<日原 傳顧問選 特選句>
海光やカッター水脈を伸ばす夏 中村光男 (1点)
この句の「カッター」は艦船に搭載される端艇を指すのであろう。海上での訓練のさまを詠んだ作か。「水脈を伸ばす」というところに訓練を積んだ漕手が一糸乱れずオールを漕ぐ力強さが想像される(傳)。
玲瓏の白馬三山夏来る 鈴木 楓
「白馬三山」は北アルプス北端部に位置する白馬岳・杓子岳・白馬鑓ヶ岳をいう。大雪渓や高山植物で有名。「玲瓏」は、もともとは玉石が触れ合って鳴る美しい音の形容。掲句にあっては美しく輝くさまをいうのであろう。それを白馬三山の讃辞として被せて使った。双声語の「レイロウ」という音の響きも働いている(傳)。
<日原 傳顧問選 入選句>
西日濃し北前船の港町 荒木那智子 (4点)
日本海の港町の夕日を思いました。北前船はそれほど長い期間ではなかったようですが、大きな富と文化をもたらしたようですね。(志昴女)
「北前船と西日」思いが深まります。(孝雄)
北前船の日本海側ルートは寄港地に限らず四季を通して夕日が美くしく昔の北前船の影を重ねて沈みいく夕陽を鑑賞されたのでしょう。(昌夫)
梔子や雨に真白き香を放ち 森山ユリ子 (4点)
真白き香が効いていますね(芳生)
天鵞絨のような花びらと香りが際立ってくるような一句です。(博子)
十薬を厨に挿して一人なる 佐藤武代 (3点)
雪国の山深い里では大切な万能の煎じ薬、摘んで直後の匂いは然る事なら下5で作者の純朴さが強調されいますね。(昌夫)
雷火落つストーンヘンジの巨石群 阿部 旭 (3点)
夕星やでで虫遊ぶ奏楽堂 内村恭子 (2点)
奏楽堂という由緒ある建物と、でで虫との取り合わせが楽しいと思いました。(ユリ子)
教会のこうもり天井大南風 石川由紀子 (2点)
目が合ひぬ脚を冷やしてゐる鹿と 今井温子 (1点)
鹿と目が合った瞬間、時が止まったような、そんな気持ちになりました(律子)
古傷の鈍き痛みや旱星 小野恭子 (1点)
留魂録今に伝へて風薫る 浅井貞郎
<互選句>
何探すともなく覗く冷蔵庫 土屋香誉子 (8点)
子供の頃から現在に至るまで良く有る事ですね、共感出来ました。(孝子)
豆腐屋の喇叭遠のく半夏雨 小野恭子 (6点)
季節によって雨の色合いは大きく違います。半夏雨という季語が喇叭という言葉を初夏の色あいにし、いいと思いました(律子)
「喇叭遠のく」に思いが広がります。(孝雄)
季語は「半夏雨」。遠のいて行く豆腐屋のラッパに郷愁を感じたのかもしれません。(順一)
水飲めり銀座の路地の祭馬 明隅礼子 (5点)
ジキタリス何処まで伸びる十五歳 齋藤みつ子 (5点)
中学生は、背丈も知識も物凄く伸びる時期。よく分かります(早・恵美子)
ジキタリスのすっくとのびる姿に十五歳の少年を思い起こしたのでしょうか。(ユリ子)
倭国への水先案内夜光虫 竹田正明 (5点)
北東アジア大陸の海を隔てて南北に連なる島々を目ざして中国を出港し風や海流にのり海面を漂いながら、渡海に成功す例は稀で命がけの航行で列島に漂着出来た安堵感と喜びが感じられます。(昌夫)
季語は「夜光虫」。古代日本史のロマンを感じました。季語が水先案内人なんてユーモラスですし、しゃれて居ますね。(順一)
絵具絞り出したるごとき雲の峰 西脇はま子 (4点)
入道雲を絵具と言ったところいいと思いました(みつ子)
夏至の夜の降りる帳のすみれ色 中川手鞠 (4点)
綺麗に更けていく様子が目に浮かんで来ます。すみれ色の言葉がよく合っていると思います。(相・恵美子)
薬師寺の緑蔭講座女帝論 今井温子 (4点)
眼差しは少女のものに夏帽子 加茂智子 (3点)
紫陽花や空の涙を包み込む 森野美穂 (3点)
「空の涙を包み込む」何と素敵な言葉でしょう、季語紫陽花が美しく生き生きとしています、(貞郎)
中七に魅かれました。雨上がりの水滴をいっぱいに溜めた紫陽花にはこのような優しさが秘められている感じがします。(明)
亀虫の匂い夜雨の来る匂い 土屋 尚 (3点)
捩花のねぢり切ったる虚空かな 相沢恵美子 (3点)
「ねぢりきったる」というこれ以上なくねじった、という感じの表現がいいなぁと思いました。(美穂)
蘭鋳や纏足老女の肖像画 中村光男 (3点)
てん足老女と蘭鋳のイメージが合致したのでしょうか。俳味があります。(ユリ子)
甲斐駒へ落ちゆく夕日月見草 内藤芳生 (3点)
夕日と月見草のしずかなハーモニー。(宙)
木の下にこもる熱気や沖縄忌 岡崎志昴女 (3点)
方丈の庭にも順路七変化 満井久子 (3点)
ああ、そういうことも・・と思わせて頂けた句でした。(美穂)
蓮くれなゐ太古の夢を目覚めたり 妹尾茂喜 (3点)
テレビで早朝の開いたばかりの蓮の花をみましたが、中七で見事にその様子を描写されていると思いました。(明)
青梅や母は今も忙しく 加茂智子 (2点)
幼き頃から忙しいお母様、今も元気で忙しくして居られる様子が伺えますね。(孝子)
羅に白きうなじの若女将 かや和子 (2点)
内海のホテル松濤の若女将の事を詠んだ句でしょうか、若女将はテキパキとして笑顔が涼やかで羅がよく似合う、私は今年になって3回行きました、季語{羅」が動かない(貞郎)
黴の身に懈怠の日々の積もりゆく 安光せつ (2点)
迷ひ道はぐれ螢にさそはれて 染葉三枝子 (2点)
はぐれた蛍を追いかけるうちに自分も道に迷ってしまった。現実でない世界に誘われたようでいいと思いました(律子)
この句放哉や山頭火の句をおもいだしさます、「はぐれ蛍」が効いています、(貞郎)
眼下見ゆ瑠璃のかけらの氷河かな 佐藤博子 (2点)
33飛行機の中から下の景色を見るのは色々思えて私も大好きです(みつ子)
フィヨルドのみのも鏡となりし夏 佐藤律子 (2点)
青く照り輝いているフィヨルドに映っている山河は綺麗だったことと思います。(相・恵美子)
父の字の炎天に斧振り挙ぐる 早川恵美子 (2点)
詩「生きる」を吟ずる少女沖縄忌 妹尾茂喜 (2点)
あの少女の姿は本当に神々しいとさえ感じました。我々不甲斐無い大人たちへの天からの声のようでした。(明)
老犬の棺は桃の段ボール 西脇はま子 (2点)
桃の段ボールに飼主の愛情を感じました。ご家族と一心同体のワンコさんだったのですね。ご冥福を祈ります(早・恵美子)
桃の移り香に、共に過ごした日々を愛しむ飼い主の哀惜の情と、悲しみの中に老犬の幸せを感じる1句です。(博子)
子のつくる箱庭家裁の遊戯室 高橋紀美子 (2点)
地は月を抱き山百合の香を残す 早川恵美子 (2点)
地が月を抱くいい表現だと思います(みつ子)
石垣は崩れしままに信長忌 瀬尾柳匠 (2点)
白南風や青丹麗し西の塔 中嶋昌夫 (2点)
「青丹麗し」で彩が見えました。(孝雄)
夏みかん流れつきたる萩城址 嶋田夏江 (2点)
ブロンズの奏楽天使月涼し 竹田正明 (1点)
故郷の電線多し凌霄花 渡部有紀子 (1点)
夏蝶や縫ひつつ行ける青葉垣 佐々 宙 (1点)
ソーダ水出を待つ袖の武者震ひ 染葉三枝子 (1点)
鎌倉に一天四海てふ蓮 佐藤博子 (1点)
季語は「蓮(はちす)」。お釈迦様が真っ先に思い浮かびますが、一天四海。世界全体の広大さと蓮の花とのコントラストもいいかと思いました。(順一)
喜捨受くる柄杓小さし雲の峰 荒木那智子 (1点)
喜捨受くるとは進んで寺社に寄進し、または貧しい人に施しをすることであるが、小さな柄杓で喜捨受けたが雲の峰が美しかった。良い事しましたね!(芳彦)
水無月の海置き去りのカフェテラス 石川由紀子 (1点)
情景が目に浮かびます。6月の空気を感じました。(美穂)
水無月や「リュウグウ」の恋ふ水の星 室 明 (1点)
雪渓を渡るや足下の水音踏み 内藤芳生 (1点)
足下の水音を踏むという言葉遣いが面白いと思います。(相・恵美子)
トリトンの青き肌も夏の夢 小髙久丹子 (1点)
トリトンはギリシア神話の半人半魚姿の海神であるが海神の青い肌も替って夏の夢となって仕舞った。夢あり素晴らしい。(芳彦)
でで虫の角もておのれ励ませる 鹿目勘六 (1点)
美しき今の老いにはサクランボ かや和子 (1点)
青葡萄未だ後継の決まらずに 佐藤武代 (1点)
舟唄の少しみだらに紅の花 土屋香誉子 (1点)
舟唄も暑い夏には色気があって良いですね!(芳彦)
混沌に孔のなきとや梅雨の空 上脇立哉 (1点)
啓発される題材です。(志昴女)
蔦茂る燈に濡れて猫人を待つ 關根文彦 (1点)
飼い主を待つ健気な猫!(宙)
天を突く古き十字架緑さす 佐藤律子 (1点)
プリンセスローズ黄も薄紅も海を向き 永井玲子 (1点)
梅雨ふかき手児奈奥つ城片葉葦 鈴木 楓 (1点)
青嵐土佐の裸婦像逞しき 安光せつ (1点)
花嫁の髪に挿したるダリアかな 明隅礼子 (1点)
白いダリアの花言葉は「感謝」と「豊かな愛情」。耀くような夏の花嫁さんが目に浮かびます。(博子)
読み差しの本伏せありて若葉雨 佐々 宙 (1点)
ひっそりと神社の裏の蟻地獄 鹿目勘六 (1点)
蟻もいつの日か神になれると信じて!(宙)
水琴窟に耳傾けてサングラス 室 明 (1点)
以上
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