ネット句会報2014年7月

 

天為インターネット句会2014年7月分選句結果 (作者名の後ろの点は互選点)
 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。

<日原傳編集顧問選特選句>

揚琴の草原情歌銀河澄む  西脇はま子  (6点)

「揚琴」は明代後期に西方から中国に伝来したといわれる打弦楽器。「草原情歌」は王洛賓が新疆のカザフ族の民謡をもとに編曲し、中国語の歌詞を付けたとされる歌曲。評者は大学に入って中国語を習い始めたころに、中国語学習の一環としてこの歌を覚えた記憶がある。草原に生きる遊牧民族の姿を想起させる歌曲には、澄み切った夜空の満天の星がふさわしい(傳)

 

ぶつかってこの世の窓の金亀虫  小橋柳絮  (2点)

光に引き寄せられた金亀虫が窓硝子にぶつかったのであろう。ひっくり返って困惑する金亀虫。その金亀虫にそそぐ作者の眼差し。「この世の窓の」という措辞は、おぼろげな世界から現実世界へ急に引き戻されたような気分を出していて面白い(傳)

<日原傳編集顧問選入選句>

裏道を寺から寺へ半夏生  荒木那智子  (5点)

この時期の気分が良くとらえられていると思いました。私が今住んでいる浜松市の旧街道沿いに寺社がたくさんあり、時間がある時に立ち寄ったりしています。(智子)

 

白南風や鯨の鰭のモニュメント  安光せつ  (3点)

 

夏の夜の珊瑚ゆらめき命吐く  佐藤博子  (2点)

妖艶な美ですね。(董ろ)

 

ジーンズを履かぬひと世や遠花火  熊谷かをるこ  (1点)

浴衣着て花火見る一夜ですね。我が家の近く花火大会でもよく見ます。(編人)

 

まっ黒な毛虫横切る山路かな  嶋田夏江

 

青嵐黒鍵盤を叩く吾子  山本光華

<互選句>

羊蹄山を真つ逆さまに田水張る  安田孝子  (11点)

雄大な情景が眼に映ります。(豊)

 

果たされぬ約束もあり天の川  安藤小夜子  (7点)

いつも満たされるとは限らない。満たされぬことを心で見つめて、いつか出会える小さなことに大きな喜びがある・・・。悲しみは幸せを超えるエネルギーでひとを逞しくする。「果たされぬ」に惹きつけられました。(強)

季語の「天の川」の大きさでそれもありかなと頂きました。(麻実)

 

解けそうで解けぬ問題髪洗ふ  中村光男  (5点)

学問の問題では面白くもなく、俳諧味もない。恋の駆け引きを楽しんでいる問題がよい。余り深刻でない恋が丁度よい。そんなオペラがありましたね。でも髪を洗いながらは歌っていませんが…。(繁)

納得・・・・・(麻実)

 

故郷は永久に水底水中花  小野恭子  (5点)

心の中の水中花故郷に思いを馳せている景素晴らしい。(豊)

ダム底に眠っている故郷への作者の鎮魂の情。まさに水中花です。(はま子)

 

暮るるまで夏至の夕べを歩きけり  土屋尚  (5点)

暮そうで暮れない夏至の夕べを物思いに耽りながら歩く作者が見えてきます。(明)

 

さいころの目から零れしてんと虫  上野チヅ子  (4点)

楽しい夢のある句に 思わず笑顔になってしまいました。(温子)

さいころの赤い一の目から零れ出たのでしょうか。赤い漆の塗りたての天道虫が目に見えるようです。(はま子)

 

夏雲と遊ぶ棚田の錦鯉  石川由紀子  (4点)

水面に映った雲と遊ぶ錦鯉、なんと長閑で楽しそうです。(貞郎)

晴れる夏の天とその下の棚田を泳ぐ錦鯉の心地よさが響いてます。棚田というものが天と地のつながりになり、その空間に、錦鯉が龍門を越えて、まるで空を遊ぶように思わせます。(董ろ)

美しい写真のように眼前に浮かぶ景色。(閑生)

 

下校児の道草せかす時計草  染葉三枝子  (4点)

早くお帰りしせかす時計草。面白いですね。(編人)

時計草と児童のコラボにユーモアがあります(チヅ子)

 

家康の陣屋の跡の落し文  内藤芳生  (4点)

家康も今の世を憂えているでしょうか。(せつ)

 

蚊柱のふくれラベルのボレロかな  内藤繁  (4点)

蚊柱からラベルのボレロの連想。素晴らしい感性ですね。ボレロのリズムが伝わってきます。(はま子)

 

見ぬ叔父が一人礎に沖縄忌  岡崎美代子  (4点)

「鉄の雨」が降り続いた沖縄戦の悲惨さは言葉には尽せない。戦後生まれ(?)の作者は叔父さんの顔を知らない。6月23日に摩文仁の丘に立った作者、平和の礎(いしじ)に刻まれた叔父さんの名前に触って何を思っただろう。折しも政府は集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。(高甫)

時代を経ても戦争の悲惨さは続く。見ぬ叔父が一層鑑賞を深める。(せつ)

戦争の悲惨さを知らない人が多くなりました。(小夜子)

 

語り部の卒寿被爆の髪洗ふ  西野編人  (4点)

「被曝の髪」がリアルです。 (芳生)

 

黒南風やコーヒーミルのにぶき音  佐藤武代  (4点)

 

山門のとびら鎮もる若葉雨  満井久子  (4点)

 

青芭蕉杜甫草堂の笛の音  董ろ  (4点)

芭蕉が生涯崇敬してやまなかった杜甫の詩魂の象徴としての笛の音。(柳絮)

 

地下足袋の動きしなやか袋掛  嶋田夏江  (4点)

地味で、苦しい袋掛けも豊かな収穫を夢をみれば足元も軽くなる作業をしている本人より傍で見ている人の期待が描かれている。(繁)

実家が農家で、父が「農作業には地下足袋が一番良い。」と言っていたのを思い出しました。田舎では、お年寄りが元気と言いますが、空気がきれいで、よく歩くことからではないかと思います。(智子)

果樹園での手慣れた作業が活写されている。(閑生)

 

梅雨の夜の書架の古事記が蜘蛛垂す  關根文彦  (4点)

愛読書の並ぶ書架のそれも古事記から蜘蛛の糸が垂れているところに物語性を感じます。(明)

古事記と蜘蛛の取り合わせが面白い。(ユリ子)

 

われに罪あり白日の黒揚羽  中田秀平  (3点)

 

七人の小人隠せり額の花  今井温子  (3点)

梅雨も楽しくなるような。(せつ)

 

神木の闇懐に女郎蜘蛛  早川恵美子  (3点)

 

青葉して鳩のくぐもる御岳森  伊是名白蜂  (3点)

 

縄文のピアスの穴へ青葉光  町野敦子  (3点)

 

風鈴や母が奏でる子守唄  菅野強  (3点)

涼風が風鈴を鳴らし、うたたねしているのでしょうか (赳夫)

 

北斎の白浪の軸夏座敷  森山ユリ子  (3点)

 

棘付きの薔薇贈りたき今日の夫  中川手鞠  (3点)

わざわざ「棘付き」とは、怖いですね。 (赳夫)

わかる、わかる。父の日でしょうか、ちくりとやってやりたい(多分無神経な、、)夫。本当は愛していても、ね。(美代子)

 

アマリリス真赤なドレスの似合ふひと  内藤繁  (2点)

夏の日の濃紅色の大きなアマリリスと真っ赤なドレスの人がマッチしていると思います。(孝子)

女優さんで言えば、原田美枝子さんのような方でしょうか。美しいけれど、少し近寄り難いような女性。鮮烈なイメージで取りました(智子)

 

蝦夷梅雨や接骨木の実の青くあり  中田秀平  (2点)

 

蚊帳のなか少年のままで母の傍  菅野強  (2点)

 

古簾二枚下ろして写経の間  柴﨑万里子  (2点)

 

山裾を攻めて青田の広がれり  荒川勢津子  (2点)

 

少年の喉の透けゐる枇杷の頃  安光せつ  (2点)

まだ汚れを通していない透けるような処に黄金色に眩ゆく輝く「枇杷」を詠まれたとも受け取りました。(強)

爽やかなエロース。(小夜子)

 

水やりのホースが芝に夏館  土屋香誉子  (2点)

初夏を感じます。(小夜子)

 

水中花の泡透明なエレベーター  石川由紀子  (2点)

われわれも泡の中に閉じ込められ、昇天するのかも?それにしても取合せがお見事 。(繁)

良く観察されてますね。透明なエレベーターとは、おしゃれな表現ですね(麻実)

 

青嵐かつて村上水軍旗  室明  (2点)

栄枯盛衰は世の常。せとなみ海道を詠まれた雄大な句だと思います。(博子)

 

天割つて地も割り海もはたた神  佐藤博子  (2点)

雷さまの季節さわらぬ神に祟りなし。(豊)

 

長城の万里の長さ星涼し  齊藤昭信  (2点)

壮大な風景を育む我が国の夏の風物詩です。(董ろ)

 

洛陽の紙に四君子風涼し  董ろ  (2点)

 

藍浴衣眉目よき人の下駄の音  鈴木楓  (2点)

 

閂を外し薫風いざなへり  和田仁  (2点)

薫風が広い門から気持ち良く入って来そうですね。(ユリ子)

 

おりょうさんのゆかりの店や水を打つ  満井久子  (1点)

 

生ビール一人ひとつの家庭持つ  澤田和弥  (1点)

 

ぬばたまの月の光や髪洗ふ  中川手鞠  (1点)

 

ベドウィンの幕屋の異彩砂漠灼け  森山ユリ子  (1点)

 

よしきりの地鳴きの合唱水の郷  中村光男  (1点)

季語よしきりが生き生きとしています。(貞郎)

 

ヨツト来る利休鼠の雨の島  永井玲子  (1点)

北原白秋の利休鼠の雨の島。ヨット来るがいいですね。(編人)

 

衣更へ朝日を弾く乙女の美  山本光華  (1点)

 

黄の薔薇を咲かせデイケアステーション  荒木那智子  (1点)

 

牡丹にきぬずれの音なかりけり  芳賀赳夫  (1点)

 

下町や蠅取りリボン吊し売る  根岸三恵子  (1点)

「下町」とくればさもありなんと思います (赳夫)

 

夏めくや影一つ置く手水鉢  原豊  (1点)

 

夏蝶や一本道は海に向く  和田仁  (1点)

 

蓋重し香水瓶のいかり肩  渡部有紀子  (1点)

 

割り箸をぴしりと割りて冷奴  阿部旭  (1点)

 

牡丹剪る貴妃に末期のなかりけり  芳賀赳夫  (1点)

 

漁師船卯月の海の息づかい  原豊  (1点)

 

峡の宿天水で炊く豆ご飯  髙橋紀美子  (1点)

鄙びた宿で供されるその土地ならではの御馳走と受けとめる詩心。(閑生)

 

古文書は土地の履歴や螻蛄の夜  町野敦子  (1点)

 

荒梅雨を切り裂くミドルシュートかな  小高久丹子  (1点)

 

黒みたる枇杷の葉に乗せ土用灸  土屋香誉子  (1点)

 

山背吹く陸奥の夜の忍び駒  滝澤たける  (1点)

冷たい雨模様の夜、かすかに爪弾く三味線の音色に深い哀愁を感じます。(明)

 

漆黒の鳥の残像梅雨深し  明隅礼子  (1点)

上五の表現が効いています。(和弥)

 

写経日のスリッパ二列紫陽花寺  柴﨑万里子  (1点)

スリッパ二列という表現に清らかな寺の空気を感ずる。(ユリ子)

 

舟涼し汪洋として最上川  内藤芳生  (1点)

三大急流として名高い最上川ですが、中七によって芭蕉の句とはまた違った大河の姿に思いを馳せました。(博子)

 

水彩画のごとき街なり梅雨深し  明隅礼子  (1点)

景がさっと浮かんできます。比喩が的確です。(和弥)

 

水瓶に映るイカロス雲の峰  竹田正明  (1点)

太陽に近づきすぎ墜落死したイカロスを灼熱する雲の頂点に見つけたのだ。(柳絮)

 

杉落葉古刹に凛と武田菱  阿部旭  (1点)

滅亡の歴史は悲しみと美しさがあります。杉落葉が効いています。(美代子)

 

太古なる影を映して蓮咲きにけり  竹田正明  (1点)

 

滴れり臨界の危機ふくらませ  小橋柳絮  (1点)

福島のことを思い胸が痛くなります。(温子)

 

那覇の血は太足の孫沖縄忌  岡崎美代子  (1点)

沖縄忌とは昭和20年6月23日沖縄の守備軍総司令官が自決した日を慰霊の日とした。「那覇の血は太足の孫」とは沖縄那覇の血は悲惨の歴史を乗り越えて子から孫へと引き継がれ新しい逞しい力によって沖縄は平和と繁栄の国土となっていくのだと理解した。(貞郎)

 

梅雨籠りキイス死すとの報聞けり  加茂智子  (1点)

ダニエル・キイスですね。彼の作品群を考えると季語がしっくりときていると思います。(和弥)

 

明易の月に白痴のおぼえあり  伊藤高甫  (1点)

 

野生種に古代紫花菖蒲  武藤スエ子  (1点)

 

蓮の露こぼるるまでを鵜は杭に  西脇はま子  (1点)

 

嬋娟(ぜんけん)の花櫛に舞ふ落し文  松山芳彦  (1点)

艶やかで美しい女性の花櫛と恋の予感の落し文。(柳絮)

 

陋巷の?蛄売りの破れ籠  鈴木楓  (1点)

?蛄料理を中国の九賽溝で食べたことがあります。破れ籠で売られていたかも?(博子)

以上

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