<日原 傳編集顧問選特選句>
鮫刻む銅剣春の因幡より 竹田正明 (2点)
鳥取県立博物館所蔵の弥生時代の銅剣に鮫の絵の線刻されていたことを確認したニュースが先日報道された。それを早速
一句に仕立てたのであろう。『古事記』に見える因幡の白兎の神話に登場する「和邇(わに)」は鮫だとされる。その
神話を背景に「因幡」という地名がよく働いた句になっている(傳)。
富士塚にたむろする猫梅日和 石川由紀子 (1点)
富士信仰にもとづき、その山容を模して造られた富士塚。時を経て、今は猫の溜まり場と化しているのである。梅の花の
香るおだやかな早春の日。人間の思いとは没交渉に、好き勝手にミニチュアの富士を占拠する猫の姿態が想像されて面白い(傳)。
<日原 傳編集顧問選入選句>
山葵田の風に研がるる北斗星 早川恵美子 (5点)
中七の「研がるる」の表現が的確で、巧みに独自性を表出してをります。「山葵田」と「北斗星」の取合せも一句の情感を
ブレることなく増幅。手練れの作品として鑑賞。(仁)
いくたびも思い出話す朧かな 土屋香誉子 (1点)
朧かな・・という季語に、やるせない現実も少しあるのかなと感じました。(博子)
古里や納めしままの雛ひとつ 高橋雪子 (1点)
鳥雲にマトリョーシカはつぎつぎと 荒木那智子
蔀戸を全開にして梅まつり 根岸三恵子
元寇の秘史残る里淑気満つ 三根由紀子
雪解靄茅葺き屋根の広さかな 武井悦子
雛調度飽かず眺むる童かな 中川手鞠
<互選句>
繕ひて着る母のもの四温かな 今井温子 (8点)
母恋の情が、切なく湧き上がってきます。(智子)
懐手解いて意外なことを言ふ 和田 仁 (6点)
軽妙な句ですね。お花見にでも誘ってくれたのでしょうか。(智子)
ゆつたりと時の流るる雛の家 中川手鞠 (5点)
旧家に伝わる雛飾り時の重みを感じました。(豊)
二ン月のひかり転がす万華鏡 鈴木 楓 (5点)
光の春と万華鏡の取り合わせが絶妙です(泰子)
天竜川の金波銀波や雪解風 早川恵美子 (5点)
天竜川の雄大さが金波銀波の雪解水で良く表現されている。(芳彦)
麩屋格子織屋格子と初蝶来 松浦泰子 (4点)
古い町並みの春が伝わります。(志昴女)
閑さや津波の浜に若布寄す 内藤 繁 (4点)
何も無かったように時はめぐり今年も、自然界の優しさと恐ろしさを淡々と詠んだ。(貞郎)
一服の抹茶の蒼に春立ちぬ 内藤芳生 (2点)
的を絞り、削ぎ落した簡潔な表現が、句材ー深閑とした茶立ての雰囲気ー閑寂な風趣を的確に醸しております。読み手が
イメージを明快に描ける心地よい作品です。(仁)
二人して共に米寿や梅日和 土田栄一 (3点)
お幸せですね、季語梅日和がいいですね。(貞郎)
春の雪仕掛け絵本の窓ひらく 荒木那智子 (3点)
降っては消えるやさしい春の雪を窓越しに眺めながら、暖かいお部屋で絵本を開く母と子の楽しいひと時を思い浮かべま
した。(明)
いつの間に牛無き牛舎辛夷の芽 荒川勢津子 (3点)
大切に育てられていた牛がふときずくと居なくなっていた、寂しい、哀れさを季語辛夷の芽が効いています。(貞郎)
歌声は十五の別れ春の土手 妹尾茂喜 (3点)
貝尽し春の蒔絵の料紙箱 松山芳彦 (3点)
斜光に反応する貝象眼の蒔絵なら春の潤いである。(柳絮)
春光を爪弾いてゐるギタリスト 和田 仁 (3点)
暖かくなった春の午後、光あふれるベランダで心地よくギターを爪弾いている光景が見えます。(明)
左手に父右の手は風車 上脇立哉 (3点)
母ではなく父は育めんのお父さんがんばって(みつ子)
おぼろ月ぬけだしこけて戯画兎 小橋柳絮 (3点)
鳥獣戯画から兎が飛び出しこけるなんて発想の豊かさに敬服。季語のおぼろ月が効いてますネ(麻実)
梅一輪挿して華やぐ古机 後藤允孝 (3点)
閑寂な雰囲気(精神の在り様)がよく伝わって来ます。下五に「古机」を据えて中七の「華やぐ」の表出ー狙いは理解でき
ます。しかし上五「梅一輪」との取合せが少々気になります。(仁)
大試験離れ住む子の絵馬高く 三根由紀子 (2点)
せつない親心ですね(泰子)
国栖奏(くずそう)のゆるやかな春横笛(よう・じょう)に 松山芳彦 (2点)
鳥曇大海となる忘れ潮 小野恭子 (2点)
鳥曇と忘れ潮がとてもよいと思います(泰子)
能舞台灯りてをりし朧かな 根岸三恵子 (2点)
兄は昨夏、謡曲「砧」の舞を最後に他界した。「砧」は世阿弥の作、シテは芦屋なにがしの妻。上京した夫の帰国を待ち
わびて砧を打ち、ついに病に倒れて他界する。兄と能との不思議な縁である。(茂喜)
髪を切る鋏の音や雨水の日 高橋雪子 (2点)
草木の芽の萌えいずる時季、髪切って新しい季節のへの節目か?その鋏の音が雨水の雨音を切り取るようにさえている。
中七のやが~気になる。私の使った事のない季語です。(文)
春雨にぬれし庭石利休の忌 土屋 尚 (2点)
濡れ石の光りにわび茶の心を忍ぶ。(柳絮)
強東風や隅田に揺れる舫船 森山ユリ子 (2点)
川の両岸の風景はすっかり変わってしまいましたが、この時期ならでの大川の様子。柳橋あたり思ひ浮かびます。
(小夜子)
君は荒野我は枯野をゆくひとに 岡崎志昴女 (2点)
人生には、厳しい道もあり、その先にはきっと明るい未来がありますよ。(豊)
聞き役に徹して春の小座布団 小野恭子 (2点)
段畑に枯萱埋め二月尽 室 明 (2点)
仮名散らすごと白魚の卵とぢ 髙橋紀美子 (2点)
熱を入れて少し反った白魚仮名文字に例えられて、本当にそう見えますね。(小夜子)
夢食べる漠(ばく)も春眠檻のなか 土田栄一 (2点)
動物園の獏~いつも人の夢を食べている獏、きっと自分の夢を食べているのでしょう。発想が面白い!(文)
永き日の掴みてたたくパンの生地 安藤小夜子 (2点)
古書店に寄り桜餅買ひに寄り 西脇はま子 (2点)
ウキウキ。春~♪(志昴女)
名品をみがく春風陶器市 竹田正明 (2点)
名品はとても繊細なので、この場合は柔らかな風ということだろうか。英国のアンティーク食器を想像してワクワクした(やよひ)
春めきて明るき貌の鳥来たる 明隅礼子 (2点)
春の陽気に誘われ、鳥たちの貌も明るく微笑ましいです。(允孝)
春浅し百の羅漢に百の翳 原 豊 (2点)
聖者であっても悟りの陰影はそれなりの違いがある。(柳絮)
薄氷の底覗きをり鷺1羽 浅井貞郎 (2点)
ダイサギでしょうか、じっと薄氷の下を見つめて動かない。しんとした風景です。まだ冴え返る季節。(志昴女)
裾からげ神官磯に若布刈る 嶋田夏江 (2点)
ペンギンの尾を振つてゐる春祭 西脇はま子 (1点)
手探りで子を探しゐる春の闇 明隅礼子 (1点)
やはらかき風吹きはじめ春に入る 齋藤みつ子 (1点)
ひな祭り半熟卵にカレーパン あさだ麻実 (1点)
卵は半熟、パンはカレーのたっぷり入った揚げパン。保育園の昼食時の光景でしょうか。お雛様もにこにこされておられ
ます。(はま子)
給りし二十四時間二月尽 安藤小夜子 (1点)
風車気象予報士風を読む 松浦泰子 (1点)
春は風によっては晴れたり雨になったりと予報は大変ですが、漁師の方は風向きで判断するとかそれを風車と掛け合わせた
のは良いなと思いました。(みつ子)
鶴折りし小児病棟二月尽 鈴木 楓 (1点)
白熊の虚の獣舎や涅槃西 佐藤博子 (1点)
家持の歌吟ずれば雲雀鳴く 内藤芳生 (1点)
立春大吉針の糸先天を射る 原 豊 (1点)
男系や妻に小さき夫婦雛 上脇立哉 (1点)
蕗の薹味噌の苦みや手酌酒 阿部 旭 (1点)
春の香をつまみに手酌で飲む酒、景のよく分かる句ですネ。お酒はやはり手酌に限りますネ(麻実)
屋上に蜂舞ふ巣箱銀座産 岩川富江 (1点)
養蜂をしている場所が都会の真ん中、それも洗練された銀座という意外性が楽しい(やよひ)
縄文の祈りの土偶二月尽 浅井貞郎 (1点)
もう君が遊ぶことなき風車 加茂智子 (1点)
幼き頃に遊んだ風車、もう遊びはしなくなったんですね。(允孝)
杉花粉振り切る先の欧羅巴 結菜やよひ (1点)
花粉症のぐずぐずを振切りさっと欧羅巴へ旅立つ。気風の良さを感じます。(ユリ子)
春疾風やさしくなろうといふ標語 土屋香誉子 (1点)
疾風とやさしくなろうは合っています。(みつ子)
春浅き永遠(とわ)の聖母は絵の中に 結菜やよひ (1点)
早春の息吹を拾ふ奥飛騨路 後藤允孝 (1点)
奥飛騨路という土地名に、春の暖かさと厳しさの残る季節を実感しました。(博子)
カードゲーム落第の子も声あげて 土屋 尚 (1点)
各停の窓に流れる春灯 江原 文 (1点)
ゴンドラの唄ぶらんこを軋ませて 小橋柳絮 (1点)
古い映画のシーンを想い出す。(ユリ子)
たんぽぽや両手でつかむママの胸 佐藤武代 (1点)
竜天にのぼる子飼ひの虎眠る 佐藤博子 (1点)
天の支配者竜と、地上の猛獣虎を配し天地を自在にする神への畏怖!虎が眠るのは地上が安泰だから~いや、もう神の力
でもどうにもならないから~リズムが良い、竜、天、虎スケールが大きい季語が面白い!(文)
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