<対馬 康子 最高顧問選 特選句>
天涯の赤星もらふ雪兎 杉美春 (6点)
丸めた雪に小さく赤い実を目に、葉っぱの耳をふたつ付けるとかわいいうさぎ。ここでは遠く赤く見える星を兎の目にするという。ここでは遠く赤く見える星を兎の目にするという。
やがて解けてしまう雪の兎のはかなさと、はるか天涯で爆発し消滅してゆく星との命が交歓しあうかのようである。(康子)
赤星をいただく雪兎とは、スケールの大きい句だと思いました(律子)
雪兎の最後の仕上げの目が空の果の赤い星とは壮大で美しいですね。(泰子)
初凪の海ペガサスの四肢映し 小橋柳絮 (1点)
新年を迎えた風も波もない穏やかな海を、真っ白い天馬が嘶くように天駆ける。躍動感あふれ引き締まったその四肢が清新な海に映っている。元日の景を大きく幻想的に捉えていて独自性がある。(康子)
シャガールの馬を想像しました。(博子)
<対馬 康子 最高顧問選 入選句>
古代米うす紫の春の粥 髙橋紀美子 (8点)
私は玄米でよく御粥を食べますがおいしいですね(みつ子)
古代米を粥にすると薄紫になるのかな、季語春の粥が効いています。(貞郎)
朝粥の湯気の中に稲作の弥生人の生活を引き寄せる。古代米、特に糠の部分に紫黒の色素をもつのが黒米といわれ、少しだけ精米すると紫色にかわるという。季節は春、花明りの水がぬるみはじめる静けさ。(茂喜)
うす紫の粥が美しく、いかにも春を思わせます。(泰子)
ピンク色の岩塩をかけて食べたら。。。。想像が膨らみました。(麻実)
短日や見つかるやうにかくれんぼ 松浦泰子 (5点)
短い冬の日ざしの午後の公園。隠れん坊遊びに興じる母と子。鬼から逃げる母の隠れ場所はいつもの滑り台や木陰。「見つかるやうに」が光る。見つけた喜びは幼児のもの、母の笑顔とともにいつまでも子の記憶に宿る。(茂喜)
すぐに見つかるように隠れた鬼さんのやさしさが見える様です(温子)
酒器に浮くコルクの欠片春愁 杉美春 (4点)
ワインをあけるときコルク栓を崩してしまうことがある。ちょっとした不首尾の気持ちを春愁という季語で表している(光男)
浮いているコルクの欠片と、もろもろの春愁がよく合うように思いました(律子)
夢殿の閉門の音日脚伸ぶ 今井温子 (2点)
夢殿の雅な佇まいに春の日射しが少しずつ長くなっていく。音が効果的。(ユリ子)
シベリアのぶつとき剣の寒波来る 米田清文 (1点)
宝物館出で薄氷のひかりかな 室 明 (1点)
読初は老いても谷川俊太郎 土屋尚 (1点)
屋島より風の寄せ来る若布干す 今井温子 (1点)
歴史を感じさせます(早・恵美子)
<互選句>
通夜終へて大きな寒の闇に入る 内藤芳生 (7点)
遺体に詰める通夜ではなく、焼香して帰る一般的な通夜ですね。親しかった友の死を感じさせる夜の深い闇です。(志昴女)
親しい人が亡くなり心に大きな穴が開き、寂寞感に襲われている。その心を今の気持と同じように冷たく暗い寒の闇が包む。何れ其処へ自分も逝くのだ。(勘六)
中七下五に亡き人への想いが溢れている。(文)
中七が通夜の厳粛さを伝えていると思います。(明)
「寒の闇に入る」の表現が実感として分かります(ユリ子)
面とればあどけなき顔寒稽古 安藤小夜子 (7点)
寒げいこ頑張れ(みつ子)
剣道の寒稽古、鋭い声が道場に響く。しかし稽古を終え正座して面を外すと、予想外の幼い顔だった。幼子が厳しい伝統武芸の修練に励む姿に驚かされた。(勘六)
疎に密に雪の降りくる光堂 和田仁 (6点)
金堂に降る雪が疎であり、密であるという不思議な感覚が感ぜられて面白い。(芳彦)
日本画の題材になりますね(早・恵美子)
静寂の中、白に包まれていく美しい景だと思いました。(博子)
消しゴムを固しと思ふ寒九かな 上脇立哉 (6点)
確かにゴムは寒くなると硬くなる。ちょっとした生活情景の中に季節の移り変わりをよく捉えているとおもう(光男)
いかにも寒九の寒さには、何をも本当の姿にする清さがある。消しゴムもしかり~(文)
下萌ゆる弥生遺跡の竈跡 内藤芳生 (4点)
弥生の歴史に即して上五、下五が配されています(清文)
佳きことは聞きもらさじとシクラメン 髙橋紀美子 (4点)
シクラメンの可愛い花は伸びあがり競い合って嬉しい話しを聞いている メルヘンチックが楽しいです(温子)
そういえば耳の形の花びらがピンと聞き耳たてているよう、それも一斉に。(泰子)
高砂を小声でまねて女正月 松浦泰子 (4点)
小声でまねて・・・少し気恥ずかしく控えめな女性・・・女正月の季語に合っていると思い共感出来ました。(孝子)
高砂を諳んじている様子が目に浮かんで来ます。小さな声も聞こえてくるようです。(相・恵美子)
初音聞く箱根八里の石畳 土田栄一 (4点)
初音と石畳の取り合わせが面白い、石畳で初音を聞いたとは運が良かったですね。(貞郎)
竹藪沿いに石畳があるのでしょうか。初音のha音、箱根のha音、八里のha音と続いて気持の良い句となっています。(明)
立春大吉とげぬき地蔵に参りけり 高橋雪子 (4点)
立春はとげぬき地蔵の縁日の日、句のリズムもよく諸病のとげを抜いてもらいに行きたくなります(律子)
点描に人を置きたる銀世界 小高久丹子 (4点)
死ねばただ墓碑に一行冬銀河 鹿目勘六 (3点)
その通り、と最近は思います。でも自分はそれすら無しの選択をしました。(志昴女)
散骨も良し一行の墓標も良し、生きてこその人生冬銀河が効いている。(文)
蒼天をからめとつたり寒桜 江原文 (3点)
作者の非凡な感性、把握の仕方、表現の仕方。俳諧の手法として大いに納得。楽しめます。(仁)
なんとスケールの大きい句なんでしょうか。(麻実)
鴉鳴く度に膨らむ冬芽かな 竹田正明 (3点)
膨らんでゆく冬芽からは春の予感が強くする。鴉も春が来るのを待っているのでしょう。鴉が鳴くと冬芽が膨らむ、ユーモアの感じられる句。(はま子)
春を待つ出産育児の書を購うて 内藤繁 (3点)
春へと躍動するハッピーな雰囲気が、素直に的確に伝わってきます。更なるお幸せをお祈りします。(仁)
生まれてくる子を待ち詫びている様子がよく描かれていると思います。(相・恵美子)
若菜摘む大和島根に膝をつき 早川恵美子 (3点)
景が大きくて面白い。風情がある。(美春)
万葉集の巻頭は雄略天皇の若菜摘みの歌。「大和島根」の措辞より、雄略天皇が若菜を摘む乙女たちに話しかけている様子が思い浮ぶ詩情豊かな作品。(はま子)
冴えかへる画狂老人卍の絵 妹尾茂喜 (3点)
画狂老人卍は88歳まで生き、猫一匹満足に描けないと言った葛飾北斎の晩年の屋号と言われている。季語「冴返る」は見事に北斎の焦燥感を表わしているように思われる。(はま子)
日脚伸ぶほんの畳の数目ほど 中川手鞠 (3点)
枕木や其処のけ吾はつくしんぼ 早川恵美子 (3点)
「枕木や其処のけ吾はつくしんぼ」としたところ一茶の句を連想させて面白い。(芳彦)
廃線となった過疎の村を想像しました。「其処のけ」と「つくしんぼ」という措辞から哀感をおぼえます。(明)
春愁やピカソの女神眼の四つ 森山ユリ子 (3点)
ピカソの女神は何を見つめているのでしょうか。その四つの目で。私の背後にはそこはかとない愁いが蹲っているのです。(志昴女)
漱石の描きし猫の絵日脚伸ぶ 西脇はま子 (2点)
日脚伸ぶが効いています(清文)
景のなかに私も入っていきたくなる1句でした。(博子)
冴え返る書斎の壁の解剖図 森山ユリ子 (2点)
書斎の壁にかかっている解剖図を眺めていると、人間なんて所詮、骨と筋肉でできているものなのだとい考えてしまう。そういうニヒル感が冴え返るという季語で表現されている(光男)
まじなひを少し信じつ厄詣 満井久子 (2点)
梅が香やデスクワークの巡査ゐて 米田清文 (2点)
うららかやボトルシップの満艦飾 石川由紀子 (2点)
春立つ日風に歩幅の軽くあり 江原文 (2点)
春近し臥す兄に買ふ「サザエさん」 満井久子 (2点)
サザエさんが良いですね、すぐに元気に成られる事でしょう。(孝子)
兄への優しい思いが伝わってきます、励ましには「サザエさん」が良いですね。季語春近しが効いています、お兄様はもうすぐ退院できるでしょう。(貞郎)
若冲の絵より錦鶏春近し 中川手鞠 (2点)
若冲の絵は華やかで細微な輝きを持っている。艶やかな鶏が絵から飛び出て来るように写実的だ。鶏も春を待っているようだ。(勘六)
しかと立ち見上ぐる先の寒昴 佐藤律子 (1点)
初旅はトレド巡礼夢の中 松山芳彦 (1点)
金糸魚は海のひかりを撚り重ね 佐藤博子 (1点)
生か死か雪降りしきる風の中 浅井貞郎 (1点)
初場所や本家本元雲龍型 岩川富江 (1点)
深雪晴白きマリアの白き笑み 小野恭子 (1点)
アートですね。特に座五「白き笑み」。作者がカンバスに向かって絵筆を操っているような錯覚に陥ります。(仁)
女正月お勧めメニューに決まりけり 相沢恵美子 (1点)
雪しまく都大路を女子駅伝 鈴木楓 (1点)
雪の中を若い女子選手が懸命に走る。それだけで絵になる(ユリ子)
鬼やらふ声りんりんと尼管主 荒木那智子 (1点)
女庵主の凛々しい声、と表現したところに節分の祓への思いが凝縮されています(清文)
鉢花に寒明けの水惜しみなし 荒川勢津子 (1点)
よく育つように春に向かい水をたっぷり遣っている様子がよく描かれていると思います。(相・恵美子)
この山のただ一輪の帰り花 明隅礼子 (1点)
搾乳の学生の手の皹赤し 佐藤武代 (1点)
朝食に喉を鳴らして飲む牛乳は一日の起動。牛乳が食卓に届くまで多くの人の手をわずらわせる。特に搾乳は早朝の牛小屋。人の手指を消毒し、牛の乳頭を拭き、牛の乳汁はしぼりつくす。学生の赤き手に感謝。(茂喜)
初夢や職を離れて職のこと 上脇立哉 (1点)
悪夢だったのでしょうか、それとも懐かしい夢?(美春)
手袋の手つなぎフォークダンスの輪 土屋香誉子 (1点)
初詣下駄は神世の音すなり 原 豊 (1点)
下駄が神代の音がするとは中々気付かない。発想がよい。(芳彦)
風花の舞つて吟行始まりぬ 中村光男 (1点)
以上
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