<日原 傳編集顧問選 特選句>
鮎番の越後浦佐の訛かな 西脇はま子 (3点)
浦佐は新潟県南魚沼市の地名。江戸時代は三国街道の宿駅であった。町の中央を流れる魚野川における簗の鮎漁は「浦佐簗」として知られる。その簗漁の鮎番の訛に焦点を当てた。「越後浦佐」という地名がどっしりと据わった一句(傳)。
越後浦佐という固有名詞が上手くいかされていると思う (光男)
定型の美を感じました。(智子)
それぞれのことして二人秋深む 土屋 尚 (2点)
子育てを終えた夫婦の生活の一齣を読んだ作であろうか。あるいは、新婚の家庭風景としても読むことができる。「それぞれ」という措辞を用いた先行作としては〈人それぞれ書を読んでゐる良夜かな 山口青邨〉がある(傳)。
趣味の違う夫婦であろうか、ふたり別々のことをして、仲が良い。二人秋深むにそれが現れている。(武夫)
<日原 傳編集顧問選 入選句>
盆供養昔話をもうひとつ 森野美穂 (8点)
個人を偲ぶ昔話はどんなだったのか?。しみじみしたり、豪傑ぶりに盛り上がったり・・。措辞に心惹かれました。(博子)
もう一つの昔話って?思わず引き込まれる感じがしました(律子)
星月夜佐渡は海より闇の来て 岡崎志昴女 (9点)
佐渡は海から暮れて、夜は星空に囲まれる美しい景色を思ひました。(宙)
芭蕉の句を思い出すからでしょうか、佐渡という地名で更なる詩情を感じます。(春野)
満天の星の明るさと漆黒の海の対比が美しいと感じます。(明)
バク転が出来たよ雲よ向日葵よ 今井温子 (4点)
身も心も踊る様子が良く表現されていると思いました。(智子)
帰省子の忘れてゆきし髪飾り 荒木那智子 (3点)
蔦紅葉扉の重きジャズ喫茶 室 明 (3点)
南米の由緒正しい喫茶店を思います(早・恵美子)
自転車で次へ急げり盆の僧 鹿目勘六 (2点)
は~い、急いでいますが、、、、自転車です!いかにもお盆経を上げる御坊様に相応しい。いいですね~(志昴女)
仕事の鬼と言ったところでしょうか(順一)
死ぬ事の軽かりし頃終戦忌 児島春野 (2点)
地母神のトルコの大地雁渡し 長濱武夫 (1点)
子等の折る紙の蓮花盆用意 永井玲子 (1点)
送り火や神通川の暗き土手 阿部 旭
見番に響く三味の音秋簾 鈴木 楓
<互選句>
ビル街の闇立上がる稲光 原 豊 (5点)
稲光によってビルとビルとの暗闇がより鮮明になった句と感じます。西東三鬼の昇降機の句を思い出しました。(柳匠)
どこか古典的な命の香りのある稲光という季語を、現代的で無機質なビル街の闇と取り合せたところが佳い。中七の闇立上がるという表現で、それまで見えなかったビル街の闇が一瞬立ち上がった感じがする。このビル街には、どこか廃墟の匂いがする。(武夫)
闇立ち上がるの表し方が簡潔で稲光の激しい様子が表現されていると思います。(相・恵美子)
稲光の閃光が中七で見事に描写されていると思います。(明)
空蝉にかすかな風の起こりけり 垣内孝雄 (5点)
一寸幻想的な感じがして面白いと思いました (光男)
微かな風にも揺れる空蝉、淋しさと哀れさが出て秋が来たなぁと感じます。(孝子)
本塁打一本返す秋の空 加茂智子 (5点)
草野球でしょうか秋空へ放物線の白球、さぞ嬉しかったことでしょう。(柳匠)
甲子園での高校野球、逆転ホームラン今年もありましたね! (宙)
爽やかなスカッとした空を感じる気持ちの良い句だと思いました。(美穂)
直球の哀しき速度獺祭忌 野口日記 (5点)
悲しい速度とから逆に、子規のまだ若かりし頃の、直球(歯に衣着せぬ物言い、快活ささえも)が見えるようです。(玲子)
9月19日は子規の亡くなった日、獺祭忌です、「まり投げて見たき広場や春の草」M23年子規の作、野球の好きだった子規の供養にふさわしい句ですね、(貞郎)
剛速球を誇った嘗ての野球少年も年には勝てぬと見えて…(温子)
鮎跳ねて掴む子も跳ね関の簗 髙橋紀美子 (4点)
「跳ねて」の措辞が響き合って梁で歓声を上げて遊ぶ子供の姿が生き生きと表現されています、素晴らしい一句です(貞郎)
上五と中七の「跳ね」から臨場感あふれる句になったと思います。(明)
京アニの霊安らかに大文字 中嶋昌夫 (4点)
大文字は先祖の霊や生存する人の無事息災を祈って行われます、京アニの悲惨な事件で亡くなった方々が安らかになられんことを祈ります(貞郎)
ひややかに武王の白磁耳四つ 髙橋紀美子 (4点)
景品の西瓜抱へてバスに乗り 森野美穂 (4点)
バスで帰ります、なぜって、このスイカ抱えて帰るには田舎道はちと遠い。商店街の賞品なんですよ~大きいでしょ!!(志昴女)
暑い日のみずみずしい西瓜への期待感が、ユーモラスな表現のなかに言い得ていると思いました。(ユリ子)
糸杉の炎ゆるローヌや星月夜 妹尾茂喜 (3点)
絵画的で美しいです(早・恵美子)
地球儀を廻し九月の旅心 森山ユリ子 (3点)
少し涼しくなったので旅心も復活の御様子、同感です。今度は世界のどこを目指されるのでしょう?(春野)
八月の祖国に傷の二つあり 野口日記 (3点)
「八月」は日本国にとって特別な月である。「傷の二つ」で作者は長崎と広島の「原爆」を詠う。「祖国」でその重さを深く刻むこととなる。(孝雄)
編笠のうなじ艶めく風の盆 浅井貞郎 (3点)
風の神様を鎮める富山地方の盆踊で越中おわら節とも言う。特に女性は、編笠で顔を隠し何とも言えない色っほさを感じる。(豊)
編笠で顔は見えないけれど、白い細いうなじが色っぽくて八尾の風の盆良いですね。(孝子)
枝豆を茹でて伊万里の皿の上 垣内孝雄 (3点)
枝豆も伊万里もすばらしい幸福なひととき・・・(宙)
皿の枝豆はさぞ美味しいでしょうね。(昌夫)
雲海の途切れて白き川明り 内村恭子 (3点)
首筋を撫でて行きしは秋の風 鹿目勘六 (2点)
坂の町に老い行く日々や姫女苑 今井温子 (2点)
港町は坂が多いと言われる。「老い行く」は下る動作なのか、いや上る動作だと思う。「天」への坂を上るのである。「坂の町」は人生の舞台である。姫女苑もたくましく天へ咲く。(孝雄)
葎より蝶高く発つ野分あと 佐々 宙 (2点)
町の解放感が伝わります(早・恵美子)
石狩を潤す風や鮭遡上 竹田正明 (2点)
遡上した鮭で風も潤っている様子を上手く表現されていると思います。(相・恵美子)
曲屋の馬の匂ひや秋初め 中村光男 (2点)
辞書の文字曇りて薄れゆく酷暑 片山孝子 (2点)
今年の夏の暑かった事を実感しております (温子)
足踏みのミシンは軋む秋夕焼 武井悦子 (2点)
足踏み式のミシンまだあったんですね。秋の夕焼を見ながら、今日の夕ご飯なににしようかな-と考えている気配もみえる。(豊)
郷愁を感じました。映像が浮かぶように思いました。(美穂)
返信はいつも遅くてソーダ水 渡部有紀子 (2点)
「返信はいつも遅くて」でご自分を、「ソーダ水」でそのことに纏わる青春の思い出を回顧なさっている作者のお姿が浮かんでくる。(孝雄)
ひぐらしのフェードアウトの森暮るる 佐藤博子 (2点)
森が暮れていくにつれて蜩の声も消えていく様子を上手く表現されていると思います。(相・恵美子)
投薬の五指に余りし秋思かな 荒川勢津子 (2点)
季語の愁思と沢山の投薬が何とも感慨深いと思います。(孝子)
みちのくの訛なつかし秋祭 武井悦子 (2点)
久しぶりの故郷に聞くお国言葉、自分は故郷にすんでいるのでこの感覚が羨ましい。(柳匠)
あの時の事責めてゐる蝉時雨 染葉三枝子 (2点)
う~ん。あれはそんなに責められることだったのか?反省はしたけど、、、、夏になると蝉の声が、、、、(笑)(志昴女)
誰しも自責の念に駆られることの一つ二つは持っているもの、それを突いてくるように聴こえる蝉時雨でしょうか(律子)
星流る遠き砂漠に物語 妹尾茂喜 (2点)
砂漠は荒涼感ゆえに、なにか物語を想起させるものですね。(ユリ子)
長い年月に埋もれてしまった物語が沢山あるんでしょうね。ロマンを感じます。(博子)
炎天をまっすぐ行けば夫の墓 片山孝子 (2点)
炎天にも、心励ましてお墓参りされている日常が中七に表現されていると思いました。(博子)
鮎釣に八海山の千切れ雲 西脇はま子 (2点)
晩夏光みづのゆくへを追ひかけぬ 明隅礼子 (2点)
美しく整った句だと思います。(智子)
じょんがらの昂り村も稔り田も 早川恵美子 (1点)
秋もたけなわ、ねぶた祭りや米の収穫で一年中で一番嬉しく忙しい時期でもある。色々と想像出来る言葉が面白いです。(豊)
雁渡し北の防人思ひけり 室 明 (1点)
秀衡の道と伝えて秋晴るる 荒木那智子 (1点)
紫の花を一輪今朝の秋 中川手鞠 (1点)
古茶新茶妻と語らふ昭和かな 土田栄一 (1点)
睦まじい老夫婦の感じが表現されていてよいとおもいます (光男)
竜淵に入るや箸墓蒼深し 中嶋昌夫 (1点)
獅子舞や一寸小休み蜻蛉まふ 阿部 旭 (1点)
ついて来た蜻蛉が獅子頭の動き出すのをさいそくしているのでしょうか。(昌夫)
夏惜しむ龍舌蘭の酒の香に 土屋 尚 (1点)
テキーラはギラッギラの太陽の下、ショットでクッと飲み干すモノかと思いきや、行く夏を惜しみながらもいいかなと。(玲子)
軒つたふ栗鼠の尻尾や木の実降る 佐藤博子 (1点)
山荘で目にすることもあり、的確な表現と詩情を感じることができます。(ユリ子)
黄昏のフォンタネージに秋暑し 窪田治美 (1点)
よく遣ふ紙と鉛筆避暑の宿 明隅礼子 (1点)
使い馴染んだもので秀作が書けそうです。(順一)
蛇行してこその人生流れ星 土田栄一 (1点)
方丈の北斗七星落し水 松山芳彦 (1点)
ガーシュイン奏づ茶房の秋思かな 森山ユリ子 (1点)
今宵またひとり言する夜なべかな 佐藤律子 (1点)
朝市に選ぶ棗の熟れ加減 染葉三枝子 (1点)
一木のはぢらふやうに薄紅葉 中川手鞠 (1点)
~のやうにという句は難しい。しかしこの句は薄紅葉する一木をよく捉えている。作者が表現した「はぢらふやうに」という感覚は万人が感じることかもしれない。一木の薄紅葉に焦点を当て一句を立ち上げている。(武夫)
はたた神会議踊らず果てにけり 内藤芳生 (1点)
盛り上がらなかった会議に対する慚愧の念かもしれません。(順一)
祭果て櫓を畳む朝かな 瀬尾柳匠 (1点)
祭が果てた翌朝に、祭渦中の高揚感を想い出しながら、無事に祭を終えた安堵感も味わいながら櫓を畳んでいる様子が浮かびました(律子)
風騒ぐ疎開に思ふ原爆忌 齋藤みつ子(1点)
74年原爆の悲惨さは記憶から消えるものでは有りません。(昌夫)
秋の蛇縄一本で野良着締む 原 豊 (1点)
以上
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