天為ネット句会報2022年11月

 

天為インターネット句会2022年11月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

痩せ秋刀魚身を寄せ合ひて焼かれけり          岡部 博行

日本近海における秋刀魚の漁獲高が近年激減し、市場に出る秋刀魚の大きさも小ぶりのものが多いというニュースが報じられている。それを踏まえた作であろう。太った秋刀魚を炭火で焼いて供することが望ましい訳だが、それがなかなか叶わない。「身を寄せ合ひて」というところに痩せた秋刀魚の哀れな感じがただよう(傳)。

身付きの良いものがスーパーには見かけなくなった。以前なら一尾が堂々と網の上に焼かれていたのに。(郁文)

俳味があり中7が効いています。(相・恵美子)

先日、新秋刀魚を食べましたが細身でした、実感です(夏江)

身を寄せ合ひてと様子を擬人化した所が面白かった。(佳久子)

「身を寄せ合ひて」がいかにも。秋刀魚が痩せすぎていてその眼に哀しみの色を感じてしまいます。(万記子)

久丹子、紀美子、香誉子、正治、澄江、礼子、由紀子

雁渡し開かぬ跳ね橋半世紀               石川由紀子

隅田川に架かる勝鬨橋を詠んだ句であろう。昭和十五年に完成した勝鬨橋は、中央部が上方に開いて船舶を通すことのできる可動橋であり、それが活用されてきたのであるが、昭和四十五年以降は閉ざされたままになっている。本来備えている跳ね橋の機能を停止したまま半世紀が過ぎたのである。「雁渡し」は雁の渡ってくるころ吹く北風。雁渡しの吹く空を仰ぎ、跳ね橋の開く姿を想望しての作(傳)。

礼子、玲奈

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

一葉忌履いて馴染ます桐の下駄             美惠

物を大切にする心と「一葉」、醸し出す世界がある。(孝雄)

由紀子、道代、那智子、楓、尚

霜降や身ほとりのもの減らしつつ            髙橋紀美子

来し方の荷を少しずつ減らして身軽な余生を。(泰山木)

眞登美、久丹子、香誉子、玲子

ケネディの席ありボストン牡蠣料理           荒木那智子

こういう句も楽しくていいですね。(光男)

ボストンの牡蠣料理、美味しいですね。俳句からケネディ大統領の姿が見えるよう。大統領と庶民的なレストランの取り合わせがいいと思いました。(ユリ子)

はま子、立哉

御仏のうすき瞼や実南天                合田 憲史

「うすき瞼」にリアリティがあり、命が通っているように思います。(桂一)

御仏を横から拝すると、伏し目がちな瞼の美しさを実感する。実南天で句も気持ちも引き締まる。(ゆかり)

すずやかな仏様のまぶたと実南天の赤が、互いを引き立たせていると思いました。(ユリ子)

御仏の佇まいと実南天が古都の雰囲気にピッタリです。(泰山木)

老母寝る蒲団の嵩のなきごとし             中川 手鞠

いたわしい感じがします季語(布団)効いています(貞郎)

中七下五の措辞に、すっかり痩せてしまった老母に対する作者の切ない思いが込められている。(博行)

紀美子、澄江

廃校に墨塗りの本そぞろ寒               井上 澄江

廃校に見つけた墨塗の本を見つけて、戦前の教育へ臣異を寄せています。今亦そのような傾向が心配されることがちらほら出てきています。「そぞろ寒」に実感がこもっているように思います。(桂一)

手紙も閲覧・墨塗された時代の危うさを想像しました。繰り返さないよう祈るばかりです。(博子)

芳彦、香誉子

神の留守研師の来たる日本橋              鈴木 楓

因果関係はないのに、納得感があります。(恭子)

各地を渡り歩く研師。今は日本橋に来ているらしい。神のお留守にお邪魔してますよ、といった風情が面白い。(ゆかり)

陽を溜めてつつじの垣の忘れ咲き            荒川勢津子

陽を溜めて、が如何にも初冬の実感。(恭子)

忘れ咲きのつつじに陽の射す景が良く分かります。(孝子)

銀行の石の列柱冬に入る                芥 ゆかり

銀行、石の列柱と冷たさを連想させる句の後に、冬に入るの季語。上手なものです。 銀行の裏路地で焼き芋屋の屋台でも出そうかしら。(郁文)

バーナード・リーチの木椅子小鳥来る          西脇はま子

たかほ、由紀子

御供への地酒一升山眠る                早川恵美子

世間に誇る地元酒をお供えする、地元の山への畏敬の念が感じられます(憲史)

幹叩く小げらよ螺旋登りして              土屋香誉子

螺旋登りがよかった。(佳久子)

点盛りのメモの残りて西虚子忌             芥 ゆかり

はま子

漢委奴国王印星流る                  木村 史子

図鑑を読んで居たか、実際に志賀島に行ったのか様々な事が思い浮かびました。(順一)

嵯峨菊の仕立てに謂れ大覚寺              てつお

芳彦

まいまいず井戸を下り来て天高し            岡部 博行

水引の赤のおちこち蓑虫庵               井上 澄江

 <互 選 句>

寄せる波受ける入江の月明り              高島 郁文

描かれた優しい風景にずっと浸っていたくなります。(美穂)

史子

重陽や一人一人に母のゐて               森野 美穂

季語に託す反戦の心情をも感じました。(博子)

陽子、玲奈

戸を全開紅葉の風を納戸にも              片山 孝子

「紅葉の風」がいいです。納戸まで入れたくなります。(肇)

白樺の白の極まる神無月                熊谷佳久子

美しい作品です(隆夫)

秋らしい句ですね(みつ子)

正治

一山の一万本の萩の花                 須田 真弓

一山が萩の花に包まれているという、素晴らしく美しい姿です。現実ではないとしてもそのように感じられただけでも十分な景色ですね。(志昴女)

赤蜻蛉この指止まれデンデラ野             西脇はま子

せめてこの世の思い出に~と蜻蛉に遊んでもらいましょう。(博美)

陽子

小鳥来る子安地蔵の腕の子に              今井 温子

慈母観音の手に抱かれた赤子。この世に生まれてきたどの児も幸せになってほしいです。小鳥は声も姿も幸せを運んできてくれる。子安地蔵の腕の児と季語がとても素敵だと思いました。 (美惠)

「こ」の音の繰り返しのリズムが、穏やかな秋日和の中の子安地蔵の景とマッチして心地よい。(博行)

道代、はま子、立哉、楓、夏江

足袋の中伸びてゐるらし祖母の爪            中川 手鞠

足袋の上からも爪の先が見てとれたのでしょうか。その視線に温かみを感じます(律子)

その視線に細やかな愛情と思いやりを感じました。(美穂)

道代

手入れよき松が枝に鷺秋高し              金子 肇

今日水

草千里の光と風や馬肥ゆる               須田 真弓

阿蘇の雄大な景色の中で、馬も気持ちよく太りそう。(肇)

モンゴルの草原を駆ける逞しい馬と頬の赤い若者達を思います。(春野)

那智子、正明、澄江

裏山の風に傾ぎぬ貴船菊                佐藤 博子

順一

竣工日は五千年先天の川                木村 史子

手鞠

萩城の石垣堅し青蜜柑                 泰山木

季語の青蜜柑で石垣が相当固そうに感じられます。(相・恵美子)

温子・楓

飼ひ猫の頭蓋なぞる夜寒かな              たかほ

史子

晩秋やガス灯ともる美術館               中村 光男

ガス灯のともる美術館の佇まい、展示品を思い遣る。(孝雄)

ガス灯は秋の夜によく似合いますね。ガス灯の光で美術館そのものがアート作品のよう。(ユリ子)

直幸、真弓

荒星のせまる湖北の夜泊かな              河野 伊葉

湖北の澄んだ夜空が目に泛ぶようです。(てつお)

母留守の夜寒に振り子時計鳴る             牧野 桂一

留守番の心細さが深々と伝わってきます。(光男)

なかなか寝つけない夜、振り子の刻む音がせつない(智子)

手鞠、陽子

鵙日和女声満つ路線バス                相沢恵美子

史子、旭

江戸の技残る猿橋紅葉晴                竹田 正明

江戸の技で句が格調高くなった。(伊葉)

柿紅葉飛べよ根岸の子規庵へ              竹田 正明

子規が松山を出て帰京する。奈良で「柿食へば」の句を残し、柿と子規は離れない。(茂喜)

門燈の上を拭いて終ふ松手入              たかほ

門燈まで拭きあげ松手入を終える、職人の方なのか丁寧な仕事ぶりが窺えます(律子)

玲奈

観世音笑みを絶やさぬ小春かな             木村 隆夫

その笑みで衆生を済度する(眞五)

正明

寺を辞す釣瓶落しの大鳥居               相沢恵美子

釣瓶落としも余り見なくなりお寺ぐらいでしょうか(みつ子)

ばつたんこ闇に紛るる独り言              金子 正治

闇に放つ独り言、ばつたんこが気持ちの切り替えへと背中を押してくれているかのようです(律子)

温子

銀漢や長き吊橋揺れやまず               明隅 礼子

夜空の下には長いつり橋。少し揺れている。だけも渡ってはいないが。幻想的な静かな夜ですね。(志昴女)

炉開や師より賜る萩茶碗                今井 温子

師から譲り受けた萩茶碗が季語に相応しいです。(相・恵美子)

正論のものたらなさや鵙の贄              三好万記子

正論はごもっともですが・・・・正論を吐く人に物足りなさを感じています。「鵙の贄」がいい(美惠) 世間は正論通りには行きませんね、人間ですから。(博美)

匠子、玲子

眼鼻なき地蔵に供ふ濃竜胆               髙橋紀美子

古いお地蔵さんと竜胆の花合ってます(みつ子)

「目鼻無き」に哀れさがただよい、「濃竜胆」とよく響き合います。(桂一)

古くから地域で親しまれているお地蔵様。(春野)

哀愁を感じます(眞五)

のどかな秋の田園風景の中、長い歳月にわたって地域の人々に親しまれて来たお地蔵様の姿が目に浮かぶ。(博行)

手鞠

火色なる紅葉ふりこむ穴稲荷              斎川 玲奈

直幸

信濃路や刈田を踏めばさくと音             内村恭子

踏めばさくと音で実感がよく出ている。(伊葉)

モンゴルの草原はるか飛蝗飛ぶ             熊谷佳久子

大草原のモンゴルの草原と、作句者の住む近くにある草原だろうか、この対比がユニーク。且つさらに小さな飛蝗とは。(郁文)

思ふやうに育ちませぬよ烏瓜              佐藤 律子

烏瓜の拗ねた姿が目に浮かびます(早・恵美子)

口語体と相俟って季語がピタリ決まってます。(たかほ)

山茶花の生垣真っ直ぐ朝日かな             田村今日水

朝日で生垣がさらに引き立ちました。(伊葉)

芙蓉揺れ明日は手術といふ知らせ            中村 光男

病床に居て明日の手術を待つ。窓辺の芙蓉が紅色に揺れている。術後の寧静を祈る。(茂喜)

絹の様に薄い芙蓉の花が揺れて、とても心配ですね。(孝子)

杭一本あれば太平赤とんぼ               浅井 貞郎

赤とんぼの無欲さに共感します(隆夫)

杭一本あれば太平・・・ 赤とんぼの生きざまが 人もそうありたいです。  (美惠)

天下泰平!良いですね。赤蜻蛉が効いてます(早・恵美子)

赤とんぼはいいな!赤とんぼの苦労は何だろう?(万記子)

立哉、真弓、博嗣

横向きのカメオの乙女秋の薔薇             石川由紀子

季語「秋の薔薇」が効いていますね。(光男)

炭をつぐ若者下手で下手でねえ             岡崎志昴女

博嗣

陸奥湾に軍艦一つ秋の昼                鉄瓶

美しいであろう秋の昼の海・・なのにそこはかとない不安も感じます。(美穂)

眞登美

最澄の風を貰うて吊し柿                垣内 孝雄

「最澄の風」とは、比叡颪だろうか?比叡を背にした吊柿の情景を上手く捉えましたね。(てつお)

吊るし柿は何とも難しいです。(博美)

匠子、温子

ゲルニカの流離ピカソの愁思かな            荒木那智子

現今のウクライナは、真にゲルニカ状況(眞五)

直幸

秋夕焼け沈むや明日も野良仕事             高島 郁文

日没とともに帰り、次の日も日没まで野良仕事。平穏で満ち足りた日々。(肇)

明日の天気を占う夕焼け、明日は晴れるかなぁ(智子)

草紅葉アジトに入る合言葉               内村 恭子

少年の秘密基地?楽しい句ですね(早・恵美子)

子供時代夢中で遊んでいた秘密基地周辺。この歳になりやっとその素晴らしさに気付いた感動の一句ですね(憲史)

那智子

秋草や名はそれぞれにありながら            てつお

言外の余韻が豊かです。(恭子)

余韻を感じる句。(美知子)

久丹子

妻施設子供疎遠にそぞろ寒               松山 芳彦

そんな時代です。ご本人のことではないと願いつつ。(万記子)

冬ぬくし父と娘の待つ一両車              合田 智子

仲の良い父娘の姿が見えます。季語が活きている。(美知子)

春野

新しき紅茶を貰ひやや寒し               石川 順一

紅茶の好きだった人を偲ばれているのか・・不思議な余白です。(博子)

泡立草親の敵でないものを               冨士原博美

真弓

天領の陣屋の跡に木の実落つ              河野 伊葉

今日水

銀婚の卓金婚の掘炬燵                 早川恵美子

掘炬燵まで辿り着いたご夫婦に乾杯!(泰山木)

銀婚と金婚夫婦、卓と堀炬燵がふさわしいですね。(佳久子)

父からの手紙短し鳥雲に                明隅 礼子

父から手紙をもらう機会はそんなに多くありません。短くても心の籠ったものだったのでしょうね。(てつお)

正治、今日水

隠岐へゆく船といふなり秋澄みて            上脇 立哉

「行き先は何処」「隠岐へ行く船だ」等と会話が聞こえてきそうな清々しい作品です(隆夫)

隠岐という歴史的な地名を入れたゆったりした言葉遣いが、秋澄むという季語の感じに合っていると思いました。(眞登美)

流罪の船を連想します、季語(秋澄みて)が効果的です(貞郎)

礼子

母と子のなぞなぞあはせ秋桜              垣内 孝雄

母と子の明るく大きな声が、一面コスモスの大広場から聞こえて来ます(憲史)

海渡る蝶の話や鰯雲                  土屋 尚

季語(鰯雲)がぴったりです(貞郎)

行く秋や人みな壁に長き影               金子 正治

博嗣、玲子、たかほ

残されて秋日の中や燕の巣               土屋 尚

夏江

時雨るるや芝の烏の羽の艶               金子 肇

順一

釣り人の動かぬ影や秋夕焼               三好万記子

抒情的な中にも、何か意味を感じます。(美知子)

美しい夕焼けと釣り人がのんびり良いですね(孝子)

野宮の小柴大垣神の留守                鈴木 楓

匠子

霊柩車秋の峠を越えてゆく               上脇 立哉

最近は宮型の霊柩車は減っているようですが、この峠道を行く車は遠目にもはっきりと霊柩車であることがわかる。知り合いの方の棺を見送っているのかもしれない。(志昴女)

散落葉使ひ勝手の良き箒                美惠

清掃はひと仕事、手に馴染んだ箒で手早くきれいに(智子)

晩秋の丘に真白き領事館                永井 玲子

「領事館」という語彙が新鮮であり、晩秋の彩える景が展がる。(孝雄)

時雨るるや虚子の旧居の土間乾く            岡崎志昴女

芳彦

伊能図を開く文机冬に入る               木村 隆夫

日本最初の実測日本地図、「伊能図」が机上にある。伊能は完成を見ることなく世を去った。(茂喜)

句を文机で切ったことで、伊能図を開いている人の背中が見えてきた。淡く彩色された地図に心を遊ばせている。立冬の季感もしっくり感じる。(ゆかり)

正明、紀美子

以上

ホームへもどる 句会報へもどる