<日原 傳編集顧問選 特選句>
沈丁の香に動き出す朝の町 染葉三枝子 (6点)
沈丁花が朝早くから高い香りを放っている。その香りのなかで始まる人々の生活。まだ少し寒さは残るが、春の到来は確かに実感される頃のこと。「動き出す」という措辞によって一句のなかに時間が流れ出す(傳)。
朝の路地が見えるようです。(柳匠)
沈丁花の香る早朝、1日が始まる庶民の生活感がいいと思います。(典子)
竜天に登る香炉の白薩摩 石川由紀子 (1点)
「竜天に登る」は仲春の季語。『説文解字』の「龍」の字の説明に「春分にして天に登り、秋分にして淵に潜む」とある。「白薩摩」は「白もん」とも呼ばれる薩摩焼。古くは藩主など上流階級向けに作成された。その白薩摩の香炉を気宇壮大な季語と取り合わせ、格の備わった句となった(傳)。<日原 傳編集顧問選 入選句>
父母の揃ひの箸や花菜漬 永井玲子 (6点)
とても温かい句・・花菜漬の季語がとても合っていると感じます。(美穂)
揃いの箸がチャームポイントだと思いました。(順一)
宍道湖に傾ぐ漁舟や風光る 竹田正明 (6点)
暖冬の今年は早このような光景が見られるのでしょう。(春野)
一幅の絵みたいな景。宍道湖の蜆漁がおこなわれている風景も思い浮かびます。(順一)
遠富士に向かひて麦を踏みにけり 西脇はま子 (5点)
豊作を祈りながら麦を踏む、良い句です、季語「麦を踏む」が動かない(貞郎)
日本の原風景の一つだと思う。富士を拝する気持ちは尊いです。(博子)
地虫出づ旧街道の道標 相沢恵美子 (4点)
災厄に人無き街の冴返る 土屋香誉子 (2点)
1日も早い終息お願うのみ(貞郎)
新型コロナウイルスが蔓延している現状を上手く詠んだと思います。(相・恵美子)
金剛の水のゆらぎや春惜しむ 長濱武夫 (2点)
釣釜や早蕨といふ京干菓子 高橋紀美子 (2点)
釣釜という季語を知った。野趣のある釣釜と雅な京干菓子の取り合わせが良い。茶の香りまで感じられ、視覚、嗅覚、味覚まで贅沢に味わえる。(武夫)
立春や今切口の太公望 榑林匠子 (1点)
句形が良くて頂いた。正直、中七の「今切口の」の意味はよく解らない。何となくパンデミックの今の課題の切口ではないかという気はするが....中七はリズムを整える位で良いのだと採ってしまった。(武夫)
野に出でてしばらく後の春の雨 山口眞登美 (1点)
静かな春の野の光景が浮かびます。音もなく野を濡らす春の雨。草木が雨を喜んでいることでしょう。人も”濡れてもいいや”とか。(志昴女)
封印の抽斗一つ春の闇 荒木那智子
新墾田若駒すくと立上る 早川恵美子
<互選句>
ボルダリング春三日月に手を伸ばす 中川手鞠 (8点)
ボルダリングというものを上手く捉えている (光男)
岩登りをしていて昼の春の月に手が届きそうという大きな景が見えてきます。(典子)
全身を使い目標点に必死で手を伸ばす、あたかも春三日月に届けとばかりに…そんな風に読みました(律子)
ボルダリングの競技を近年知りましたが 満月ではなく春の三日月に手を伸ばしていると 捉えられている所に感動しました (温子)
陽炎に首長竜の首ゆらり 内村恭子 (6点)
首長竜の首がゆらりと動いたように見えたことが見事に描写されていると思う(柳匠)
恐竜の登場で長閑な中にもおおらかさが感じられます。(春野)
土塊に群れる雀や春田打ち 阿部 旭 (5点)
まさしく春の躍動感を詠んだ句である。(孝雄)
雀が土塊に群れている様子がいかにも春田打ちらしい景でよいと思います。(相・恵美子)
春田打ちで天地を返された土塊に雀が群れているのである。それだけの景であるが、春らしい長閑さが感じられる好い句だ。(武夫)
木蓮の一片反りてゴッホの耳 高橋紀美子 (5点)
川底の石に光や春帽子 野口日記 (5点)
川底の光る石と「春帽子」の取り合わせ、ひろがりのある句です。(孝雄) いかにも春らしい句ですね(貞郎)
普段着のまま花人となりにけり 内村恭子 (4点)
花人といふ着飾ったイメージと普段着という落差がありながら、花を愛でる心がそれだけ深いことを感じました(眞登美)。
上五から作者の日頃のゆったりとした日々の生活を思い浮かべました。(明)
春手套落として夢の終はりけり 明隅礼子 (4点)
失恋のストーリーが見えました(柳匠)
物語性がありますね (光男)
境内に朝の箒目梅匂ふ 土田栄一 (4点)
ひんやりとした中に梅の香、すがすがしさを感じます(夏江)
立春や電気ケトルのぽぽぽぽぽ 瀬尾柳匠 (4点)
あ~!確かに電気ケトルはこういう音を出します!日記さんが作者かな?と思いました。お上手な音の使い方ですね。(志昴女)
ケトルも春になると軽やかなぽぽと鳴ってるようなぽぽが効いてると思います(みつ子)
たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ 坪内稔典先生の句を思い起こしケトルのぽぽぽが可愛く頂きました (温子)
「ぽぽ~」は有名句がありますが、電気ケトルには湯気を上げるときののどかな春の雰囲気があると思いました。(ユリ子)
ゴスペルに手話通訳者木の芽風 野口日記 (3点)
手話通訳者がいるゴスペル会場と木の芽風の取り合わせが、明るくまた優しくもありいいと思いました。(典子)
横顔のハシビロコウの春動く 佐藤律子 (3点)
長い時間動かずに魚を待ち伏せるハシビロコウと季語の取り合わせが面白いと感じました。(明)
涅槃図や猿の捧ぐ桃ひとつ 榑林匠子 (3点)
その絵は記憶にないのですが、泣くばかりではなくて捧げものをする動物も描かれているのですね。よく見ていらっしゃる。(志昴女)
靴選ぶ事に始まる春間近 片山孝子 (3点)
「春が来た」ことを実感するには、ファッションも先取り。軽やかな気持ちが伝わってきます。(博子)
春愁ひ円卓にあるハーブティー 窪田治美 (2点)
女人俑の衣に残る朱のおぼろ 斎川玲奈 (2点)
洗礼の白衣の少女花ミモザ 森山ユリ子 (2点)
新ヴィールス鎧袖一触世界闇 森山ユリ子 (2点)
人間界は本当にもろい。怖さを倍増するような漢字の表現に共感しました。(博子)
獣骨で占ふ漢冴返る 斎川玲奈 (2点)
獣骨で占うとは不気味で怖い気がするが却って興味がそそられます。(相・恵美子)
チュウリップ散りたるままに無人駅 浅井貞郎 (2点)
無人駅に地産の季節の花を生けてあるのを、このごろよく見掛ける。チューリップは散ってもしばらく色を失くさず、かわいらしいですね。(ユリ子)
新しき官女を加へ雛の宴 染葉三枝子 (2点)
春めくや優しくなれる心地して 児島春野 (2点)
その気持ちを大切にしましょう (光男)
生き延びて感染怖し冬帽子 嶋田夏江 (2点)
松明木の山越す列や修二会 妹尾茂喜 (2点)
山を越す松明の列、荘厳な「修二会」を思う。(孝雄)
春の朝アルファルファの芽そつと噛む 土屋 尚 (1点)
滔滔と北上川や西行忌 武井悦子 (1点)
六根清浄ひたすらに恋の猫 西脇はま子 (1点)
朝の弥撒春泥を来し靴の先 今井温子 (1点)
戛戛と馳せ来る麒麟春立てり 内藤芳生 (1点)
梅ふふむ今日は内緒の白ワイン 森野美穂 (1点)
白梅でしょうか、白ワインで乾杯ですね。(孝子)
フランスパン抱へし少女木の芽風 鈴木 楓 (1点)
新しき薬待ちゐる鳥曇 土屋香誉子 (1点)
水底に樹樹ゆらゆらと芽吹かな 佐藤博子 (1点)
春を呼ぶ蘭陵王の土鈴かな 竹田正明 (1点)
命とは生きるただ生きるのみ冬将軍 齋藤みつ子 (1点)
高取の町屋に飾る享保雛 鈴木 楓 (1点)
薄ら氷のフィヨルド狭き山羊の群 松山芳彦 (1点)
幹覆う苔も伸びたり梅古木 児島春野 (1点)
情景が浮かびます。時の流れを感じます。(美穂)
禅僧の讃と画の墨たびら雪 武井典子 (1点)
白と黒のコントラストでしょうか。山水画などが想起されます。(順一)
風軽やかドレミ・レファラとクロッカス 今井温子 (1点)
ドレミ、レファラ、クロッカス面白いです。(孝子)
寄居虫や太平洋の片隅に 明隅礼子 (1点)
スニーカーの軽き朝なり青き踏む 土田栄一 (1点)
軽やかな白いスニーカーで青き踏む。清々しさを感じます。(ユリ子)
久方の陽に照り給ふ内裏様 阿部 旭 (1点)
早春のガラス凍りて手でこすり 快風 (1点)
ままならぬ誤解曲解猫の恋 中川手鞠 (1点)
ままならぬ・・確かに・・中々思い通りにはならぬ猫の恋を思いました。(美穂)
春光のまぶしきままに天病めり 長濱武夫 (1点)
修道士の祈り唄聴く恋の猫 原 道代 (1点)
生くるとは哀しく叫ぶ猫の恋 嶋田夏江 (1点)
父のやうな背みせる虎涅槃西風 佐藤律子 (1点)
どっしりとした虎の背から頼もしい父を思う作者の気持ちが感じ取れます。(明)
ウイルスの地球浮遊よ春マスク 荒川勢津子 (1点)
春日差組子細工の窓ひかる 室 明 (1点)
着水の鴨掴みたる春の空 佐藤博子 (1点)
着水した水面に映る春の空を掴む、とても素敵な表現だと思いました(律子)
以上
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