天為ネット句会報2025年11月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
老いと云ふ孤独と気儘花野道 荒川 勢津子
作者は歳をとり、一人暮らしをしているのであろうか。孤独の淋しさを覚える時もあれば、気儘に暮らす開放感を覚える時もあるというのである。美しい花野道を歩きながらも、時によって二つの思いは交錯するのであろう(傳)。
全く共感。(佳久子)
役職を離れて味わう孤独感と開放感に共感する。花野道があの世への道程の暗喩と感じられた。(博行)
誰しもが平等に老いに直面します(みつ子)
しみじみとしたなかに 季語が良いと思います (幸子)
三枝子
地蔵が岳みゆる軒端の吊し柿 鈴木 楓
掲句の「地蔵が岳」は南アルプス北東部にある鳳凰三山(観音ヶ岳・薬師ヶ岳・地蔵ヶ岳)を構成するそれを言うのであろう。標高二七六四メートル。頂上に地蔵仏岩と呼ばれる尖った岩が立ち、甲府盆地からよく見える。秋も深まり、干柿が吊された軒端から地蔵が岳を望む。遠景と近景の対比の面白さがある(傳)。
果物の産地山梨県の農家から見る風景、のどかですね。(春野)
小鳥来る手話の上手な薬剤師 西脇 はま子
季語と手話の取り合わせに、さわやかさを感じました。(誠治)
小さな町の小さな薬屋さんであるはず。と思う。(正規)
上五・中七・下五が醸し出す世界。(孝雄)
表情や手の動きが軽やかなのだろう。薬剤師の人柄も仕事ぶりも見えてくる。(ゆかり)
優しくて手話が上手 頼りになる薬剤師さん こんな方に私もなりたかったです 温子
鶫、尉鶲、花鶏など渡ってくる鳥らの景が穏やかに薬剤師との取合せがよく、中七が利いている句 (余慶)
那智子、日記、雅司
身に入むやガザの子どもの大きな目 児島 春野
ほんとにそうですね、心が痛みます(夏江)
ガザに一日も早く平穏な日常が戻りますように(勢津子)
今の時勢句ですね。作者の心に共鳴致します(早・恵美子)
由紀子、紀美子、玲子
月面の静かの海や地のすすき 髙橋 紀美子
眼前のすすきと月面のウサギの顔の対比、壮大ですね。(泰一)
月面と地の芒の取り合わせが面白い。桂一
身近なものと月面に見る大なる海の対比の面白さ 温子
詩的です (幸子)
百分の一秒競ひ天高し 中村 光男
天に向かうようにミクロの記録に挑戦するランナー。(ふみ)
陽子、手鞠、那智子
風に浮き風に色添へ秋の蝶 岡部 博行
よろよろとしている秋の蝶の描写に惹かれた。(博美)
芳彦、尚、百り子
秋の山引き戸の重き湯治宿 児島 春野
中七・下五に惹かれる句。(孝雄)
何でもない「引き戸」に目を付けられた作者の、湯治のベテラン然としたところに惹かれました(憲史)
雅司
やや寒や日時計にまだ日の温み 中川 手鞠
日差しも弱くなり日時計も温もりはやや残るくらいの季節とやや寒が響き合いました(美穂)
朋子
迷ひなく石室へ入る秋の蝶 明隅 礼子
「迷ひなく」が切なく、蝶の最期の覚悟のようなものを感じる。(ゆかり)
立哉
放牧の牛の焼き印野分立つ 牧野 桂一
強い風の吹く中、放牧された牛たちと飼い主の奮闘が、目に浮かびます。お互い大変だったのではないでしょうか。(敏)
秋高し大温室の銀の屋根 相沢 恵美子
恭子
潮引いて一本のみち神の旅 荒木 那智子
季語が効いてます(早・恵美子)
むらさきに暮るる夕闇冬来る 齋藤 みつ子
由紀子
火恋し伎楽空音の土舞台 佐藤 博子
渡来した古代の仮面舞踊劇を彷彿させる。(泰一)
稲滓火の日暮の色となりにけり 日根 美惠
春野
空渉るオランウータン秋高し 岡部 博行
冬の夜や白川郷に燈のともり 原 道代
銀漢や渦巻いてゐる巴紋 山本 純夫
彼岸花過去帳寺に封じられ 牧野 桂一
尚
夫の焼くスイートポテト秋うらら 井上 澄江
秋うららですねー(夏江)
羨ましい! 夫は台所に立つ事もなく他界しました(勢津子)
音もなく原潜離岸秋燕 中村 光男
いかめしき物体の離岸とかわいげな燕の離日の対比が良い。(郁文)
南へ帰る秋燕との取り合わせが相応しく、原潜が岸壁から滑るように離れて行く景が見えてきます。(相・恵美子)
静寂の中に帰る燕と静音の中に出立つする原潜の重量感が感じられる句 (余慶)
ラフランス家庭教師のゐる部屋へ 山本 純夫
家庭教師は男性だと思う。問題は、息子か娘か。娘だと思う。(正規)
恭子
行進の先頭卒寿運動会 土屋 香誉子
純夫
秋日濃し海が見たいと誘はれて 合田 智子
恋人でしょうね、これは。(誠治)
海眺めると気分いいですね(みつ子)
アイヌ名の山まつさきに装へり 熊谷 佳久子
秋の訪れですね (幸子)
大雪山系の雄大かつ燃えんばかりの紅葉が目に浮かびます(憲史)
志昴女
秋深し医は仁術と退院す 竹田 正明
「医は仁術」、最近しみじみと実感しています。(哲雄)
医療を超えた仁の深さに弁知を悟り退院するすがすがしさを詠んだ句として秋深しが感応していると(余慶)
ひつそりと夜食の赤い箸使ふ 西脇 はま子
立哉
収録のマイク掠るるそぞろ寒 内村 恭子
史子
夜業明け井戸から生きた水を汲む 早川 恵美子
生きた水は体を潤おしたのでしょう。(順一)
陽子
秋ゆくや大路の架線路地に延び 町田 博嗣
大路では目立たない架線、でも路地に入るとゴチャゴチャと延びて古都の風情もどこかへ・・・。(博子)
荒巻の塩引く程の切り身かな 鹿志村 余慶
薄塩の鮭の切り身が好まれるこの頃ですが、荒巻鮭の塩の効いた切り身でお茶漬けは美味。(美惠)
切干や筵干しする農の庭 鹿志村 余慶
紀美子
神楽舞ふ少女に菊の髪飾り 斎川 玲奈
菊(生花)の髪飾りに少女のまっすぐな視線や一生懸命な姿が浮かびました(律子)
香誉子
冬灯し昔児を背に子守唄 郁文
伊葉
オーダーはタブレットから走り蕎麦 鳩 泰一
目前に寿司職人がいてもタブレット注文。嫌な世になりました。(郁文)
季節限定の伝統の和食との取り合わせが面白い(肇)
タブレット注文のお店増えてきましたね(智子)
道代、香誉子
歳時記の森を巡るも秋燈下 金山 哲雄
歳時記を(季語の)森と捉えたところが良いです(肇)
秋は人を学びの世界へと誘ってくれます。歳時記の森はとてつもなく深いのですが…(律子)
鐘楼は軒深くして暮の秋 河野 伊葉
那智子
青瓢こうべに触れてくぐりけり 相沢 恵美子
雅司
捨てかぬる物増えてゆく冬仕度 河野 伊葉
朋子
水揚げの秋刀魚輝く港町 髙橋 紀美子
立哉、手鞠、百り子
秋の虹ものも言はずに消えゆけり 阿部 朋子
秋の虹のように、儚い縁の方がいたのでしょうか。照れ屋?ツンデレ?(博子)
秋霖やセピアに沈む寺の町 阿部 旭
伊葉、玲子
寒月の秒針のやや遅れけり 齋藤 みつ子
寒月の秒針が新鮮な捉え方。桂一
寒月の冴えた光の中、時の流れが凍りついて遅くなるように感じられる。その詩的感性に瞠目する。(博行)
匠子
冬青空瓦礫に眠る縫いぐるみ 小高 久丹子
縫ぐるみが、青く透き通る冬の青空を見上げる。救われる。(正規)
瓦礫に残され持ち主を待っている縫いぐるみ、好天なのが一層物悲しく感じられます。(春野)
封筒に同封されし秋思かな 森野 美穂
秋10月の郵便に古い友の便りがあった。中には若き我らの旅の写真が封入されていた。帰らぬ春よ。(茂喜)
同封された秋思は人に思いを伝えるのでしょう。(順一)
紀美子
秋うらら稚児の紅緒の木履(ぽくり)かな 斎川 玲奈
七五三の晴れ姿、最近みかけなくなりましたね(智子)
あと半里丸子の宿のとろろ汁 熊谷 幸子
「とろろ汁」の旨さは格別ですね。(孝雄)
楓、志昴女
竹籠に残花を入れて風炉名残 今井 温子
博嗣
木母寺に老母の手引く冬夕焼 内村 恭子
木母寺の梅若伝説を想い季語冬夕焼が何とも心に沁みる。(博美)
玲子
訃報聞く今朝もくるくる林檎むく 長岡 ふみ
読み手によって、異なる句意になるように思いました。(誠治)
歳とともに友の訃報を聞くことも多くなって、いちいち大騒ぎしなくなります。(哲雄)
三枝子
金木犀これより酒蔵香の道 合田 智子
芳彦
冬瓜の三つ残りし店仕舞ひ 明隅 礼子
冬瓜が三つ残っただけなら、今日は良しとしましょう。(哲雄)
店の前をよく通る方?それとも店主?冬瓜が諦められる二つではなく三つ残り、その日の店じまいをする、悲哀やこの先の不安も感じている景と思いました。(敏)
烏瓜赤々点る鍼灸院 荒川 勢津子
鍼灸院がぴったりします(早・恵美子)
四本の竹の幣ゆれ藁こづみ 佐藤 博子
伊葉、香誉子
ゴッホの気分ポプラ並木の秋夕日 永井 玲子
三枝子
すれ違ふ空っぽリフト秋の蝶 榑林 匠子
秋山の景がよく見えます。空っぽのリフトが秋の寂しさを表現しています。(郁文)
陽子
「売り家」の看板の錆吾亦紅 井上 澄江
純夫
バゲットにゴルゴンゾーラユダの日に 小高 久丹子
楓
秋刀魚焼く向田ドラマのやうな家 木村 史子
炭火で焼く秋刀魚の様子が目に浮かびます(智子)
恭子
バーガーの食べ方指南豊の秋 鳩 泰一
口にどうやって入れようかと思う大きく豪華なバーガーたったのでしょうか。豊かな秋のバーガー楽しいです(美穂)
バーガーに食べ方が有ると言うのが新鮮。(順一)
赤蜻蛉声掛け走るランドセル 妹尾 茂喜
露風の里の原風景が想起されます(憲史)
花芒の中に路ありレストラン 上脇 立哉
道代
夜の来る狐来て舞ふ石舞台 日根 美惠
一度訪ねたいと思っている石舞台、狐が舞っているのを見てみたいものだ。(博美)
石舞台には、狐が女性に化けて踊ったという伝説もあるそうです。伝説を上手く取り入れ一句に詠みあげています。(相・恵美子)
匠子
長生きのひょんなご褒美熟柿吸ふ 冨士原 博美
熟柿をご褒美と感じる穏やかさに、良き歳を重ねてこられたように思われます。きっと甘くておいしかったのでしょうね。(敏)
史子
雁渡る地磁気の教へうたがはず 土屋 尚
中七から下五への言葉の流れに感動。 温子
純夫
蔦紅葉小さき御堂の観世音 榑林 匠子
観世音も蔦紅葉を鑑賞しているような。(佳久子)
朋子
ドジャースの十七番着て七五三 永井 玲子
今年の七五三のベストドレッサーですね。(ふみ)
第二の翔平目指し頑張れ!(肇)
アメリカ人に囲まれても何の違和感もない景となった翔平選手は、子供たちの英雄。来年はドジャース一八番を着る子もいるかも(美惠)
今年の七五三 これで決まりのような 親子の笑顔が浮かんできます(久丹子)
日記、道代、尚
香り立つ造花のやうな薔薇一輪 佐藤 律子
香り立つので、造花でない証拠。(佳久子)
落葉して音なく記憶落としゆく 熊谷 幸子
一枚一枚落葉するように記憶が一つずつ欠落してゆく。その恐ろしい過程が「音なく」に集約されている。(博行)
「記憶落としゆく」の表現が効いています。(相・恵美子)
落葉も人も時の流れの中では同じかもしれません(久丹子)
玄関のベルを鳴らして熊が来た 中川 手鞠
音もなくずかずかとやってくる昨今の熊たち。せめてベルを鳴らしてくださいまし!(律子)
冬ぬくしかかりつけ醫は同級生 合田 憲史
頼もしい同級生です(夏江)
膝が痛い。腰が回らぬ。背中が丸い。歩きが遅い。何かにつけて同級生の医師を訪ねる。(茂喜)
レプリカと見えぬ輝文化の日 土屋 香誉子
レプリカとわかっていても思わず唸る出来だが、文化の日をぶつけたことで逆にオリジナルの輝きが浮かび上がってくる。(ゆかり)
ルーブルの例もあります 立派な複製品でゆっくり美術鑑賞をしたい(勢津子)
月今宵チョコひとかけとブランデー 宮川 陽子
由紀子、楓
一天をわがものにし曼珠沙華 木村 史子
曼珠沙華の咲き満ちている景が見える。桂一
曼殊沙華は咲いているだけで存在価値ありますね(みつ子)
芳彦
木簡の伝へる戦真葛原 芥 ゆかり
関雪の日本画で木蘭詩を知りました。戦場の修羅も帰郷できる安堵も想像させて、惹かれる一句です。(博子)
史子、博嗣、日記
一同に困まつた話長き夜 伊藤 正規
「一同」とは「困った話」とは、色々と想像出来て楽しい。(泰一)
長き夜 楽しみとは別に困惑も長引きますね(久丹子)
星に星降る京の夜の秋の霜 松山 芳彦
博嗣
菊の香や陶淵明の詩をふと 今井 温子
こんな句がふと浮かぶようになりたいものです。(ふみ)
菊が香れば、陶淵明の詩が浮かぶ。詩や歌が身近にある生活は憧れです。(博子)
持て余す団栗をまた拾ひ来ぬ 上脇 立哉
団栗もういっぱい採っていて…でもまた「拾ったよ」と。団栗は皆をそんな気持ちにさせる魅力がありますね(美穂)
今年は団栗豊作です。熊のお山のどんぐりも豊作であることを祈ります。きれいな団栗をついつい拾ってしまいます。使う当てもないのに(美惠)
女児の孫がいたとき、決まって寺の境内の団栗を拾った。その子も今は都会で働いている。(茂喜)
志昴女、手鞠、匠子、百り子
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