天為ネット句会報2025年5月

 

天為インターネット句会2025年6月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

長江を下る三蘇や夏の月                   西脇 はま子

お茶の世界では仁清の色絵陶を愛した「宗和好み」という言葉があるが、俳句でいえば、こうした中国の古典に材を取った句は「朗人好み」と呼べるだろう。「朗人好み」が俳句用語として広まったら楽しかろう。(法弘)

父子三名で何処へ向かっているのか?(眞五)

陽子、日記、手鞠

首塚にたどりつきたる薄暑かな                熊谷 佳久子

将門の首塚、光秀の首塚、入鹿の首塚。あると聞けば少しぐらい遠くても訪ねたくなる。薄暑だから、歩くのも大した苦にはならない。(法弘)

匠子、日記     

  <福永法弘同人会会長選 入選句>

屋台組み上がる三叉路祭足袋                 町田 博嗣

祇園祭の鉾を組み立てているところのような。(法弘)

三叉路に祭りの準備の景が浮かび上がります(美穂)

祭が近づく高揚感、真っ白な祭足袋が似合います(律子)

春野、志昴女

ひとりではどこへもゆけぬさくらんぼ             たまむし

一人ではどこにも行けないのは寂しくつらいが、季語のさくらんぼがそれを救っている。(法弘)

ひらがなの羅列に詩心を見ました。  (温子)

二つが一つにつながっている桜桃を見て、作者の思いが喚起される。納得させられる一句。(博行)

平仮名が良く利いていると思います、実感です。(孝子)

ひらがなだけの表現に漂う不安感に「さくらんぼ」の響きが合っています。敏晴

くつ下の穴の涼しき敷居かな                 向田 敏

靴を脱ぐ風習のない欧米では起こりえないが、和室に通されて靴を脱ぐ風習の日本では、こうした苦笑事件に出くわすことがある。涼しと受け流したところが俳味。(法弘)

作者はくつ下の穴を恥ずかしがらず涼しいと詠い上げた。下五の敷居かなも見事。(はま子)

「敷居が高い」とか思ったことがあるが、この句は遠慮の要らない家の敷居に足をかけたのだろう、何とも微笑ましい。(博美)

靴下の穴も涼しいと感じる感性が、素敵です。(博子)

朋子、志昴女

母の日や「開」押して待つ昇降機               鳩 泰一

シャイだから素直に気持ちを表すことは苦手だが、さりげないしぐさで思いやりを伝える。(法弘)

老いるということの一つに、行動のすべてのことがどんどんスローになってゆきます。「開」を押して待つは、詠み人の優しさと寂しさと悲しみも伝わってきました。(美惠)

デパートのエレベーターを開け、老いた母が乗り込むを待つ娘の顔が美しい。手にはプレゼント。(茂喜)

勢津子、尚

風薫る昭和を駆けしオートバイ                小栗 百り子

『彼のオートバイ、彼女の島』(片岡義男)は昭和52年の出版。私が大学の三回生の時。あゝ懐かしき青春。(法弘)

昭和は遠くなった。その頃に青春を過ごされたご自身か父上のバイクか。季語がちゃんと令和の今に足がついていて甘くならない。(ゆかり)

ツーリングが趣味だった父のオートバイがそっと佇みます。また夏がきました。正規

のうぜんや若き詩人の熱き恋                 佐藤 博子

鉄幹は歌った。「あゝ吾ダンテの奇才なく バイロン、ハイネの熱なきも」と。(法弘)

確かに凌霄花は熱き恋心を連想させますね。(光男)

夏江

梅雨兆す関守石の十文字                   鈴木 楓

結界を表す関守石が棕櫚縄などで十文字に結んである。「立ち入り禁止」と無粋な札を立てたりしない。(法弘)

梅雨の気配を関守石の十文字縄に見つけるとは。(伊葉)

日記

はつなつの色混沌の花手水                  石川 由紀子

花手水はわりと新しい風習。手水桶にたくさん花が入っていると、ひしゃくをどこに入れてよいか戸惑うばかり。それを色混沌とは言いえて妙。(法弘)

純夫

コンクラーベの白煙涼し大聖堂                髙橋 紀美子

新教皇が選出されれば白、まだなら黒い煙。決まるまで何日もかかることとも。まさに根競べ(笑) (法弘)

玲奈

植田海ぽつんぽつんと居久根浮く               荒木 那智子

居久根は屋敷林に同じで、特に宮城県での呼び名。独特の風情あり。(法弘)
   

 <互 選 句>

遊廓の猪の目窓より梅雨の月                 西脇 はま子

語がよい。雨上がりの束の間に見つけた月。それを猪の目窓から細く眺める女郎の心情にも思いが飛ぶ。(ゆかり)

猪の目窓というものを初めて知りました。「べらぼう」の世界ですね。面白い。(光男)

遊郭の猪の目とはなかなか想い付かないところに眼を付けたとろ新鮮であります。遊郭の窓から見る梅雨の月など粋(芳彦)

梅雨の滲むような月が花魁の泪を誘うかの様です(早・恵美子)

玲奈、博嗣、由紀子、雅司

改札を抜けて燕は餌を子へ                  岡部 博行

駅舎の中に巣があるのか、律儀な燕ですね(眞五)

芳彦、道代、香誉子

孕鹿一夜の宿を転害門                    今井 温子

奈良では鹿は大切にされているから転害門にでも堂々と休むことが出来る。(博美)

孕鹿にとって転害門は安心できる場所ですね。(相・恵美子)

大仏の定印かくれんぼの山雀                 石川 由紀子

博嗣

街薄暑パン屋の列の最後尾                  佐藤 律子

情感が漂う句。(孝雄)

人気パン屋さん。どうにか最後尾につけられた。お気に入りのパンが残っていますように(憲史)

最後の列までほかほかのパンの香りが届いている情景が見えます。勿論笑みも。(郁文)

立哉、道代、順一

夏立ちぬ海ひとところ万華鏡                 芥 ゆかり

夏の海に「万華鏡」の表現、すばらしい。共感。(ユリ子)

いとはんのはんなり渡す梅雨の傘               松山 芳彦

新派の一場面のような・・・。(肇)

朋子

昼酒や我を見つめる青蛙                   中島 敏晴

後ろめたさを消すことができない律義(小心)さを、蛙のツラに重ねたところに共感しました(誠治)

昼酒の姿を青蛙に咎められているような後ろめたさが返ってユーモラス ふみ

道代、夏江、三枝子

一直線にマロニエ並木夏来る                 長岡 ふみ

芽吹きのマロニエ並木、美しいですね。(ユリ子)

一直線の先に凱旋門のあるマロニエ並木。花が咲けばなお・・。(博子)

澄江

たかし忌や二十二歳の人生観                 野口 日記

松本たかしの諦観と22歳のそれとの比較取り合わせが良いと戴きました。余慶

一行詩以外は余白夏の空                   鳩 泰一

一行詩は 鳥でしょうか、雲でしょうか、真っ青な夏の空の広がりが・・・(美惠)

夏の空白に「一行詩」の存在感が際立ちます。敏晴

由紀子、匠子、真弓

新記録待つ競技場風薫る                   児島 春野

立哉

新聞の運ぶ朝や夏に入る                   荒木 那智子

新聞の朝刊に希望の湧く記事を確認。夏に向かって勇気づけられる。(桂一)

乱暴な言い方ですが「新聞の運ぶ朝や」は宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンの「地球は青かった」の言葉に匹敵するように胸に響きました。(はま子)

万緑や過去ねむりたるワイン蔵                たまむし

花泰山木異国の寺に遺骨守                  山本 純夫

真弓

下影に桑の実熟れむとして赤し                岡崎 志昴女

百り子

缶振ればドロップの音風薫る                 中島 敏晴

ドロップ缶の音は昭和の音ですね。(泰一)

大人が振っているのでしょうか?懐かしいです。(敏)

陽子

一国に夕陽は一つ天道虫                   早川 恵美子

夕陽の美しさは本人だけの至福。季語との取り合わせが抜群。(郁文)

大きな夕陽と天道虫の対比が素晴らしい。(泰一)

ポルシェ降り来て日覆の佃煮屋                佐藤 博子

ポルシェと佃煮屋との組み合わせが秀逸。(ユリ子)

立ち漕ぎで登り切る坂楠若葉                 野口 日記

楠若葉を吹く風は、坂を乗り切る力を与えてくれる。(桂一)

自転車通学の高校時代、校舎は高台で最後の坂道がきつかったことを思い出しました。たまむし

トマトよりトマトの匂ふトマト苗               向田 敏

実感です。敏晴 藍は藍より出でて藍より青しですね (幸子)

トマト苗は双葉より芳し???(哲雄)

天満、那智子、百り子、手鞠、香誉子

夏あざみの隠岐草原の親子馬                 原 道代

澄江

マロニエの花や初老の弾き唄ひ                荒川 勢津子

巴里の吟遊詩人を思いました(早・恵美子)

草笛の葉を探しつつ田んぼ道                 井上 澄江

草笛を鳴らせる方が羨ましいです。たまむし

都会っ子に草笛を聴かせたくて父もよく葉探ししていました。ふみ

麦刈や夜空に笑窪二つ三つ                  宮子 天満

広大な麦畑。夕暮れまでかかっても、星も微笑んでいると感じる、刈り終えた喜びが伝わってきました。(博子)

結葉の翳やはらかし観世音                  斎川 玲奈

一句に綺麗で柔らかな景が見えてきます。(相・恵美子)

由紀子、那智子、楓

リュート弾く白夜の森の古教会                松山 芳彦

北欧の教会での静かなひとときが伝わりました。(佳久子)

純夫

トラクター自在に爺はサングラス               井上 澄江

元気な爺にはサングラスが似合う。(肇)

自在がいいですね サングラスも決まりエンジョイシニアライフのよう(久丹子)

農業従事者の高齢化が心配されていますが、かっこいいお爺ちゃんも居ます(智子)

那智子

天に星地に渓流の夏館                    早川 恵美子

いかにも気持ち良さそうな夏館と感じます(美穂)

こうゆう夏館に滞在したいですね。(佳久子)

真弓

千曲川の清き風へと鯉幟                   竹田 正明

広い河原で鯉幟も気持ち良く、また映えるでしょう(眞五)

朋子

点動くごとき棚田の田植かな                 郁文

空から見たらたしかに (幸子)

若葉吹く街の小さなコンサート                阿部 旭

吹奏楽器から爽やかな音の調べ素敵です (幸子)

演奏者は子供達でしょうか。街角の野外会場の様子が目に浮かびます(智子)

香誉子

デカダンは遠くになりて桜桃忌                福田 誠治

文化人の形容でもあった太宰の頃のデカダン 当今は退廃という日本語が横溢しているよう 隔世の感です(久丹子)

恭子

おぼろげに前世の記憶藤の花                 芥 ゆかり

歌に詠まれ絵巻にも描かれた藤の花、確かに前世があるやも知れません(律子)

万の島縫うやうにして夏の潮                 須田 真弓

瀬戸内の景でしょうか。力強い夏潮の潮路が目に浮かびます。たまむし 凪の瀬戸内の景色でしょうか。縫うようにしての表現がぴったりです。瀬戸内島巡りのツアーを思い浮かべました。(郁文)

島を囲むような白波はまさに縫うようなと言えますね。(伊葉)

瀬戸内海の情景でしょうか。「万ノ島」が言い得て妙です。(哲雄)

瀬戸内の正確な島数はともかく縫うやうにの表現に瀬戸内の景色が浮かび上がります(律子)

陽子、純夫

草いきれ纏ふ一団小海線                   金山 哲雄

春野、博嗣

病棟の子らは明るく聖五月                  宮川 陽子

小児病棟の「景」であろうか。季語が寄り添う。(孝雄)

入院している子供達の明るい表情に気持ちが和らぎます。(相・恵美子)

カトリック系の子供の病院でしょうか。多分重たい難病を患っているはずの子供たち。正規

五月という季節が元気を後押ししてくれます(智子)

心魂を見透かすやうに春の鹿                 木村 史子

雅司

麦秋や北へおもむく貨車の列                 垣内 孝雄

麦熟れて風に音立てる田の中を黒き貨物列車がよぎる、汽笛鳴らして北へ向かう。(茂喜)

手鞠、楓、礼子

咲き満ちて緋牡丹翳るところなし               岡部 博行

翳ることのない緋牡丹が咲き満ちている風景は、見事である。「翳るところなし」と言い切ったところところに言葉にできない美しさがある。(桂一)

十分も歩けば終わる夜店かな                 上脇 立哉

十分も歩けばから、懐かしい子供の頃の夜店が髣髴と思い浮かびました。(はま子)

茶箪笥の奥に恋文夏近し                   内村 恭子

毎年夏を迎える頃になるとあの恋文を思い出す。隠し場所は身近な茶箪笥の奥とは誰も気づかない(憲史)

屈原が粽で愚痴る淵の中                   岡崎 志昴女

屈原さんが「粽で愚痴る」と中七の妙味が良いと戴きました。余慶

天満、紀美子

日照雨去りひとり歩きの鹿の子かな              日根 美惠

紀美子、礼子

晴耕雨読に遠く短夜を遊ぶ                  内村 恭子

「短夜を遊ぶ」という措辞に作者の心の余裕が感じられる。漢詩の読み下しのような風情もよい。(ゆかり)

「どくとるマンボウ青春記」を思い出します(誠治)

まがまがしき薔薇咲かせたり大都会              土屋 香誉子

まがまがしき薔薇とはどんな薔薇でしょう。その薔薇を咲かせたのが大都会とは。何かおありでしたか?話を聞いてみたいです。(玲子)

あめんぼうただいま忍者修行中                上脇 立哉

三枝子

言い訳も味のひとつの胡瓜揉み                金山 哲雄

孝子、恭子

剥製の熊玄関に五月闇                    熊谷 佳久子

熊の剥製がヌッと出てきたら、怖いでしょうね(美穂)

十薬の花の白さや雨の中                   嶋田 夏江

澄江

蕗煮れば苦み旨みの青みたり                 中川 雅司

みの字の揃踏み・・・巳年だから?真面目に感心致しました(早・恵美子)

母から娘へ受け継ぐドレスジューンブライド          中川 手鞠

勢津子

芍薬は固き莟のまま売らる                  小高 久丹子

レベルⅢのマルチバースでは、違った景色になっているかも。。。(誠治)

天満

楊梅や天下を決す関ヶ原                   金子 肇

玲子

グレーチングに牛引き返す夏野かな              原 道代

百り子

小面の裏なる般若五月闇                   中村 光男

普通の人が怒りや嫉妬により鬼になってしまう。能面に託して人の心の奥の闇を見詰めている。(博行)

若い女性の内なる苦悩を感じます。(敏)

小面の裏の般若とは(芳彦)

能面の裏を「五月闇」に惹かれました!(博美)

史子

命日や僧待つ朝の閑古鳥                   片山 孝子

何回目の回忌でしょうか。十七回忌位かな。山が好きな方だったのかしら。正規

空つぽの牛舎に御幣子供の日                 牧野 桂一

牛舎の空っぽの部屋には仔牛のドラマが・・・ 今年もまた新しく生まれた仔牛のお部屋になりますように(美惠)

空っぽの牛舎に掛かっている御幣が風に揺れている。今迄に何頭の仔牛が売られていったろう。子供の日に切なさすぎです。(玲子)

以前は、子牛もたくさん生まれた牛舎だったのでしょう。淋しさを感じますが、これからは、多くの人や子どもを見守る?「御幣」だといいと思います。(敏)

もう牛はいなくなっても、牛舎は神聖です。(哲雄)

池の面は黄泉の扉や青嵐                   斎川 玲奈

人々の見る目の多様性に感動  (温子)

爽快で明るい青嵐の中に死後の世界への入口を幻視する詩人の感性に驚かされる。(博行)

改札に遅延の知らせ梅雨兆す                 児島 春野

電車の遅延は嫌になります。特に鬱陶しい梅雨の時には、ますます気が滅入ります。季語が効いていますね。(光男)

勢津子、恭子

竹橋の方へ吹かるる若柳                   伊藤 正規

皇居内濠に架かる平川橋という木橋あたりの澄んだ緑の風を思いました。(伊葉)

初もぎの葉つきの枇杷を供へけり               髙橋 紀美子

庭の枇杷を真っ先に捥いだ故人への思い出、思い入れが窺える。ふみ

雅司、順一

ポップコーンの次次湧くや夏の空               宮川 陽子

匠子、史子

人はなぜ大人になるの合歓の花                福田 誠治

宮城まり子さんのねむの木学園を思い出す。(泰一)

聖五月ブタとペストと鎖橋                  鈴木 楓

ブタペストへの挨拶句いただきました。余慶

新緑裡名水汲むは皆無言                   河野 伊葉

順一

いつからかスマホは生き物梅雨兆す              荒川 勢津子

紀美子

老鶯や縁切寺の庭に啼く                   合田 智子

温子、立哉

大庭園住職さまの蚊除け帽                  榑林 匠子

坊主頭なので蚊に刺されたら俗人より大変!(春野)

新茶の封切る淹れる飲むケセラセラ              木村 史子

色々有りますね、味わい深いです。(孝子)

封を、1)切る 2)淹れる 3)飲む、そのリズミカルな調べに、下五「ケセラセラ」が上手くマッチしています(憲史)

黒き翳孕みて万緑動かざる                  中村 光男

史子

蛇の衣脱ぎし形に吹かれあり                 相沢 恵美子

風が来て吹かれていて、まさに生きている蛇のよう。(佳久子)

脱殻ゆえか余情のある写実です(久丹子)

夏江

行く雲や塔より高く朴の花                  森山 ユリ子

濃き緑の葉に包まれた大きな白き朴の花の見上げる青空に白き雲がゆったりと治まる。(茂喜)

気持の良いくですね。(孝雄)

玲奈、礼子

薫風や伊勢神楽獅子舞納む                  阿部 朋子

伊勢神楽を見たことはありませんが、薫風、舞納む、という語彙でゆかしき伝統文化を感じました。(博子)

桐の花万葉苑に雅楽の音                   今井 温子

ガラス風鈴吊るせば透くる基地の街              永井 玲子

志昴女

源五郎鮒いやさ釣られてくされ鮨               鹿志村 余慶

三枝子

すつぴんでよしとのたまふ殿様蛙               小高 久丹子

「のたまふ」とはいかにも殿様の言。(肇)

以上

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