現代秀句鑑賞
佐怒賀 正美
「隠岐抄五十句」
滝裏も澄みゐて日矢の貫くところ
隠岐の滝遡りし天の澄みにけり
隠岐の滝澄むにはんざき遊び出づ
滝かけて隠岐の全霊澄みわたる
まなかひの澄むや駅鈴振る音に
牛突きの祭りうた聞くきのこ山
どんぐりが囲むや牛のすまふ取
先生と子らにくつつくすまふ牛
突き牛の手綱取る子や天澄みぬ
たんと塩撒け牛も土俵も秋暑し
秋草をめぐりに牛の突き合へる
負け牛と子らと千草に安らへる
勝牛にとび乗る子らや木の実降る
勝ち牛の息づく釣瓶落しかな
新走りふふみて牛を闘はす
隠岐の野や尾頭のあるいわし雲
天高き隠岐の刳り舟すらりとす
かりがねや炎色を空に刷くこだま
風待ちの隠岐や筆柿たわわなり
秋雨の溜まりて落つるかぶら杉
島の根にしみる秋日や隠岐の国
舟屋朽ち隠岐のさくらの返り花
隠岐舟屋覗けば雁のこゑ渡る
かりがねや「尼の投げ松」寄り添へる
*尼の投げ松・・・八百比丘尼が投げて植えたという伝説の古本の松
かりがねや隠岐の島根へ金の波
たつぷりと日暮れまで照る秋の隠岐
隠岐倉に冷ゆる螺細の馬杓かな
茸と骨光り合ふ隠岐の古墳山
腹痛患者の隠岐の古面やいわし雲
かりがねやがしん俵は煤のまま
*がしん俵・・・飢饉用の米俵
釣瓶落し隠岐の天柱わだなかに
せきれいやハーンの鏡ケ浦たたく
艾ほどの秋の海蜷したたれる
隠岐・松尾山金光寺
いざさらば後鳥羽の山の穴まどひ
かりがねや隠岐の湧水溜める小屋
天高し隠岐より京を見はるかす
隠岐金光寺縁起書
色鳥ほどや縁起書の乎古止点
露けしや魔縁の条御置文に
首に巻きたしや隠岐なる天の川
末枯れや御遺文に「崇るかもしれぬ」
下火のあと代々悼み継ぎしろしきぶ
*下火・・・御火葬のこと
竜宮の栄螺平たし月の句座
*竜宮産という平サザエ
島の門に焼火の神やいわし雲
奥隠岐の浦廻に小滝吹かれをり
舟に立ち隠岐なる秋の天に立つ
摩天崖穴に入る蛇かぎりなし
隠岐牛や断崖の際まで秋野なる
怨霊も今日は青澄む隠岐の海
巌の息海の息隠岐澄みわたる
全天の見えたる隠岐の秋ごころ