとの季語とも良くあっています。(昭信)

  いくとせも地球まはりし牽牛花       五十嵐義知  

バッサバサ旗振る村長運動会        上川紗央里  

 

 
                          (9/19 ネット句会管理担当 天野小石)