天為ネット句会報2025年7月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
滴りや森のモルトの蒸溜所 芥 ゆかり
「モルト」はウイスキーの種類。モルト(大麦麦芽)のみを原料として作られるもの。そのモルトを発酵させ、出来たもろみを蒸溜し、樽に入れて熟成させる。その蒸溜所が滴りの止まない森の中にあるというのである。長い歳月をかけて造られるウイスキー製造の営みに思いを馳せた(傳)。
緑深い森の静謐な風景。一幅の絵画のようです。(泰一)
琥珀色のウイスキーは滴り落ちる森の精の恵みでしょうか (幸子)
深い森の緑に囲まれたウィスキーの蒸留所。清冽な湧き水の滴りが醸される原酒の豊潤さを約束する。(博行)
夏暖簾かけて葛布屋城仰ぐ 小栗 百り子
「葛布(くずふ)」は葛の蔓から採った繊維を紡いだ糸で織った布。静岡県の掛川が古くからの産地で、現在も作り続けているという。とすると、仰ぐ城は掛川城か。安土桃山時代には山内一豊が城主となり、天守などを築いて近世城郭としての体裁を整えた。明治以降、廃城処分とされた。現在の天守は平成六年の再建。日本初の木造復元天守だという。掲句の「夏暖簾」は「葛布屋」のものだけに、立派なものに違いない(傳)。
掛川市でしょうか、葛布も涼し気で夏らしい句です。(春野)
重曹で磨くシンクや夏来たる 内村 恭子
さらば、さわやかなりし夏の日よ!(誠治)
暑い夏の到来、警戒感と期待感が伝わってきます。(光男)
長年続けてきた重曹でのシンク磨き。今年も夏が巡り来て、手に受ける水の冷たさが心地よい。(博行)
立哉、史子、尚、 22
飛魚の海蒼々と隠岐はるか 鈴木 楓
躍動感のある気持の良い句 (幸子)
朋子、道代、志昴女、那智子、澄江
短夜や聖書のやうな全句集 中川 雅司
「聖書のやうな」とは本の厚みや紙の手触りなどもあろうが、この全句集は作者にとってのまさにバイブル。毎夜少しずつ大切に繙いているのだろう。(ゆかり)
先生の全句集。私もいつも側に置いていて読み返しています。(桂一)
朗人先生の全句集はまさに聖書のように感じますね。(佳久子)
紀美子、日記
夏燕勝手知ったる祖母の家 永井 玲子
今年も帰ってきた燕 代々受け継いだこの屋敷から何代人も燕も巣立ったのでしょうか (美惠)
開けっ放しの田舎家は燕にとっても「勝手知ったる」なんですね~(博美)
道代、正治、手鞠
幾たびも子の行き来する茅の輪かな 内村 恭子
可愛い情景が浮かびます。(敏)
茅の輪くぐりにはお作法がある。けれど子供らに手順は関係ない。輪の中を行ったり来たり遊んでいる光景がよく見える。(ゆかり)
子供たちの嬉々とした様子が目に浮かぶ。(泰一)
子供ならではの行動がよく出ていて、微笑ましい句。(佳久子)
茅の輪は子供でなくとも、何回も潜りたくなります。(はま子)
遠き日や白夜の町に琥珀買ふ 森山 ユリ子
遠き日 同様の経験があり街の佇まいも懐かしく思い出されました 購入の品はほぼ眠りについていますが‥(久丹子)
調べが美しく、ノスタルジーに溢れています。白夜を見た頃の記憶も、琥珀に閉じ込められているよう。(博子)
紀美子、日記
蛇の衣まだ濡れてゐる目玉あと 今井 温子
蛇の涙で濡れていたのかと、想像してしまいました。よく観察されています。(相・恵美子)
史子、志昴女、香誉子
夏服はギンガムチェック老いてなお 森山 ユリ子
涼しそう 「老いてなお」が素敵です。 ギンガムチェックは、何に使っても何処においても邪魔にならないです (美惠)
孝子、手鞠
五線譜を流るる音符夏の雨 森野 美穂
中七に美しさ優しさあり (温子)
力強い「夏の雨」。”五線譜”がそのリズミカルさを一層引き出している(憲史)
芳彦
牛の目に阿蘇の噴煙泉湧く 牧野 桂一
牛の目に濁りなく大阿蘇が写っている命を詠んだ佳句といただきました。余慶 牛の目に濁りなく大阿蘇が写っている命を詠んだ佳句といただきました。余慶
玲奈
月涼しタップダンスの靴の音 森野 美穂
余興のタップダンスの音が夜空に涼しげに響いていますね。ふみ
ドラマ、情景が想像できる(百り子)
むかし見た映画を思い出しました。(正規)
横浜に柚子のかをりの白ビール 髙橋 紀美子
白ビールは恵比寿ではなく横浜に似合いますね。(敏)
順一
田ノ神の祠かすめて夏燕 阿部 旭
一面に田んぼの広がる田舎の燕はほうとうに低く飛ぶ。今みてる風景でした。(正規)
陽子
夏痩せや漢方薬に匙加減 金山 哲雄
「匙加減」に惹かれました(美穂)
透き通る雁皮紙の仮漆水うちわ 石川 由紀子美濃和紙の水うちわ、それだけで涼しさを感じます。(敏晴)
ビザンツの古城に守宮鳴きにけり 中川 雅司
宮古島の夜を思い出しました(誠治)
老鶯や瀬戸内海を見晴らして 上脇 立哉
順一
調教の白馬の闊歩半夏生草 熊谷 幸子
沖縄忌ぶ厚き手記を読みしこと 荒木 那智子
万緑や那智御社の大庇 斎川 玲奈
昼寝覚子どものやうに叱らるる 明隅 礼子
思わずウフフです。(玲子)
昼寝から覚めて少しボンヤリしている情景が浮かびます(美穂)
全く同じ経験をしたことがあります。(桂一)
中7が効いています。起き抜けに驚かれたことと思います。(相・恵美子)
香誉子
紫陽花を包み揺らせる風の舞 妹尾 茂喜
贋作の落款かたし青嵐 木村 史子
日記
蟻の列慰霊の塔に人気なく 中島 敏晴
風刺の句かと思いましたが、現実の日常を複雑な思いで受け止められた作者のお気持かと・・・たまむし
尚
和金飼ふ宿のデッキの片庇 町田 博嗣
涼しげな宿が目に浮かびます(美穂)
玲子
街路樹の葉の揺れもなき極暑かな 片山 孝子
朋子、志昴女
饒舌な禅僧去りて仏桑花 中島 敏晴
仏の文字が入る名を持つのに派手な花の季題が、禅僧なのに饒舌な人物と合っています。(春野)
牧牛の乳房の垂れや夏あざみ 金子 肇
のどかな草原が広がります。(敏)
真っ青な空に白い雲、のどかでゆったりとした牧場、牛が静かに草を食んでいる。そんな夏の景が見えるようです。夏あざみが効いていますね。(光男)
母牛がのんびり草を食む いつまでもこのような光景が見られますように(久丹子)
玲子
睡蓮は浄土の花か補陀洛寺 竹田 正明
しんと静かな水面に浮かぶ睡蓮は「浄土の花」かと思うほど美しい。(ユリ子)
玲奈
夕立の予感錠剤噛みくだす 木村 史子
今にも来そうな夕立に慌てる光景が目に浮かぶようです(哲雄)
立哉、由紀子、匠子、香誉子
蟇蛙岡崎城を動かざる 早川 恵美子
家康が出生した岡崎城 代々譜代大名が城主を務めた神君出生の城 令和の今も未だ動かざる者 蟇蛙も家康も 可笑しみのあるいい句だと思いました (美惠)
城主の化身のようです。蟇蛙にはそんな貫禄があります。(桂一)
朝粥の仄かな匂ひ夏めけり 中村 光男
宿坊の朝食を思い浮かべました。(敏晴)
陽子
大祓終りて茅の輪狙ふ鹿 佐藤 博子
尚
紫陽花の径にありあふ切通 垣内 孝雄
雅司
讃岐路をバスはのんびり麦の秋 井上 澄江
のんびりとゆくバスと豊かな金色の麦畑の取り合わせがとてもいいと思います。(ユリ子)
正明
花合歓の窓辺に寄せる椅子ふたつ たまむし
家族の「なごみ」を感じる句。(孝雄)
白南風やセーラーの皆アランドロン 永井 玲子
百り子
葭切や夫を見舞ひに橋渡る 荒木 那智子
自然豊かな場所にある施設見舞いでしょうか、、、「橋渡る」がある意味で清々しく響く。ふみ
葭切が啼く。大きな橋を夫の待つ大きな病院へ歩く婦人の姿が見えました。(正規)
賑やかな葭切を聞いた後は、夫とのお喋りを楽しむ見舞いかと連想。退院も間近なのかな。(博子)
博嗣
あどけなきコスプレイヤーソーダ水 井上 澄江
幼い子供がお気に入りのコスプレをして、少し生意気そうにソーダ水を飲んでいる姿が浮かびます。(真弓)
立哉
予報士のトーク過剰や夏猛る 金山 哲雄
近年気象予報のなべて詳細なこと 暑さもさらに煽られるよう(久丹子)
異常な暑さの続く昨今、ついついトークにも熱が入る。「夏猛る」の季語に尽きる(憲史)
猛るという表現が過剰とは思えぬくらいの夏の暑さには参ってしまう。が、予報士の表現はちと過剰か‥‥(律子)
鐘楼の錆に張りつく蝸牛 郁文
山寺の静けさを感じました。 (温子)
干涸びたS字S字のみみずかな 嶋田 夏江
s字s字が全くその通りだと感じます。(博美)
刀工見習確と矜恃を松の芯 今井 温子
恭子
梅雨見舞有難山の茶蕎麦かな 岡崎 志昴女
有難山に惹かれました。(博美)
孝子
石橋を這い上がりゐる青蛙 原 道代
雅司
ジャカランダ夏の風揺れ遊歩道 齋藤 みつ子
薄紫の花ですよね。カンガルーの国で見たような・・・楽しんでくださいね(早・恵美子)
ジャガランダは南米では日本の桜のようなものだそうです。一気に夏がきて風を呼んでいるようです。(真弓)
梅雨の晴れ真っ正直な万歩計 榑林 匠子
日課のウォーキングも雨の日は億劫になりがちです(智子)
父母へ向かふ車窓や青田波 野口 日記
田植の時期を終えた父母をねぎらいに田舎へ帰る。道の左右は青田だ。車窓を過ぎる田の匂いがやさしい。(茂喜)
夏江
懐かしき笑顔近づく夏帽子 鳩 泰一
再会の喜び。「夏帽子」の情感。(孝雄)
帰郷したのでしょうか。向こうから麦藁帽をかぶった人が近づいてきた。なんと幼なじみの友ではないか、という情景がみえます。(光男)
久しぶりの待ち合わせ、足早に近づいてくる帽子姿に友を認めたのでしょう。懐かしさが、こみあげだ事でしょう。ふみ
夏江
燕の糞手入れされたる無人駅 郁文
「手入れされたる」が絶妙。無人駅が燕の糞で汚れないよう誰かが気に掛けていることに敬意。たまむし
勢津子
川岸に小さき闇あり蛇の衣 明隅 礼子
芳彦、春野
アルバムに風の通るやパリの夏 向田 敏
以前巴里にいらしたのですね。今年は滅茶苦茶暑いみたいです(早・恵美子)
黄雀ら古古古古米に屋根越え来 阿部 朋子
古が三つまでのお米は人間が食べ、四つになると雀たちが・・・。シニカルでありながらsユーモラス。(博子)
恭子
秀吉の攻めし石垣木下闇 児島 春野
正治
反抗期といふ時期ありて文字摺草 冨士原 博美
こういう時期もあると見守っている感じ。味のある季語が素晴らしいです。たまむし 若者の特権かな?季語”文字摺草”がいいですね(智子)
真弓
リュック背に祭浴衣の幼なかな 熊谷 佳久子
小さい子の背中いっぱいのリュック姿は可愛い。それも祭浴衣着てとは!想像するだけで愛らしい(律子)
鷹の絵の一子相伝夏炉守る 早川 恵美子
由紀子
奥多摩の地ビール溢る江戸切子 阿部 旭
芳彦
コーヒーの濃いめ供ふる戻り梅雨 荒川 勢津子
しとしとと寒い戻り梅雨、亡き夫もそんな夏でした。濃いめのコーヒですね。(孝子)
虹立ちてニニギに限りある命 芥 ゆかり
沖縄や奄美の彼方にあるとい楽土にかかった虹でしょうか。神々しく美しい光景です。(はま子)
可惜夜や月下美人の貴賓席 熊谷 幸子
可惜夜という素敵な言葉を教えて頂きました(肇)
正治
虹立つやニライカナイといふ彼方 中村 光男
玉城城址から見る虹は、久高島の方角に出そうです(誠治)
海の彼方にある楽土から年ごとに神が訪れ豊穣をもたらす。ニライカナイは虹の彼方にあったのだ。(博行)
玲奈、那智子、澄江
庭に咲く赤き四葩に雨雫 松山 芳彦
正明
雷や一人ぽつちの待合室 野口 日記
女性ならなおさら心細いですね。(孝雄)
「一人ぽっち」がいい。病院か電車の待合室かしら。雷鳴のなかの心細さ。(ユリ子)
お気に入りの雨傘忘れ梅雨あがる 合田智子
ちょっとした物語のようなウイットを感じます。(敏晴)
京劇の女の嘆く溽暑かな 鈴木 楓
手鞠、匠子
波に乗るさねさし相模初がつを 妹尾 茂喜
土佐高知の脂の乗った廻る初鰹、青葉の頃は江戸で喰う。一寸待った、さねさし相模があるじゃないかという作者の矜持が、いただきました。余慶
リズムよく一句を詠み勢いのある初鰹が見えてきます。(相・恵美子)
調子が良いですね(早・恵美子)
土佐高知の脂の乗った廻る初鰹、青葉の頃は江戸で喰う。一寸待った、さねさし相模があるじゃないかという作者の矜持が、いただきました。余慶
道代
ほの白く四葩の花や窓に雨 榑林 匠子
雨の中の紫陽花の様子が。(佳久子)
澄江
夕焼やそろそろ日本朝ならむ 上脇 立哉
異国の地で見る夕焼け、その美しさとともに遥か日本に想いを馳せる(律子)
結願へ軽き足取り喜雨の寺 合田憲史
炎天下のお遍路お疲れさま。まさに喜びの雨(肇)
季語の喜雨に達成感喜びが見られる。 お四国さんなら大窪寺さん おめでとうございます。 (温子)
由紀子、夏江
通勤の青年のさす日傘かな 土屋 香誉子
熱中症にご注意下さい。若者も日傘を手にする陽の強さです(智子)
何故かこの句から通勤の青年の生真面目さが伝わってきます。異常気象対策とし、男性用の日傘が売り出されるのでは。(はま子)
勢津子
進化とは絶滅のこと木下闇 福田 誠治
季語がいいと思います。確かに表裏一体かな。(百り子)
正明
日焼破顔新人議員当選す 小高久丹子
恭子
盆支度父の手帳は納戸奥 金子 正治
几帳面だった父。家の行事等すべからく手帳に残している。準備には欠かせない。感謝!(憲史)
目高には簾が必要だと思ふ 石川 順一
博嗣
梅干して午後はお寺のフラダンス 合田憲史
お寺のフラダンスがいいです(肇)
家事にも趣味にも精を出す充実した日々をユーモラスに掬われましたね。(哲雄)
陽子、勢津子
花菖蒲映すカメラに亀の首 原 道代
鋭い葉の中の、紫の、白の大きな花の美景を撮るカメラの先に亀の首が出て来た。面白く記憶に残る(茂喜)
可笑しいけどありそうです (幸子)
順一
月涼しむかし軍都の道広し 金子 正治
軍都の多くは空襲の標的にされ多大な被害を出した。そんな街の今宵の「月涼し」に救われる思い。(ゆかり)
嘗てあちこちに点在した軍都、広い道路はその往時を忍ばせるもののひとつですね。(哲雄)
史子
蜜腺を運びて蟻の脚急ぐ 向田 敏
博嗣、雅司
宿坊の板戸二枚や明易し 熊谷 佳久子
質実な作者の生き様が板戸二枚に活写されているといだだきました。余慶
朋子、紀美子、匠子、那智子
胃カメラの麻酔くちなしの花真白 冨士原 博美
病院の庭の枝先に芳香のある白い花が咲いている。麻酔が切れて、病床に戻った作者の良きなぐさめだ。(茂喜)
銀色の爪が瓜もむ朝ごはん 小高久丹子
中七「爪が瓜もむ」がユーモラス。(泰一)
以上
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