天為ネット句会報2021年4月

 

天為インターネット句会2021年4月分選句結果

※特選句、入選句内の順番は互選点(選句者名を記載しています)、句稿番号の順。
 互選句は句稿番号順に並べております。
※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

<福永法弘同人会会長選 特選句>

春の星巡礼宿の天窓に             熊谷佳久子

四国巡礼だろうか。遍路宿には天窓があり、そこから夜空仰げば、春の星がうるうるしているのが見えるのだ。生涯一度はしてみたいお遍路。こんな光景に出会えることを期待して。(法弘)

巡礼といえば清張の「砂の器」を思い出します。あの父子も春の星に心癒やされる夜もあったことでしょう・・。(博子)

由紀子

枝花に隠れて声の雀かな            鉄谷 耕

雀は桜の蜜が好物だ。だが、くちばしを花の中に入れて蜜を吸うのではなく、花を食いちぎって蜜を舐めるため受粉の手助けとはならず、単なる泥棒(盗蜜と呼ばれている)である。舌を切ってやらねばなるまい。(法弘)



<福永法弘同人会会長選 入選句>

鷹鳩と化してみちのく海静か          金子正治

3.11の大津波から10年たった。今、目にしている穏やかな海が、かつて、あんなに荒れ狂ったことが信じられない。そう、まさに鷹が鳩と化したかのように。(法弘)

みちのくの海が再び鷹化しないように願うばかりです。(道代)

季語の斡旋がすばらしい。(光男)

難しい季語を見事に3・11の海に掛けましたね。(芳生)

海静かと鎮魂の思いが、静かに伝わって来ます。(百り子)



つちふるや錆自転車の軋む音          土屋香誉子

おしゃれな自転車が街にいっぱい出回っているけれど、長年乗りなれた錆だらけの自転車がやっぱり身になじむ。軋む音すら楽しい会話だ。つちふる中も何のその。(法弘)

自転車も錆びそうな黄砂です(夏江)

三枝子、孝子、正治

雪解風大売り出しの旗揺らす          中川手鞠

待ち遠しい春がやってきた。雪解けの風も心地良い。大売り出しに財布の紐も緩む。(法弘)

北国の漸く春めいた気分が「大売出しの旗」によく表されている。(てつお)

史子、香誉子

鞦韆を天狼に漕ぎ師は遠く           松山芳彦

人は死して星になる。ブランコを高みに漕いだまま、有馬先生は天狼(シリウス)へと上られた。 (法弘)

有馬先生への追慕は誌友の末座におりましても皆様と同じです。ご冥福をお祈りいたします (温子)

星空の下、ブランコを揺らしながら朗人師を偲んでいらっしゃる作者を想像しました。(明)

いつせいに風船放つ被災浜           荒木那智子

あれから10年。鎮魂と復興の願いを込めて風船を放つ。 (法弘)

被災地の復興・・心から私も願います。(美穂)

万感の思いで放つ風船。いつまでも忘れません。(博子)

人力車花の谷中を抜けてゆく          阿部 旭

粋だあ。一度も乗ったことがない。花散る下町でいつか乗ってみたいものだ。(法弘)

観光名所にやたら人力車が増えた昨今。「花の谷中」に情緒を感じます。(孝雄)

「谷中に人力車」の取り合わせで、花が一層美しい。(ユリ子)

五芒星刻む石垣花の雨             鈴木 楓

桜で有名な伊予松山城本丸の石垣には五芒星が刻まれている。五芒星は魔除けの印。そのお蔭かどうか、伊予松山城は戦乱で落城する憂き目にあうことはなかった。落雷や失火による焼失はたびたびあったようだが。(法弘)

由紀子、紀美子

「宇宙旅行」予約のはなし春炬燵        てつお

春になってもまだ出したままの炬燵。そこでの話題はとりとめなく続く。剛力彩芽さんが宇宙に行くとか行かないとか。いったいいくらぐらいするのだろう。夢の話ではない、現実が夢に追いついてきた。(法弘)

宇宙旅行予約の話をしているのが、春炬燵とは、ほかほか、雄大で面白いです。(玲子)

春炬燵がほんわかとしていいでうすね(夏江)

公園の木椅子の下の落とし角          石川由紀子

それはラッキーな拾い物。角切の始まる前に自然に落ちた角だろうか。 (法弘)

奈良でしょうか。角の生え変わりの時期、鹿は木椅子の力も借りて角を落としていったのかもと空想。(ゆかり)

刀剣を語る女子会花の雨            内村恭子

刀剣に魅せられた若い女性を刀剣女子と呼ぶそうだ。私の住んでいる近くの粟田神社は刀剣の聖地で、かつては全く見ることもなかった若い女性をしょっちゅう見かけるようになった。雨などものともせず、桜の下で語りあう。 (法弘)

女子の「趣味」も多様化、「刀剣」もその一つであろう。「花の雨」読みを深める。(孝雄)


ヒヤシンス真夜を爪切る音響く         相沢恵美子

夜に爪を切ると親の死に目に会えないとして、昔は避くべきこととされた。迷信だが、まことしやかな理由もいくつかあるようだ。ヒヤシンスとの取り合わせにより、古い言い伝えが生きた。 (法弘)

繊細で落ち着きのある花、音も含めて深夜の空気をヒヤシンスが受け止めている。取り合わせが巧み。(伊葉)

葱坊主や電車は軌道を伝ひゆく         河野伊葉

電車が軌道を行くのは当たり前のことだが、改めてそう言われると、何か考えさせられるものがある。一つの場所を動くことのない葱坊主と、決められた軌道を逸れることなく走る電車。人生のメタファーのようにも思えてくる。切れ字や助詞を削いで、五七五に(葱坊主電車は軌道伝ひゆく)が良いと思う。(法弘)


<互選句>

※添削を頂きました。

      春一番若ひ力の東北よ・・・「ひ」ではなく「い」。

白木蓮ルルドマリアの青き帯          森山ユリ子

那智子、三枝子

三椏の花釣書の楷書体             木村史子

樹皮は上質の和紙の原料に用いられる。"楷書体"で引締まった釣書が目に浮かびます。(憲史)

内・恭子

開け放つフランス窓へ雀の子          武井典子

「フランス窓」、明るい感じがでていいですね。(光男)

明け放つに待ちわびた春の訪れを感じます。(智子)

しゃれたテラスのフランス窓。そこに庶民的な雀の子が家の中の様子を窺いに。かわいいです。(手鞠)

春の空気と一緒に雀の子も舞い込んできたのかな?!ウキウキ感が素敵です。(博子)

玲奈

ニッカポッカ裾軽やかに春の泥         泰山木

颯爽とした若者の姿が、春泥もなんのその。(佳久子)

史子、三枝子

師に捧ぐミモザの香にも化学式         芥 ゆかり

化学式、、、物理学者の資質が高かった師のことを思います。ノーベル賞を取らせてあげたかった。(志昴女)

ミモザは先生の出身の浜名湖畔や伊豆地方に多く栽培されている。その香に"化学式"が言い得て妙。(憲史)

化学式が効いています。(手鞠)

温子

酒船石天皇祭祀の春の水            浅井貞郎

春の水に古代の人々の新生への祈りが込められているようです(典子)

水温む地球にいのち生まれし日         髙橋紀美子

この句のいのちには生きとし生ける物すべてが含まれているようで気持ちの良い句だと思います(律子)

命が生まれた日という把握が素晴らしいです(早・恵美子)

折り鶴の透かし模様や利休の忌         中川手鞠

内・恭子、史子

止まる度少し崩れて花筏            児島春野

花筏の美しさ儚さ(眞五)

花筏の流れゆく様がよく観察されている。(てつお)

水面に散った花びらを丁寧にみています。(智子)

尚、道代、泰山木、紀美子、耕

足弱の犬と見てゐる春の雲           垣内孝雄

永年飼ってきた愛犬を大切にしている様子が伝わります。(酔猿)

放哉の「いつしかついて来た犬と浜辺に居る」を思いだした、この句が好きだなー(貞郎)

足弱の犬に寄り添っている作者の優しさが感じられてよいです。春の雲が効いています。(相・恵美子)

ほのぼのとした感じにも宿る厳しい現実。長閑さなど別の春の季語が思い浮かびました。(順一)

眞登美、香誉子

辛夷活け割れむばかりや瀬戸の壺        早川恵美子

割れんばかりと見た所に辛夷の力強さを感じました。(百り子)

和釘打つ火床の紫諸葛菜            石川由紀子

和釘を火床に打ち作っている景は珍しいですね。諸葛菜が効いています。(相・恵美子)

横綱のつづく不在や鳥曇り           てつお

休み続きの横綱は引退すべきだろう、季語「鳥曇り」が効いています(貞郎)

花時計三時の場所に子猫ゐて          森野美穂

公園や広場にある花時計が午後3時をを指すと、小学校の下校時間。子猫は小学生に撫でてもらうのを待っているのでしょう。(はま子)

春の明るいのどかな情景がよく出ていますね。(ユリ子)

内・恭子

満天の星のほほえみ合格す           内藤芳生

嬉しさが素直に伝わる(典子)

合格の喜びを満天の星に表現されていて思はず おめでとうございます と叫びました(温子)

金泥の鯉浮きあがる涅槃西風          小栗百り子

噴煙のいまは直なり雲雀鳴く          山口眞登美

噴煙の向きは生活に直結しているが故に「いまは」が効いている。季語もいい距離感だと思いました。(ゆかり)

晴れ晴れと広大な景色の中、澄んだ雲雀の声が聞こえて来る場面を想像しました。春の明るい情景が見えてきます。(明)

草萌ゆる阿波路に鈴と金剛杖          合田憲史

季語に作者の希望が感じられる(典子)

草萌ゆる中のお遍路の情景が浮かびます。(美穂)

勢津子

月おぼろ湖と平らに露天風呂          熊谷佳久子

以前日本海に面した場所を訪れた際のことを思い出しました。上五「月おぼろ」が情景をとても優しく表しています。(明)

立哉

囀やラジオ体操する我に            嶋田夏江

日記

蒙古風相撲史に燦照ノ富士           荒川勢津子

元来相撲ファンでない私も感動しました。(ユリ子)

うららかや絵タイルの魚眼鏡掛け        岡崎志昴女

魚が眼鏡を掛けている??面白いなと想像してしまいました(律子)

春野、万記子

天竜川の囲む城跡花の曇            小栗百り子

勢津子

風光る電波時計の腕かざし           内村恭子

光る風に思わず伸びをしたついでに、電波を受信して季節の微修正を図ったのかも。そんな動作の切り取りが面白い。(ゆかり)

三度目の問ひ聞きもらす花の夜         佐藤律子

万記子、小・恭子

波音の心地よき島牧開             髙橋紀美子

波音のこころよさと島の牧開と、のどやかさが伝わってきます。(眞登美)

正明、芳生、夏江、那智子

君子蘭偉そうなので隅に置く          三好万記子

どこに置いても君子蘭に目がいきますね。(佳久子)

部屋の中で冬を越させる君子蘭。結構場所を塞ぐので、「偉そなので」と言い訳しながら部屋の隅に置いたのだろう。作者の人柄の出ている面白い句。(はま子)

確かに大きな葉っぱ、大きな花、その名前。鉢植えにしても重々しい。隅に置きますか!(志昴女)

分かる分かるその気持ち。(てつお)

久しぶりに笑いました!?ウィットに富んで面白いです(早・恵美子)

主観的な思いでしょうがユーモラスだと思いました。(順一)

孝子

谷筋をひとつ違ふる朧かな           土屋香誉子

春の夜のそぞろ歩きでしょうか(耕)

お散歩園児桜より好きチューリップ       岡崎志昴女

7・7・5という構成だが上の「お散歩園児」は許容できる。園児帽の色とチュリップを想う、「桜より好き」には共感できる。(孝雄)

波音に聴き入る馬や春満月           室 明

坂本繁二郎の馬の絵が思い出される。春満月の海の波音に馬も心が安らぎます。(はま子)

百地蔵の一つは母子桜舞ふ           斎川玲奈

紀美子、正明

群れて来てまた一羽きて囀れり         荒木那智子

人間のお喋りのように、小鳥も群れてぴいちくと囀るのですね。(春野)

上履の干してある塀チューリップ        嶋田夏江

酔猿

つくだ煮を包む江戸絵図かの子の忌       斎川玲奈

立哉、泰山木、玲子、由紀子、眞登美、日記、匠子

ふるさとの風の膨らみ雪柳           野口日記

柔らかい風と雪柳がわが身を包んでくれ、懐かしさと心地良さが伝わりました。(佳久子)

「風の膨らみ」という措辞が素晴らしい。(光男)

ふるさとの風に膨らんだ雪柳が一段と白く咲いている様子が感じられます。(相・恵美子)

帰省のとき時間があり暫し眺めておられたのでしょうか。ふるさとのさまざまな大気を集めて開花している様子、詠み手も雪柳の組成になっているような。(伊葉)

立哉、泰山木

柴又の渡しに仰ぐ鳴雲雀            阿部 旭

一度だけ行った事のある柴又の「矢切のわたし」を思い出します、懐かしいなあ季語も良いですね(貞郎)

道代、楓

花遍路龍女菩薩の木のぬくみ          染葉三枝子

玲奈

春風や大工町から寺町へ            上脇立哉

昔ながらの街の名前が残る城下町を思いました。古い町にも同じように柔らかい春風が渡ります。(志昴女)

地名が生きていると思いました(早・恵美子)

大工町から寺町へ。春風と一緒に旅に出たくなりました。(手鞠)

孝子、匠子

京劇の見得切る声や春の夜           中村光男

芳生

河童の子のお皿に注ぐ春日かな         室 明

ふと眼を遣ればあかるい春日が入っている、朝の日か、カーテンのあいだからの日か、まろやかな河童の子の絵柄が春日の穏やかさと合っている。(伊葉)

終活の優柔不断鳥雲に             森山ユリ子

勢津子

少年の居場所探して春の闇           泰山木

少年は居場所を求めさまよい歩くが、結果的に春の闇に陥り易い。(眞五)

思春期の少年の心の有り様がみえます。(智子)

雲雀鳴く大極殿の空の紺            内藤芳生

雲雀の声、空の紺に、空間の極まりを感じます。(百り子)

片べりの夫の庭下駄紫木蓮           小野恭子

正治、尚、春野

片栗の花に陽の斑の柔らかし          荒川勢津子

私自身草花は斑入りを特に好みますが『陽の斑』という表現がとても新鮮で惹かれました(律子)

那智子、正明、小・恭子

嬰児をくるむ練絹初桜             小野恭子

佐保姫の大和三山鼎座せり           浅井貞郎

芳彦

山笑ふリハビリ室の人世訓           合田智子

自分で書いたか元々あったものか知りませんが、山笑ふとあいまってしまった句だと思いました。(順一)

駆け抜けて駆け抜けてなほ菜の花忌       酔猿

駆け抜けたのは誰?子規、司馬遼太郎、それとも作者?(眞五)

正治、日記

道草の雀隠れやランドセル           竹田正明

小・恭子

三毛猫の尾を踏んじやつた葱坊主        西脇はま子

匠子

永遠を信じたくなる春の宵           酔猿

万記子

卒業の子の部屋鳥の来てをりぬ         明隅礼子

香誉子

災害に脆き文明燕来る             竹田正明

玲奈、芳彦

ママの顔見て泣きだす子うららなり       木村史子

ありふれた風景ですが、春であれば、微笑ましいです。(酔猿)

三つ指を楚々と嫁ぐ日春障子          合田憲史

芳彦

春光や布団打ち直しの勧誘が          石川順一

蒲団打ち直しの勧誘、うとうとしながら受けたお電話でしょうか。(玲子)

囀のぶつかつてくる青山河           長濱武夫

山河に「ぶつかってくる」の表現に魅かれました。(美穂)

青一色・"囀りのぶつかり"、景の大きさに魅了されます!(憲史)

以上

ホームへもどる 句会報へもどる