<福永法弘同人会会長選 特選句>
羅城門跡や蜥蜴は指揃へ 今井温子
平安京の南の入り口、羅城門は現存せず、石碑が建つのみ。その前で見た蜥蜴がまるで、祈りを捧げるかのように指をきちんと揃えていたのだ。どこかユーモアのある発見だ。なお、羅城門のレプリカが、10分の1のスケールで京都駅前に展示してある。(法弘)
蜥蜴が指をそろえているという、よく観察しているとおもいます。(光男)
蜥蜴が羅城門跡に敬意を表するように指を揃えているのが面白いと思いました。(典子)
由紀子、史子
ころころとかはる母の意さくらんぼ 野口日記
指針が全くずれないのは厳母のイメージだが、どこかとっつき悪い。一方、意見がころころ変わる母は、困ったちゃんではあるものの、コケティッシュで可愛らしい。(法弘)
ご高齢の母君である。すこし認知症も入っていらっしゃるかも知れない。そういう母君を作者は美しく可愛いものとして暖かく受け入れているのである。リズムよく平易な言葉のこころに残る句である。(武夫)
茂喜、香誉子
<福永法弘同人会会長選 入選句>
風薫るキリンが覗く小屋の外 上脇立哉
京都動物園を園の外の疎水越しに眺めると、抜きん出たキリンの首が見える。薫風を浴びて涼しそうだ。(法弘)
外は風薫るよい季節だが、キリンは何故か小屋の外に出して貰えないのである。普通なら通り過ぎる句だが、何故かこの句に惹かれるものがあった。そうか作者はキリンに共感しつつ、世の中の今の状況への思いを吐露しているのである。(武夫)
動物園でも季節を感じて外を眺めるキリンさん。外へ行きたい!(志昴女)
何気ない麒麟の仕種が上手く表現されています。(相・恵美子)
手鞠、道代、久丹子
水張りて豆腐の揺るる傘雨の忌 木村史子
傘雨は久保田万太郎のこと。忌日は5月6日だ。水の中で揺れる豆腐は<湯豆腐やいのちのはてのうすあかり>(万太郎)に通じる。(法弘)
日常を愛した万太郎の俳句から湯豆腐のワンシーンを切り取り共感できる一句になりました(宙)
豆腐は生き物。冷蔵庫が無かった、一時代前は豆腐が痛まない様に絶えず水を取りかえてました。万太郎の湯豆腐の句も思い出されます。(はま子)
久丹子、紀美子、尚
図書館を我が書斎とし梅雨に入る 武井悦子
更に座る席まで決まっているのだ。(法弘)
コロナ禍で在宅を強いられている中、図書館での読書は至福のひと時である。(泰山木)
ユーモラスな句だと思いました。(順一)
図書館を書斎にされているなんて、最高の贅沢ですね。誰にでもできることが、また最高ですね。(はま子)
孝子
白玉や子の大人びた口をきき 武井典子
大人の真似をしながら、子は次第に大人になってゆく。「の」は「は」の方が良いかも。(法弘)
白玉が効いていますね。(光男)
みつ子、悦子、香誉子
雨を聴くことも日課の夏安居 内村恭子
雨の音も読経の声も、現生の苦を忘れさせてくれるという意味では一緒かもしれない。(法弘)
風情がありますね。(智子)
夏江、治美
夕刻はひとりが好きで姫女苑 森野美穂
姫女苑もまた夕刻が似合う花だ。(法弘)
姫女苑と過ごす夕刻、「ひとりが好きで」が寄り添う。(孝雄)
夕暮時の散歩道にしづかに佇む姫女苑を見て、心安らぐ作者の気持ちが伝わります。(明)
下京のひじり行燈薫衣香 佐藤博子
ひじり行灯は遊郭などに灯されていた角行灯のこと。その灯を少し暗くすべく衣を掛けたのだ。それも、香が燻らせてある衣を。色っぽい風情の世界だ。(法弘)
下京、かがり行燈、薰衣香、、、京都満載なのに、かがり行燈がチラチラ揺れてい見えます。(玲子)
小・恭子、楓
若さとは吹き込む風や新樹光 加茂智子
新樹に吹き込む風に「若さ」を見たのである。(法弘)
孝子、万記子
野仏のあの顔母似草茂る 原 道代
五百羅漢の顔がみな誰かに似ているように、この野仏もまた母の顔を思い出させてくれる。(法弘)
孝子
三密の甘き誘いや五月闇 山根眞五
密閉、密集、密接が新型コロナ蔓延の元凶だという。自粛が続くと無性に恋しい。まさに甘き誘いだ。空海の教えでいうところの三密は身・口・意の三つ、すなわち「行動・言葉・こころ」を整える修行を指すので、ほぼ真逆の意味であるところが面白い。(法弘)
正明
糸瓜咲いて鉄扉の堅き子規土蔵 浅井貞郎
<糸瓜咲いて痰のつまりし仏かな>(子規)を踏まえながら、土蔵の実景を最後に見せたところがこの句の手柄。(法弘)
紀美子
地の底に根をはる樫や夏落葉 妹尾茂喜
見えないものを見る。樫の大木の夏落葉を見ながら、地中奥深くまで張って漲る根を見ることの出来る俳人の目。(法弘)
夏落葉を前に自然界の営みを静かに見守っている作者が見えてきました。(明)
あの遅きあゆみなつかし金魚売 土屋 尚
水を零さないように、金魚を驚かさないように、天秤に担いだ金魚桶を、身体を斜めにバランスよく歩んでいくのが金魚売の芸当。(法弘)
<互選句>
聖五月猫に母なる仕草あり 小髙久丹子
五月あたりは子猫の子育てに母猫は忙しいころなのでしょう、中七の母なる仕草がたいへんに面白い。(柳匠)
猫の仕草に母性を感じる・・聖五月と響き合っていると思いました。(美穂)
見飽きない猫の家族を見つめている作者の暖かさが伝わって来ます(宙)
日記、史子、道代、三枝子、玲奈
戻れないあの日常や心太 中村光男
今ならではの句・・かつての日常を恋しく思います。切なく共感致しました。(美穂)
コロナ感染前の日常にはもう戻れないと思う気持ちが心太に託し、実感が出ている。(芳彦)
この日常を心太のように押し出されたのだと思えば何だかユーモラスですよね(律子)
心太の器具と、コロナ禍との配合が上手です(早・恵美子)
尚、日記、正明
十薬と呼びどくだみと呼び世の隅に 三好万記子
十薬の生えている所は日陰の「隅」がぴったりですが、人にも薬でもあり毒でもある人がいるのかと思わせる「世の」が面白いと思いました。(典子)
なるほどって感心いたしました(早・恵美子)
表あり裏あり・・陰陽太極図の世界に共感しました。(博子)
眞登美、匠子、礼子
香水を変へ生き方のカーブ切る 森山ユリ子
生き方のカーブという言葉に心打たれました。(柳匠)
カーブ切るという表現に明るさと勢いを感じ、好きな句です(律子)
那智子、由紀子、久丹子、万記子
卯の花に雨意やはらかくやはらかく 金山哲雄
私も最近、雨の音に聞き入ることがあり、同感!(夏江)
卯の花と雨意の「う」、そしてやわらかさのリフレインが素敵だと思いました(耕)
雨意の存在感の強さを思いました。(順一)
楓
五月憂し手帳に並ぶ二重線 石川由紀子
諸々の予定がこれでもかとキャンセルとなり生活のリズムを保持することが困難となった。(眞五)
コロナ危機で予定が中止になり、手帳には二重線が並んでいるとしたところ実感が出ている。(芳彦)
手帳の「二重線」で予定を消したということで、まさに今年の五月の憂鬱。(典子)
那智子
鯉のぼり一息に吸ふ海の風 明隅礼子
マスク生活の日常の中で、鯉のぼりの如く大口で海風を一気に吸い込めばどれほど気持ちがいいだろう。(泰山木)
海近くの鯉のぼりが一気に風をはらんだ力強い様子がわかります(眞登美)
海沿いに泳ぐ鯉のぼりでしょうか、一息というのがいいですね(律子)
内・恭子
月山に熟るるを待てり野の葡萄 佐々 宙
小・恭子、内・恭子、礼子
ブルーインパルス白き軌跡や夏の天 佐藤律子
久しぶりに空を見上げるとブルーインパルスの整然とした軌跡に希望を感じた。(眞五)
ニュースで思いをのせながら見ました。ブルーインパルス!爽やかな句に拍手です。(美穂)
白い軌跡と夏の天がよく合っています。(相・恵美子)
母の日のテイクアウトの長き列 染葉三枝子
コロナ禍の世情を「母の日」に「テイクアウトの長き列」を取り合わせた深い句。(孝雄)
今年は特に多そうです。(春野)
立哉
僧の切る鬼絵涼しきおん祭 斎川玲奈
おん祭り、がいいです。いかにも手作り感がある、親しいお祭りの感じです。(志昴女)
耕、悦子
畝それてこぼれ種より玉レタス 土屋香誉子
こぼれ種ながら一粒の種に宿った命が立派なレタスになったという作者の感動が伝わって来ます。(はま子)
旭、匠子
風の繰る詩集のページソーダ水 瀬尾柳匠
清々しい青春の1ページが浮かびます。(ユリ子)
清涼感あふれる句だと思いました。(順一)
春野
友亡くし只ひたすらに草を引く 片山孝子
私も傘寿をすぎ次々と友を亡くしています、やりきれない寂しさが有ります、「只ひたすらに」と季語「草を引く」が大変良い(貞郎)
みつ子、勢津子
風見鶏くるりと廻り夏立ちぬ 岡崎志昴女
芳生、手鞠、三枝子
白南風やポストの赤くない国へ 内村恭子
ポストの色は国によって青・黄・緑等色々らしい。どこか外国へ赴任もしくは留学でもするのだろうか。故郷へ投函するのは青いポストから? 白南風にすがすがしい決意が感じられる。(泰山木)
日記、由紀子
信州の山の便りや夏蕨 児島春野
信州の爽やかな風に育った蕨。懐かしくも嬉しさの一句に共感しました。(博子)
旭、道代
天仰ぐ黙示のモアイ夏の星 佐藤博子
モアイ像は何を考えているのであろう。黙示して、天を仰いでいる。空には夏の星が煌めいている。ロマンチック。(芳彦)
紀美子、茂喜
コルビュジエの庭にねむりの蝸牛 鈴木 楓
茂喜、悦子、匠子
虹消ゆるまでエンジンはかけぬまま 森野美穂
玲奈、立哉、尚
子蟷螂風に逆らひ風に乗り 西脇はま子
風に逆らった子蟷螂、どうなるのかと思いきや上手に風に乗った。面白い句です。(玲子)
可愛らしい子蟷螂・・生命力を感じます。(博子)
芳生
祇王寺は静まり返る苔の花 荒木那智子
平家ゆかりの場所や物語には、もののあはれを感じます。(眞五)
みつ子、春野
キューカンバーサラダシャキシャキ夏来る 土屋 尚
キューカンバーサラダという長い言葉を俳句に取り入れられたことに脱帽です。(柳匠)
美味しそうですね。しゃっきり夏を乗り越えられそうです(早・恵美子)
朝の日に聳ゆる穂高朴の花 染葉三枝子
朝日の中の穂高と朴の花の孤高が響き合っていて美しい。(ユリ子)
上高地から見た穂高を思い出しました、朝日に映えるその姿は素晴らしいものでしょう(貞郎)
一むらのメタセコイヤの若葉かな 岡崎志昴女
背高いメタセコイア数本。若葉の淡いみどりと天に伸びようとする気高さを詠みました(宙)
治美
書に倦んで留守居の午後のアマリリス 鳩 泰一
夏の午後の気怠さとアマリリスの取り合わせが良いです。(玲子)
内・恭子
垣に薔薇歌唱の洩るる学生寮 荒川勢津子
史子、治美
万頭の羊を散らす夏野かな 長濱武夫
玲奈、礼子
病牀六尺子規宝塔の夏の空 浅井貞郎
思いの深い句である。この宝塔は物質的なものではなく、正岡子規が掲げた俳句を通じこの世を照らす宝塔であろう。すかっとした夏の空がこの子規の宝塔を尊ぶ作者のこころを表している。(武夫)
楓
新緑の溢れ寄せ来る山の道 児島春野
正明、和子
青梅落とす古き布団を敷き詰めて 髙橋紀美子
立哉、旭
打ち水や白き光を弾きつつ 中川手鞠
清潔で綺麗な句と思いました(耕)
葵咲いて永き戦後の夜の静寂 西脇はま子
勢津子
せせらぎの中州を占める花あやめ 阿部 旭
花あやめのむらさきがせせらぎの中により鮮やかに見えます。(ユリ子)
夏の蝶きらめく聖書ひらくとき 明隅礼子
端正な句ですね。(智子)
数十の月をぶら下げ夏蜜柑 髙橋紀美子
那智子
彼の人も鬼籍に入るや落し文 今井温子
落し文がいいと思いました(夏江)
青梅のありやなしやの紅のいろ 金山哲雄
そう言われてみれば・・・。(智子)
竹林の黒き墓石にある粽 妹尾茂喜
粽に物語性があるとおもいます。 (光男)
幸せに暮らしています母子草 永井玲子
コロナ禍の母子家庭を想いました。(万記子)
子供の日国旗眩しき駐在所 阿部 旭
未来を担う子供の成長を祝って駐在所の表に国旗が飾られていたとわ微笑ましい光景ですね(貞郎)
比良黒し草刈鎌の油汁 鉄谷 耕
小・恭子
梅雨間近黒光りする中華鍋 石川由紀子
眞登美
蕨狩こころ迷子にしてしまふ 荒木那智子
手鞠
句敵も少し懐かし五月かな 加茂智子
いろいろと”かたき”というライバルはありますが、、、、俳句にもあるんですね。(志昴女)
啄木の砂へ浜木綿影落とす 竹田正明
勢津子
ガリガリと歯の削られて梅雨に入る 中村光男
梅雨入と歯の治療、「ガリガリ」も惹かれる表現である。(孝雄)
人影の絶えし湖畔や行々子 榑林匠子
誰もいない湖畔。葭切の声のみ深閑と。(芳生)
葉桜の雨の輪零す運河かな 佐々 宙
三枝子
新緑に自転車を追ふしゃぼん玉 山口眞登美
新緑の頃、河川敷などでサイクリングを楽しむ若人やシャボン玉に興じる家族の姿などが見えてきます。(明)
昼顔やフレイル予防の散歩道 荒川勢津子
香誉子
山襞は雲に埋もれて一花草 内藤芳生
山襞が雲に覆われているからこそ白い一花草が際立っていたと思います。(相・恵美子)
以上
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