天為ネット句会報2018年2月

 

天為インターネット句会2018年2月分選句結果

(作者名の後ろの点は互選点)
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。また互選句は高点句から順に、同点句は句稿番号順に並べました。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<福永 法弘 同人会会長選 特選句>

一葉の路地に寄り来るかじけ猫          鈴木 楓   (3点)

本郷か、それとも、千束か。文人としての本郷暮らしより、まだ無名で貧しかった千束の方が、かじけ猫の季語からして、似合いの地だ。一葉が開いた駄菓子屋に近所の貧しい子供たちが寄ってくる、中に一人、特に貧しいので銭を持っていない子が混じっている、そんな光景が思い浮かぶ。(法弘)

悴け猫という言い方が面白くよい。然も一葉の路地に寄って来るとしたところ、文学に精通している方と思う。(芳彦)

まんさくや谷中初音の錻力店           妹尾茂喜   (2点)

鶯谷の近くなので初音と付けられたと伝わる町名。今は通りに名前を残すだけですが、その地名を上手く生かして、まんさくの黄花を季語に、実際にあるブリキ店も詠みこみ、東京下町の春をやさしく描き出しています。声に出して読んだときの中七下五のリズムが心地よい。(法弘)

その土地の由緒がわかるような地名も美しく、春光に反射するブリキの色など想像が膨らみました。(博子)

<福永 法弘 同人会会長選 入選句>

初暦まだ見ぬ国の空があり            明隅礼子   (7点)

JALのカレンダーは、毎年、世界の都市と美女。めくると、行ったことのない、見たことのない場所で、その地の美女の艶然たる微笑。世界は広い。初暦とまだ見ぬ空に、旅心が刺激される。(法弘)

行ったことのない国内外のカレンダーが届く度に、ワクワクします。「見ぬ国の空がある」・・素敵な表現だと思います。(博子)

子規庵の一机一碩日脚伸ぶ            浅井貞郎   (6点)

日脚伸ぶの季語が、闘病の子規と切なくマッチする。(法弘)

子規を囲んで楽しく語らった友人たちが作ってくれた硝子戸から今年も春の日が燦燦と降り注いでいる光景、子規庵を訪ねる度に暖かい気持ちにさせられます。(明)

パレードは凱旋門を抜けて春           内村恭子   (5点)

長く暗い冬が終わったヨーロッパのどこかの都市の風情。春も良いが、五月とするのも一考。(法弘)

色鮮やかな絵画をみているような感覚に襲われる秀句だと思いました。(美穂)

運勢の開けて行くような景の展開に好感。俳句ならではの誇張解釈をするならメタファーの効果抜群。明るい未来に、また一歩、また一歩。(仁)

カーニバルかしら?人々の嬉々とした様子が見えるようです(早・恵美子)

とんかつ屋に志功のほとけ春隣          高橋紀美子  (4点)

とんかつ屋の店主が志功のファンなのか、志巧がトンカツ好きでこの店に立ち寄ったのか、ちょっと気になったりする。季語の春隣は、なかなか面白い選択。(法弘)

う~ん、棟方志功のふくよかな観音像、確かにカロリー高めのお店にはお似合いかも。(志昴女)

とんかつ屋に志功のほとけの版画が掛けてあった。志功の版画は明るいものが多い。そこで、春隣したところ、なかなかの名句。(芳彦)

とんかつ屋と志功の絵の取り合わせがいいですね。(光男)

口ほどに夫憎くなし女正月            満井久子   (3点)

なるほど、そうですか。ひと安心。(法弘)

ハイ、そうなんですよ。皆の手前旦那の悪口は言いますがね、本心は”結構いいとこあるじゃないの”(笑)。(志昴女)

ついつい盛り上がってきて大げさに言ってしまうのも女正月ならではでしょう。本心は結構可愛いものです。(泰子)

年末年始の忙しさからやっと解放される女正月、つい口から出るのは夫の悪口。それも口ほどではないと詠んだところが面白いと思います(律子)

風花やゲーテの恋の詩碑古りて          森山ユリ子  (1点)

詩碑も古りたが、恋心の表現の仕方も古びたのかも。(法弘)

待春のぬらりと鯉の背鰭浮く           渡部有紀子  (1点)

寒中は身じろぎ一つしないはずの鯉が、春を待ちきれずに、背びれをほんのわずか動かしたのだ。春が待ちきれないのは鯉とて一緒。寒鯉の緩い動作を、ぬらりの一語でと捉えたところが巧み。(法弘)

春立つや花舗に黄花の増えしこと         中川手鞠   (1点)

クリスマスの頃は赤だったが、春になると黄花が増える。光が外にはじける色だ。(法弘)

神農街小さき玻璃戸に春を待つ          渡部有紀子  

神農街は台南の古い街で、最近、観光客に人気のスポット。店の正面も、最新のサッシ扉ではなく、昔ながらの建具にガラスをはめ込んだ扉。古き日本がどこかに漂うノスタルジックな老街。海外俳句の場合、季語が難しい。台湾は戦前、日本領土だったことから俳句が盛んで、台湾季語なるものがあった。ご参考に。(私のHP「石童庵」にも、「旧領の日本語俳句」という台湾季語に関する一文を載せています。)(法弘)

笹鳴きや信玄の姫祀る寺             荒川勢津子  

武田信玄には5人の姫があったとか。それぞれ違う人生を歩んだはず。笹鳴きにふさわしいのは何姫?(法弘)

三猿もきっとせしこと日向ぼこ          加茂智子   

温泉に入る猿や居酒屋でお運びをする猿が外国人観光客に人気だそうなので、日向ぼこする三猿がいるのなら、きっと人気者になるだろう。(法弘)

薔薇雲を蔵す岩塩寒明ける            荒木那智子  

ヒマラヤの岩塩は薔薇色。それを、薔薇色と言わず、薔薇雲を蔵すと表現したところが、ひとひねりあって、なかなか良い。岩塩の色合いと寒明けの季語の取り合わせも絶妙。(法弘)

門限の八時は早し初観音             永井玲子   

昔、わが子が中学生になったときに、「お父さん、我が家は門限何時にするの?」と聞くので、「日没だ」と答えたら、「アホ」と言われて、我が家では門限の設定が出来なくなってしまった。午後八時なら、日ごろは問題ないが、初観音で遠出、しかも、出し物や夜店がたくさん並んでいては、もう少し遊んでいたいのが人情だろう。(法弘)

大山は大きなる楯去年今年            瀬尾柳匠   

鳥取の大山(だいせん)か、丹沢の大山(おおやま)か。まあ、どっちにしても、慣れ親しんだ山々が、大いなる楯となって、この地を守ってくれているのだ。スケールの大きな、土地への挨拶句。(法弘)

<互選句>

啖呵切る与三は羽子板はみ出しぬ         中村光男   (10点)

すぐさま啖呵を切っている与三の顔が想像されました。「はみ出しぬ」に効果があると思います。(相・恵美子)

見得を切る与三の姿が目に見えるようだ。羽子板に収まらない勢いに活力ある一年を願う思いを感じた(勘六)

羽子板の切られ与三は粋ではみ出しているのですから迫力でしょうね。(泰子)

大見得を切った様子が目に浮かびます(早・恵美子)

戦乱を見て来し雛の伏目なる           杉 美春   (7点)

お雛さまの伏し目を、戦乱を見て来たからだと・・素晴らしい感覚だと思いました。由緒あるお雛様を想像しました。(美穂)

戦時中にかろうじて焼失を免れた雛飾りを見つめながら、作者は二度とあのような戦が起きませんようにと祈っているのです。下五がそれを暗示しているように感じられます。(明)

由緒ある古いお雛様は戦乱もまた見たのだろう、と想像されたのでしょう。その想像は雛の世界を広げてくれます(律子)

初稽古正しき音を聞き分けぬ           明隅礼子   (5点)

年が改まり種々のお稽古が始まります。私の茶道教室にもかすかでは有りますが様々な音がいたします 心してそれらを聞き分ける事も務めと威儀を正しています。(温子)

音楽を生業としている身としてはそうあってほしいです(早・恵美子)

地の果てを見むと風切る奴凧           竹田正明   (5点)

武家社会の中での奴の心意気が頼もしくも侘びしくもある。(柳絮)

凧揚げ大会でぐんぐん上昇していく奴凧を「地の果てを見むと風切る」とは勢いがあって力強い句となった、素晴らしい。(貞郎)

雪が来てまた雪が来て朝市女           和田 仁(5点)

「雪が来てまた雪が来て」と畳みかけるようなに謳いあげ見事に雪国の詩情を醸し出している。朝市女は雪女の化身の様に思われます。(はま子)

1日だけの大雪にも、てんやわんやの関東でしたが、雪国に生きる女性の姿を美しく詠まれていると思いました。(博子)

蕗味噌や土の目あらき備前焼           佐藤博子   (5点)

蕗味噌に備前焼が合いますね。「土の目荒き」の言い方が良いと思います。(相・恵美子)

絵本から雪の結晶飛び出して           高橋雪子   (4点)

雪の結晶が飛び出しす絵本。私もこんな絵本が欲しいですね。(はま子)

人は綱犬は光を曳きて春             早川恵美子  (4点)

チェロのごと響きてゐたる冬木立         和田 仁   (3点)

冬木立の「木」とチェロの材質が相まって、音の響きが聞こえてきそうな秀句だと思いました。(美穂)

作者の心が聞き取ったチェロの響き。冬木立に宿る命がひしひしと感じられる。(はま子)

春ショール恋の神籤の列長き           佐藤博子   (3点)

「春ショール」で、春の生命感と華やぎが表現されていると思います。(ユリ子)

風の色見ゆる眼鏡や良寛忌            中川手鞠   (3点)

良寛は命の存在感を風になぞらえた。そんな眼鏡があったなら!(柳絮)

良寛さんには風の色もきっと見えたのでしょう、そう思える句です(律子)

黄水仙臓器提供承諾書              佐藤武代   (3点)

渡り行く石橋木橋春の星             松浦泰子   (3点)

紙漉の水なめらかにゆるやかに          石川由紀子  (3点)

情景が目に浮かんできます。(智子)

錫杖の闇打つ音や寒修行             原 豊    (3点)

絶対的な五感の静寂を打つ、絶対的峻厳にして慈愛であるべき錫杖の音。五七五に描かれた景色を突き抜け絶対的求道者の想念の世界までイメージが拡がります。簡潔にして適確な一句。(仁)

蝕の月天心にあり雪の嶺             西脇はま子  (3点)

1月31日の皆既月蝕は全国何処ででも見られた、しかしこの雪の嶺にかかる触の月はさぞ幻想的で素晴らしい月だったのでしょう、私も観たかった。(貞郎)

モネの手紙見し美術館雪降れり          原 道代   (3点)

妻の愛の喪失感が新しい光を発見させた。哀愁の時の象徴としての雪。(柳絮)

手紙の内容はわかりませんが、「雪降れり」で晩年のしみじみとした心情かと想像しました。あわせてモネの絵の静かな華やぎも感じます。(ユリ子)

凍鶴の足一本の水の朝              竹田正明   (2点)

「足1本の水の朝」まさに凍鶴の姿が迫ってきます、素晴らしい。(貞郎)

初場所や世間話も七五調             加茂智子   (2点)

臘梅やここは川岸一丁目             荒木那智子  (2点)

たびらこの寂と受けゐるたびら雪         室 明    (2点)

たびらことたびら雪、違う言葉なのにリフレインとして上手く使っている。よい言葉を知っていますね。(光男)

葬列の老の帽子に風花す             森山ユリ子  (2点)

小豆煮る匂ひや街の小正月            岡崎志昴女  (2点)

上京の少年ひとり雪を掻く            土屋香誉子  (2点)

さすらひの風花エデンより二片          小橋柳絮   (2点)

幻氷の楼門目指す尾白鷲             松山芳彦   (2点)

幻氷の楼門、いいですね。(光男)

国宝の揃ひて奏す小松引             土屋 尚   (2点)

丁寧にたたむ大吉初御籤             阿部 旭   (2点)

春隣りサーカスピエロの鼻ピアス         安藤小夜子  (2点)

春がくる心のときめきと楽しさがよく伝わってきました。(ユリ子)

冴ゆる夜や吊られし木偶の一並び         小野恭子   (2点)

舞台の裏にずらりと並んだ木偶の姿を想像するとき、季語がぴったりだと感じます。(明)

煮凝の琥珀の海に眠りをり            佐藤律子   (2点)

琥珀の海に眠る、とは確かに煮凝りの在り様を的確、詩情豊かに表現されたものだと感銘を受けた(勘六)

遠く近く甲斐の連山淑気満つ           内藤芳生   (2点)

冬晴れが続く地方の山は青く霞んでいます。山なみが続く甲斐の国、こんな感じですね。(志昴女)

雪解川切岸哭かす修羅落し            早川恵美子  (2点)

「切岸哭かす」の言い方が緊張感が出て効果があると思います。(相・恵美子)

初みくじ凶といへども今を生く          佐藤武代   (2点)

漆黒の闇に雪には成れぬ雨            森野美穂   (1点)

満願の力士の髭や寒晴るる            中村光男   (1点)

探梅や月ヶ瀬の空湖の蒼             今井温子   (1点)

雪女の裳裾消えゆく螺旋階            相沢恵美子  (1点)

春月やまことに丸き鹿の糞            杉 美春   (1点)

逆さ富士小舟を抱き海小春            染葉三枝子  (1点)

賑やかに仕事始の保育園             鹿目勘六   (1点)

保育園の先生にとっては仕事始、子供達にとっては待ちに待ったお友達と会える日、その賑やかさに春もそこまで来ているようです。(泰子)

冬の雨ぽつりぽんぽん蒸気ゆく          内村恭子   (1点)

「ぽつり」と「ぽんぽん」のリズム感にメルヘンとポエジーに感じた。(勘六)

上の座の祖母割りくれし寒卵           安藤小夜子  (1点)

慈愛溢れる御様子が読み取れ、心が温かくなりました。(智子)

めでたくもありやなしや初鏡           嶋田夏江   (1点)

日常にふとよぎる実存的こころの揺らぎを余白にさらりと記したような一句。命への戸惑いが軽くもあり、重くもあり、繊細な心理の奥底を垣間見せる一句。ときに沈殿したものを掻き混ぜたくなるような衝動も暗に描出か。こころの綾を重くれず自在に楽しめます。(仁)

天窓に何か降る夜の粥柱             小野恭子   (1点)

天窓に何か降る夜と言って、多分、雪でしょうが何かとしたところ巧妙であり、餅の入った粥をすすているなど面白い。(芳彦)

水仙の一輪風にいやいやを            石川由紀子  (1点)

蕗の薹庭の隅より賜りぬ             嶋田夏江   (1点)

賜りぬと詠まれたお心の有り様に感じ入りました。(智子)

残雪の街にメガフォン献血車           荒川勢津子  (1点)

勇ましく髭剃り器鳴る四温かな          上脇立哉   (1点)

以上

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