天為ネット句会報2021年7月

 

天為インターネット句会2021年7月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。
 ※一部インターネットで表示できる文字に置き換えております。ご了承ください。

   <日原 傳編集顧問選 特選句>

麦秋の匂ふ柩を追うてゆく             原 道代

一面に実った麦。すでに麦刈りが始まっているのかもしれない。黄金色の映える麦畑のなかを貫く一本の道。そこを柩が運ばれてゆく。その柩に付き従う人々。映画のなかの一シーンのような印象的な場面が想像されてくる(傳)。

実る麦にも人にもある時間、その対比と下五にある哀しみ。 (典子)

初夏~麦の熟する頃、愛する人が逝った。麦秋の匂いとその人の匂いが重なり、柩を追い続けているのでしょうか。。。(憲史)

芳生

松園の描きし佳人蚊帳を吊り            山根眞五

上村松園は美人画で知られる日本画家。その松園の「蛍」と題する絵を素材として一句に仕立てたのであろう。佳人が蚊帳を吊りながら飛ぶ蛍に目を注いでいる構図が面白い。軽やかな蚊帳の質感がよく捉えられた美人画であり、この句の作者もそこに興趣を覚えたのであろう(傳)。


  <日原 傳編集顧問選 入選句>

ソーダ水いつも何かに急かされて          永井玲子

確かにソーダ―水はゆっくり飲むという感じがしませんね。納得です。(光男)

ソーダ水の登場する場面が目に浮かびます(泰山木)

ソーダ水の泡の弾ける様子とのんびりとゆったり出来ない自分の素質や心情が重なって面白い(登美子)

紀美子、久丹子、正治、孝子、はま子、香誉子

父の日や螺子ゆるく巻く古時計           髙橋紀美子

イマドキにねじ巻き式の時計。それだけで何か訴えるものがありますね。折から父の日。古い柱時計か父の形見の腕時計か。(志昴女)

古時計を買われたのは御父上かと拝察しました。(春野)

「ゆるく巻く」の措辞が良い。(てつお)

様々な想像がひろがりました。父の年齢や巻いているのは父なのか子なのかその心情は。私が父の形見で大切にしているのは腕時計です。平凡な時計ですがここ一番の時はこの時計を身に着けます。「父と時計」は物語が尽きないとおもいます。(万記子)

お父さんが大事にしていた時計を愛おしんでいる様子が伝わりました。 (佳久子)

子供の頃、柱時計の螺子をいっぱいにきつく巻いて、「ボンッ!」と音がして巻き戻った(?)事を思い出しました。懐かしい。(手鞠)

那智子、悦子

翡翠の瑠璃切り返す沼明かり            相沢恵美子

「瑠璃切り返す」に翡翠の動きがよくとらえられている。(桂一)

「瑠璃切り返す」の捉え方が素晴らしい。(てつお)

翡翠の瑠璃色が沼面に反射している景色が美しい。(芳彦)

旭、礼子、しゅうへい

奈良墨の藏の今昔額の花              今井温子

時代の移り変わりの中で、今も存在感を失わない「奈良墨」と「額の花」の取り合わせが何とも言えない。(てつお)

調べも美しく、奈良墨の濃淡が浮かび上がってくるようです。(博子)

那智子、楓、はま子

珊瑚の骨からんからんと沖縄忌           佐藤博子

沖縄の哀しい歴史がひしひしと伝わってきます (光男)

からんからんがとても効いています。多くの戦没者を慰める日である沖縄忌の重さがよく伝わります(律子)

オノマトペが良いと思います。(百り子)

「からんからん」が悲しく響きます(智子)

夏祭り絵金見し夜は眠られず            内村恭子

土佐赤岡絵金祭りでしょうか?おどろおどろしい芝居絵屏の揺れる蝋燭の炎がより効果的。恐いと言いながら仲間たちと見ました。(道代)

夏祭りの余興で、怖~い絵金さんの芝居でもあったのか、浮世絵だったのか。おどろおどろしい赤が夢の中まで。(志昴女)

ただでさえ祭りの後は寝付けないだろうに、おどろおどろしい絵金の芝居絵を見てしまったら・・・句の展開が面白いです。(ゆかり)

祭りも絵金の絵も興奮します(智子)

通されて風のすがしき洗鯉             熊谷佳久子

洗鯉の季語そのままに、気持のいい句だと思いました(眞登美)。

夏江

海霧深し宿に蟹茹で用の釜             中田秀平

礼子

遡るフィヨルド青き舟遊び             武井典子

しゅうへい

白鷺の輝いてゐる青田かな             小栗百り子

正治

ふるさとは雲の高みや芥子の花           長濱武夫

芳生

弘法の池「ゆる抜き」の田植前           合田憲史

由紀子

小満や三百石の武家屋敷              木村史子

二ツ目の長きマクラや梅雨に入る          木村史子

藻の花のいろふ流れに通ふ水            垣内孝雄

名護屋城かこむ陣跡夏の潮             荒木那智子

大観の「鷲」観山の「虎」雷走る          荒木那智子

 <互 選 句>

乗り換への通路ながなが汗拭ひ           山口眞登美

回りの情景やざわめきも感じます(美穂)

疫の世もはやひととせや夏五輪           中川手鞠

本当にそう思います。当初はこんなにコロナが長引き、かつ世界中に広がるなんて思ってもいませんでした。(美穂)

正明

水貝を作る手際も伊豆住まひ            室  明

句のテンポの良さに板前さん顔負けの手際の良さを感じます。(ゆかり)

恭子

チューニング中のチューバか牛蛙          芥ゆかり

ウシガエルの声は、言われて見ますと、確かにチューバの音ですね。「チュー」と言う音が短い句の中に3回も出てきて、とっても楽しい句となりました。(明)

チューバの子に話したら頭から湯気出していましたが・・・面白いです(早・恵美子)

恭子

草刈りて住まわぬ家の浮き上がる          河野伊葉

過ごした日々の思い出が浮き上がる切なさ、住めない哀しさも感じます。(博子)

旭、尚

青銅の蝶の翔つかに稲光              斎川玲奈

青銅製の繊細な蝶、超絶技巧なのだと思います。そんな驚きに稲光がドラマチック。(ゆかり)

美辞麗句通り抜けたる青簾             佐藤律子

万記子、眞五

墨堤を浮世名残の大夕立              竹田正明

史子、手鞠

朝採れのしの字くの字の胡瓜かな          合田智子

しの字くの字が面白い表現でいかにもわが家の庭でとれたのが伝わります(みつ子)

家庭菜園での楽しい収穫の様子が見えてきます。「し」の字「く」の字が喜びを伝えてくれます。(明)

しの字くの字よくわかります、採れすぎて困っています(夏江)

しの字くの字であろうと、新鮮が最高。皆さんの笑顔がうかんでくる。 (佳久子)

ついひらがなを思うところが日本人ですね。(春野)

朝採れのいびつな形になっている胡瓜を詠んだところに味わいがあります。(相・恵美子)

朝採れのしの字くの字の胡瓜が混じっているとしたところが面白い。(芳彦)

新鮮な朝採れ・・元気よくフレッシュな雰囲気を感じます(美穂) 中7の「しの字くの字」の措辞が面白い(貞郎)

久丹子、恭子、史子、孝子

水底の水が水面に上り鮎              垣内孝雄

鮎の上る川の様子がよく描かれている。(桂一)

上り鮎の動きがよく見える (典子)

川を遡る鮎の力強さが「水底の水→水面に」の表現で上手く捉えられていると思います。(憲史)

マーラーの大地に湧きて夏の雲           早川恵美子

マーラーの壮大な音楽と夏の雲がマッチしています(光男)

雄大な感じで景がみえます(百り子)

楓、日記

出目金の眼飛び出す軒の下             阿部 旭

軒の下としたところでさらに生き生きとなり効果的(伊葉)

句碑の建つ古都西安の夏の月            鈴木 楓

朗人先生の句碑でしょうか。句碑開きが楽しみですね。(桂一)

紀美子、芳生、那智子、悦子

露草や隔日咲いて倒れ気味             石川順一

露草の特徴をよく表されており高貴な紺色が目に浮かぶ(伊葉)

ワクチン終へ小さき未来図梅雨空に         三好万記子

私は二回目の接種終え明るい未来を感じた(眞五)

未来が少しでも明るくなりますように(みつ子)

ワクチン接種を終えたもののコロナの先行きは梅雨空のよう。そこに小さい未来図というのがいいですね(律子)

勢津子、悦子、孝子

梅雨湿り鞄から出す鍵の束             森野美穂

眞登美、順一

萬葉集繙く夜半の一夜酒              鈴木 楓

紀美子

竹簾セーラー服の駆ける朝             武井悦子  

清々しく若々しい夏の朝の情景がいい、古い歴史ある町並みも感じる(登美子)

五日前に粽売り切れ風渡る             岡崎志昴女

しゅうへい

ゴンドラのゆらりと宙へ梅雨晴れ間         泰山木

ゴンドラのゆっくりした動きがなんだかユーモラスです。(春野)

晴れて空気も軽くなったその瞬間をすんなりと捉えた(伊葉)

道代、尚

木喰の野仏を観る青田風              内藤芳生

一幅の絵を拝見しているようです(早・恵美子)

小さくも揚羽の好きな花咲けり           上脇立哉

久丹子、香誉子

来し方に道草いくつ夏薊              てつお

道草の多い人ほど豊かな人生かも(泰山木)

たくさん寄り道した方が人生は面白いかも(手鞠)

武夫

牛蛙伏して主命を聞く構へ            芥ゆかり

牛蛙に何を命じたらいいのやら、面白い句ですね(泰山木)

牛蛙の様子は正に主命を聞いているようですね。上手く捉えて詠んでいます。(相・恵美子)

牛蛙の鳴く声は良く聞きますが姿を見たことはありません、なかなか姿は見せない用心深いカエルです、その姿をそれらしく俳句に表現した所が面白い(貞郎)

諧謔的 正面から向き合っている(百り子)

牛蛙の居ずまいを「平身低頭」と捉えたのが面白い(智子)

振り向けば低き雨雲袋掛              明隅礼子

武夫、順一

朗読は論語の一編夏至の雨             武井悦子   

道代

重力の途切れるところ合歓の花           野口日記

重力の途切れるところに合歓の花が咲くという表現がとても面白いと思いました(律子)

由紀子、万記子

五右衛門風呂板を沈めて蛍の夜           内村恭子

五右衛門風呂と蛍の取り合わせがよいです。峡の奥深く蛍が点っている中、五右衛門風呂に安らいで身を沈めている作者の様子が見えて来ます。(相・恵美子)

立哉、 旭

防疫の空瑠璃色に暮れ落ちて            牧野桂一

玲奈

心臓の辺り当てたる手に蛍             中田秀平

持病のある人だろうか、短い命の蛍の光が手に美しい。(典子)

向日葵の迷路に溺れゆく園児            合田憲史

向日葵と園児の取り合わせが良い、夏の季語「向日葵」が効いている(貞郎)

正明

二歳児のぴょこんとお辞儀梅雨の明         松山芳彦

二歳児の「ぴょこん」とお辞儀をした映像が浮かび、梅雨明けの明るさを際立たせているように感じます。(憲史)

日記

サクランボ一つ二つは艶めきぬ           酔猿

たくさんの粒の中からの発見にリアルさがある、’艶めきて’がとてもいい表現(登美子)

空に打つ白き手裏剣山法師             石川由紀子

山法師の花の特徴がよく出ている。空に向かって手裏剣のように投げたくなるような。(佳久子)

手裏剣!!なるほど!(早・恵美子)

遊学の子の発ちし夜の青葉木菟           内藤芳生

子を励ましつつも一抹の寂しさを感じる親の気持ちが青葉木菟のトーンを落としたあの鳴き声から伝わってきます。(明)

勢津子、香誉子

天平の楼門越しに青茅の輪             榑林匠子

礼子

万緑の中や居合の太刀光る             浅井貞郎

先日新幹線で久しぶりに旅をした時に万緑の中に何か光るものを何度か見た(眞五)

由紀子、順一

独り言多くなりけり花石榴             中川手鞠

ひとり住まいは確かに独り言増えます(みつ子)

カフェまでの近道なささう草いきれ         河野伊葉

正治

夏帽は風の友なり飛びたがり            山根眞五

確かに夏の帽子は風に舞いたがります!そうか、友達だったんだね、遊びたかったんだね。(志昴女)

夏帽は風の友達だから、風と一緒に飛びそうになるとしたところ遊びがあって面白い。(芳彦)

玲奈、勢津子、はま子

全寮の四人一部屋ほたるの夜            三好万記子

史子、日記

沈黙の個食テーブル青葉闇             合田智子

ソナチネを弾けば現る蠅虎             中村光男

正明

老鶯や日章旗たて鉱山の町             西脇はま子

立哉、眞登美

力抜いて生きる七十路単帯             岡崎志昴女

武夫、夏江、玲奈

まだ青き桃の身ひとつ梅雨曇            土屋香誉子

梅雨があってこそ育つ命を感じます。取り合わせに共感しました。(博子)

黒鯛を締めて暮色の赤灯台             浅井貞郎

立哉

以上

ホームへもどる 句会報へもどる